2011 Fiscal Year Research-status Report
徳川儒学思想における清朝学術の受容:徂徠学以降の思想展開をめぐる新たな枠組の模索
Project/Area Number |
23520797
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 准教授 (30311898)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 徳川儒学思想 / 清朝考証学 / 舶来漢籍 |
Research Abstract |
研究の初年度として、敢えて徂徠学以降の時期の時系列に沿って調査を進めるのではなく、清朝学術の重要著作が徳川日本に如何に受容されたのかという観点から、この研究プロジェクト全体の見通しをたてようとした。 1、清朝学術を代表し乾隆・嘉慶年間(1736-1820年)に最盛期をむかえる「清朝考証学」が移入する文化・文政年間(1804-1830年)を中心に、徳川幕府周辺の知識人たちの清朝学術受容と清朝認識について調査・研究を行った。(1)主に紅葉山文庫、昌平坂学問所、林家の旧蔵書を含む国立公文書館内閣文庫の蔵書について書誌調査を実施し、今日「清朝考証学」の古典として知られている諸作品の日本への移入時期を特定し、それらをめぐる読者の反応を調査した。(2)同時期に書物奉行を務めた近藤正齋が、清朝の紀昀編『四庫全書提要』における漢籍分類法に従って唐船による舶来漢籍を整理していたことは知られているが、この『四庫全書提要』が江戸儒学界で漢籍蒐集と出版に果たした役割をより具体的に探ることに力を注いだ。また(3)徳川日本で影響力があった乾隆期の学者のうち、袁枚・趙翼の著作受容とその反響について特に注目して調査をすすめた。 2、魏源が実質的な編者を務めて道光年刊に刊行され始めた『皇朝経世文編』の、徳川後期日本における受容の調査にも本格的に着手した。 これらの調査と分析にもとづく研究成果の発表として、ソウルやトロントで開催された国際シンポジウムや国際学会に参加して、分科会で研究報告を行った。その学会提出原稿(韓国語や英語)をめぐって、韓国、中国、アメリカ、オランダの漢詩文や東アジア思想史研究者たちと意見交換を行い、今後の研究にむけた建設的な批判を受けることができた。また、従来の研究から今回の研究プロジェクトに議論を繋ぎ、この研究プロジェクトの問題関心と出発点を示す論文を公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定にはなかったが、ソウル大学で開催された「18世紀東アジアにおける知識集成」を主題とする国際シンポジウムに招聘されて研究報告を行い、またトロントで開催された国際学会にも参加し、「中国学習と日本の権力:19世紀の合理主義・知識・国家」をテーマとする分科会で報告を行った。両学会に提出した韓国語と英語の論文をめぐって、各国の漢詩文研究者や東アジア思想史研究者たちと意見交換を行い、次年度以降の研究にむけての批評を受けることができたのは非常に有益だった。具体的には、前者のシンポジウムにおいては、韓国の研究者からは同時期の日韓の儒者の比較として、漢詩文と経史学の担い手に役割分担があった朝鮮に対して、両者を同時に追究した点に徳川中期以降の日本の儒者の特徴があるのではないかとの示唆をうけ、後者の英語圏の学会では、東アジア諸国における清朝学術の同時代的受容に積極的に焦点をあてる本プロジェクトは今後日本の学界のみならず東アジアや欧米の学界における新しい一つの研究潮流になるのではないかという指摘をうけた。これらの学会を通して広がった海外の研究者たちの人的ネットワークは、今後もこの研究を進めるうえで活用できると思われる。本年度はそのほかに、従来の研究をいかし今回のプロジェクトにむけた試論を紀要論文として発表することができた。これに対してもすでにいくつかの関係研究者からの反応が寄せられており、次年度以降の研究を進めるうえで示唆となるコメントも少なくない。個別の論点でさらに詰めるべき課題は多いが、初年度の研究としては、おおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究プロジェクト全体的見通しを立てるため、初年度は清朝学術の重要著作に注目して徳川日本への受容問題を探ったが、研究第二年目には、初年度の全体像の見通しと試論の欠を埋めるべく、より時期を限定し時系列に沿って調査を進めたい。ただし、実証的な書誌研究として、唐船舶載本の書名を確認して、徳川日本に移入された清朝学術の側面とその性格を確定させることには何ら変更はない。 第二年目は、とくに徳川日本に清の順治・康煕年間(1644-1722)の書籍が移入する時期を中心に調査・研究を行い、また「折衷学派」として括られてきた儒学者の思想を再検討する作業を進める。具体的には、明・清学術の受容を検証する視点から「折衷学派」として括られてきた井上蘭台、細井平洲、片山兼山、井上金峨、豊島豊洲、冢田大峰、山本北山、亀田鵬齋、樺島石梁、猪飼敬所、仁井田好古、青山拙齋、朝川善庵らの学問を捉え直す。いずれも先行研究の蓄積がある対象だが、本研究では、彼らの儒学理解の理論的背景にある、明朝と清朝の学問認識とその学問評価の点から史料を読み直したい。 初年度には国際シンポジウムや国際学会を通して海外の研究者たちから本プロジェクトに対する批評をうけたが、第二年目は、第三年次に札幌での開催を予定している東アジア・ワークショップ「徳川儒学思想における清朝学術の受容」にむけて、とくに日本国内での研究会を通じて、政治思想史のみならず関連分野(日本近世史・日本思想史・東洋史・中国思想史)の研究者たちと意見交換を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究成果である紀要論文(『北大法学論集』2012年3月刊)の抜刷の納品が遅れたために、残額が生じた。この経費は当初計画していたとおりに、次年度初めに納品される論文抜刷の印刷代金と関係者への郵送費に充てる予定である。
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Research Products
(7 results)