2012 Fiscal Year Research-status Report
徳川儒学思想における清朝学術の受容:徂徠学以降の思想展開をめぐる新たな枠組の模索
Project/Area Number |
23520797
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (30311898)
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Keywords | 徳川儒学思想 / 清朝考証学 / 舶来漢籍 |
Research Abstract |
初年度、本研究プロジェクトの問題関心を示す試論を公刊し、清朝学術の徳川日本への受容についての見通しをたてたが、第二年度である本年度は、公刊後にうけた批評を踏まえてより議論を精緻にすべく、いくつかの対象に限定して調査し分析を深めた。 1、享保年間の徳川吉宗周辺の儒者たちが、順治・康煕年間までの清朝学術移入の出発点となると考えられるため、紀州藩における校勘学の発達および明朝・清朝学術の受容について、洋装活字本に収録されていない自筆稿本や関連史料の調査し、その内容分析を行った。和歌山大学附属図書館紀州藩文庫の蔵書について書誌調査を実施し、榊原篁洲・高瀬学山から仁井田南陽・山本楽所に至る同藩藩儒の編著作を中心に、明朝から清朝へと移り変わる学術受容の実態を探ることに力を注いだ。 2、文化・文政年間を中心に、徳川幕府周辺の知識人たちの清朝学術受容について調査・研究を行った。主に紅葉山文庫、昌平坂学問所、林家の旧蔵書を含む国立公文書館内閣文庫の蔵書について書誌調査を実施し、先行研究にも導かれつつ学問所の出版物である官板刊行に関する史料および刊行本選書の過程を確認した。また一連の官板刊行を主導した林述齋ら林家と、従来日本の「考証学派」として括られてきた近藤正齋、松崎慊堂らの清朝考証学の影響をうけた江戸の知識人の学問や文芸結社における交流が、学問所の学問や官板とどのように関係していたのか明らかにしようとした。この過程で、森鴎外の史伝作品とその残存する素材にも注目し、研究上の示唆を得ようとした。 3、昨年度より着手した『皇朝経世文編』の徳川期日本における受容の調査と、その内容分析を継続して行った。 これらの調査と分析にもとづく研究成果として、幕府の学問所の官板に関する論考を公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、国際シンポジウムと国際学会で報告を行い、紀要論文として本プロジェクトの暫定的な見通しを発表して、複数の関係研究者から有益な示唆をいただいた。初年度に寄せられた反応をうけて、さらに個別の論点を詰めることが、本年度の課題であった。当初の研究目的である「徂徠学以降の思想展開をめぐる新たな枠組みの模索」に繋げるためには、漢詩文と経史学とを同時に追究した徳川中期以降の儒者が清朝学術の同時代的受容に積極的に取り組んでいた事例を数多く検証していくほかないと考えている。時代・地域・書籍などは異なるが、いくつかの事例に絞って本年度の研究を進めた結果、対象と関心が拡散することなく一貫した方法で分析が進められた。次年度以降に課題を残し、年度内に公表できた成果は少ないが、第二年度の研究としては、おおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究第三年目は、限られた期間で当初の研究目的をみたす成果をあげるべく、引き続き課題に照らし合わせて対象を絞込みつつ、調査を進めたい。とくに徳川幕府周辺の知識人たちに乾隆・嘉慶年間に最盛期をむかえる清朝考証学が移入する文化・文政年間を中心に調査・研究を行う。従来研究を重ねてきた昌平坂学問所の儒者たちの考証学との関連についてもさらなる検討を行う。 資料調査・蒐集のためには、国立公文書館などへの国内調査研究旅費が必要となる。また研究打ち合わせや研究会による国内の関連研究者たちとの意見交換が有効であり、札幌からの国内旅費を要する。文献調査では、自ら史料を撮影した場合には紙焼きのための複写費が、また諸史料を専門業者に依頼した場合には、マイクロフィルム現像費や紙焼きを含めた複写費と製本費がかかる。 また年度内に「徳川儒学思想における清朝学術の受容」と題する東アジア・ワークショップを札幌で開催し、近世中国・朝鮮思想史・文学史の専門家たちからそれぞれの分野での研究状況と課題を提起してもらい、各人の個別研究の成果を共有する。またその会合において、これまでの本プロジェクトの成果と方向性について多様な角度から批判を受け、最終年度の、清朝学術の移入段階ごとに江戸儒学に共時的に現れる学問方法と特徴についてのまとめと新たな枠組み提示の作業につなげる。ワークショップに中国・台湾・韓国の思想史研究者たちを招聘するため、招聘のための旅費と専門的知識の提供を受けた場合にはそれに対する謝金を要する。 本研究の学問水準を保つためには、DVD-Rなどの電子資料を含む資料集や最新の研究書を揃えて活用することが欠かせない。近世日本史関係図書・東アジア近代史関連図書・政治思想関係図書を購入して、国内外の学術界の動きを把握し、関連の諸研究の成果を共有する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、時期を限定し時系列に沿って広範囲に調査を進める予定でいたが、出張にあてられる時期と期間が限られていたことから、時代・地域・書籍出版の各特性に鑑みて、対象を研究主題にとって不可避なものに絞り込むとともに、時期を限定するのではなく複数の時期にまたがる対象を扱い、書誌調査の回数を減らさざるを得なかった。そのため、今年度予算の国内調査経費の一部を次年度に使用することになった。この分は、新たに訪れる必要が生じた石川県立図書館および金沢市立図書館の調査経費と、新たに調査が必要となった近世文芸関連文献の購入・複写として使用する。以上の変更をふまえて、次年度は、「折衷学派」「考証学派」の文献等の収集、東アジア・ワークショップでの関連研究者との意見交換や成果発表を行いたい。
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Research Products
(1 results)