2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520791
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
渡邉 純成 東京学芸大学, 教育学部, 助教 (10262221)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 満洲語 / 儒教思想史 / 医学史 / 清朝史 / イエズス会 / 記述文法 / 東アジア科学史 |
Research Abstract |
震災や金融危機の影響で成果の印刷が遅れている。また、資料の新規収集を延期し、本年度は既収集資料の整理と分析を優先した。(A)『満文日講書経解義』全巻、『満文性理真詮提綱』全巻、『満文王叔和脈訣』全篇、『西洋薬書』全篇などの電子テキストを作成し、満文儒教文献については既入力分と合わせて約380万字(翻字後のASCIIファイル、以下同じ)のデータを、満文天主教文献については既入力の『満文天主実義』と合わせて約50万字のデータを、満文医学文献については既入力分と合わせて約80万字のデータを、構築した。(B1)以上の電子テキスト群の語彙と文法を分析し、満文天主教文献の成立順序を推定した。満洲語文末に現れる単語inuの統語論的挙動が、母語話者と欧州人とで異なることを発見した。前者ではモダリティのみを担う終助詞として、後者ではコピュラとして、振る舞う。後者の挙動は、『満文算法原本』と『満文算法纂要総綱』では大量に、『格体全録』では僅少ながら観察される。『格体全録』の用語にはスコラ哲学用語が残ることも、わかった。各イエズス会士の満洲語運用能力や満文科学文献への康煕帝の関与の程度に関して、以後、精密に検討すべき課題が現れた。(B2)やはり電子テキスト群の分析を通じて、満文儒教文献の一般語彙は、他の分野の満文文献と同様に、ゆるやかな時代変化を見せることがわかった。儒教語彙に見られる断続的な変化と対照的である。(C)『西洋薬書』の全文を和訳した。キナ樹皮の投与法が詳細に解説され、『格体全録』でマラリアの病理と経過が詳細に解説されるのとは相補的である。宝石の魔術的治癒力に基づく高貴薬も見られ、当時の西欧の中世的な臨床医療が窺われるが、瀉血にはほとんど言及されない。副産物として、満洲語医学用語複数を解明し、また、康煕帝の諭旨にみえる医薬品なども同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既収集の満文儒教/カトリック文献の翻字テキストの作成については、順調に進んだ。分量が多いため校正に時間を費やしているが、平成24年度内には『満文日講書経解義』など数種を印刷して,言語学や東洋史や中国思想史などの関連分野の研究者に提供できる段階に、漕ぎ着けた。校訂本の作成を予定していた『格体全録』については、作業中に、イエズス会士の満洲語の特異性を考慮し解明する必要があることが判明したため、満文カトリック文献を組織的に収集・分析し、満文儒教文献と比較したところ、満洲語の語彙・文法・文体に関して予期せざる発見が複数あった。研究者の少なさから、満文科学書に関しては本研究が決定版となってしまう可能性が高いため、慎重を期して、これらの発見の確定を優先した。『西洋薬書』の分析が順調に進み、いくつかの薬品の同定が済みしだい発表可能になっている。これらは、『格体全録』の訳注を作成する際にいずれは必要となる作業であるので,手順の前後は生じたものの、『格体全録』の校訂・和訳・訳注作成という本研究の到達点のひとつに向けて、着実に進んでいる。上記の新発見によって、満文数学文献にも、新たな視点と解明すべき問題点とを得た。満文儒教文献については、言語の時代変化に関して定量的なデータを得つつある。本研究の現時点での達成は、当初の予定とは食い違いをみせているが、研究手順を変更したことと、対象の予想外の豊富さを発掘できたこととに起因している。したがって、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
延期していた内外における資料収集を、今年度以降に実施する。満文儒教文献の言語面の共時的・通時的分析は、構築済みの電子テキストを活用しつつ継続する。必要に応じて、『満文日講易経解義』(繋辞伝以外)などの新規入力も行ない、思想・科学文献の読解に必要な順治~雍正間の満洲語文語の語彙・文法の解明を進める。康煕『満文大学衍義』の翻訳の底本が文字獄の影響を受けていないなど、清朝の文化政策に関して興味深い現象も発見しており、歴史学の観点からの分析も開始するべき時期に来ている。『格体全録』の諸本を対校し、校訂本文を作成するとともに、満文カトリック文献の研究成果を活用しながら、和訳を確定し訳注を執筆する。必要に応じて、解剖学史研究者とも共同し、医学的内容を検討する。『西洋薬書』については薬品名の同定を済ませ、成果を公表することに務める。満文数学文献で、『満文算法纂要総綱』後半など、未収集のものを収集し電子化する。満文カトリック文献の研究成果を活用しながら、満文科学書の編纂過程について、満文文献から内的な情報を可能な限り引き出すことに務める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
残額64万円弱は、当初に予定していた満文儒教文献の翻字テキストの印刷・配布が遅れたために発生した。平成24年度前半には、前年度に準備中であった『満文日講書経解義』など2種の整理後のテキストを印刷し、関連分野の研究者に研究資料として配布する。この印刷費および通信費に、前年度残額を充てる。満文カトリック文献の翻字テキストについても、各所蔵機関の同意が得られしだい印刷し、関連分野の研究者に配布する。満文カトリック文献の言語学上の意義は極めて限定されているため、印刷は少部数で充分であり、印刷及び通信費として12万円を予定している。本研究は、研究素材としての文献収集が極めて重要であるが、内外の所蔵機関における文献複写費として、28万円を予定している。震災の影響もあって延期した内外における資料収集、および成果発表のための旅費として、45万円を予定している。また、近年の研究成果を吸収するための科学史・東洋史・中国思想関連図書の購入費として10万円、収集した資料の整理や分析に必要な文房具やPC関連の消耗品に、5万円を予定している。
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Research Products
(3 results)