2013 Fiscal Year Research-status Report
アルメニア「祖国帰還」運動に見る民族アイデンティティの諸相
Project/Area Number |
23520790
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉村 貴之 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (40401434)
|
Keywords | 国際情報交換 / アルメニア / ナショナリズム / ディアスポラ / 共産主義 / シリア・レバノン / 国際関係 |
Research Abstract |
第二次大戦後、国外のアルメニア人がソヴィエト・アルメニアへ移住する決意をした背景にアルメニア「本国」の宣伝があったことは言うまでもないが、その宣伝が国外の親ソ派アルメニア人勢力の民主自由党やアルメニア慈善協会が各国のアルメニア系メディアで増幅されたことも重要である。第二次世界大戦後のレバノンで発行された親ソ系の新聞『ルネサンス』では、ソヴィエト・アルメニアが在外アルメニア人にとって「祖国」であると理想化するにとどまらず、第二次世界大戦末期にソ連邦政府がトルコ政府に対し、19世紀末から第一次世界大戦時までロシア帝国が領有していたアルメニア人居住地域であるカルスやアルダハン地方の割譲を求めたことを盛んに宣伝している。 これは在外アルメニア人に対し、ソ連邦が第二次世界大戦の戦勝国として国際的評価が高まっていたという間接的な影響ではなく、ソ連邦に属するアルメニア「本国」が、アルメニア人社会の庇護者として認識されるようになるという直接的な影響を与えることになった。これによって在外アルメニア人社会に親ソ的な世論が醸成され、移住の機運が高まったと考えられる。 一方、こうした社会状況の下で、当初はアルメニア人「本国帰還」運動を容認していた反ソ派アルメニア人勢力のダシュナク党の中東総本部において、1947年の5、6月に、冷戦の昂進を背景として反共主義の新ダシュナク・グループが主導権を握り、親ソ派のフンチャク党とシリアやレバノンで抗争事件を繰り返すようになり、以後「本国帰還」運動の妨害に乗り出すようになったことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
シリア内戦のためにシリアでの史料取集は断念し、さらに隣国の内戦の影響でレバノンも政情不安に陥っていることから、他の研究費との合算で行うはずだった史料調査の期間を予定よりも短縮することを余儀なくされ、研究仮説を実証する定期刊行物が若干不足している。
|
Strategy for Future Research Activity |
シリアでの史料収集は断念し、シリアのアルメニア系定期刊行物の分析は、レバノンやアルメニア本国に保存されているもののみで行う。今年度は、一昨年のアルメニア本国で行った共産党が「本国帰還」したアルメニア人をどのようにソヴィエト社会で処遇したかについての文書館調査を継続する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していたレバノンでの史料調査の期間を短縮したため。 次年度はアルメニアならびにレバノンへ長期出張することで未使用分を吸収する。
|
Research Products
(2 results)