2013 Fiscal Year Research-status Report
徳川儒学思想における清朝学術の受容:徂徠学以降の思想展開をめぐる新たな枠組の模索
Project/Area Number |
23520797
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (30311898)
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Keywords | 徳川儒学思想 / 清朝考証学 / 舶来書籍 |
Research Abstract |
昨年度までの本研究プロジェクトでは、徳川儒学思想における清朝学術移入について対象を絞って調査してきたが、本年度は、徂徠学以降の展開を日本における儒学古典の校勘学の発達および明朝・清朝学術の受容のより広い文脈のなかで位置づけるために、検討対象を、徳川期以前の足利学校や徳川初期の伏見学問所の圓光寺の収集書籍や出版活動にも拡げた。その際は、特に以下の二点の研究に比重をおいた。 1、日本の儒学古典の校勘学の発達史と清朝学術移入後の考証学の関連を探るために、足利学校の調査は不可欠であった。そのため、足利学校遺蹟図書館の蔵書および国立公文書館内閣文庫所蔵の足利学校関係史料について書誌調査を実施し、「足利学校記録」も参照しつつ、同校訪問を通して校勘学や考証学の分野で業績を遺した儒者たちの編著作を中心に、足利学校蔵書との関連を検討した。とくに享保期の徂徠の弟子、山井崑崙・根本武夷・太宰春台から、「折衷学派」として括られる井上金峨・亀田鵬齋、また「考証学派」の吉田篁とん・新楽閑叟・狩谷えき齋・近藤正齋・市野迷庵、さらに安政期の森枳園・澁江抽齋に至る足利学校来訪の儒者について、視角をしぼり校勘学と考証学の学問活動の実態を探ることに力を注いだ。 2、昨年度に引き続き、文化・文政年間を中心に、徳川幕府周辺の知識人たちの清朝学術受容について調査・研究を行った。森鴎外の史伝作品や先行研究にも導かれつつ、清朝考証学の影響をうけた江戸の知識人の学問や文芸結社における交流を分析した。とくに『慊堂日暦』を仔細に検討し、従来研究で取り上げた儒者たちと江戸を拠点に松崎慊堂を囲む文人・知識人たちとの知的関係を探ることは、上記の第一点を補う作業にもなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画として当初、各地に散在する儒者が清朝学術の同時代的受容に積極的に取り組んでいた事例を、時系列的に、数多く検討することを想定していた。しかし、限られた期間で成果を生むためには、一貫した方針にもとづいてより対象を絞り込む必要があった。本年度は、学術受容の拠点としての江戸儒学の動向を、足利学校の蔵書調査や校勘作業と関連させて検討した。これにより、初年度の研究より引き継いだ課題である、考証学を同時代的な外来の思想と方法の受容だけでなく、それ以前より日本儒学史で行われていた校勘学の文脈の中で捉えるための手がかりがつかめたと考える。個別の事例を関連づけて見解をまとめ、新たな思想史上の枠組みを示すためには、さらなる検討が必要である。漢詩文と経史学との双方の関連づけにもなお課題を残しており、成果の公表は最終年度にもちこされたが、第三年度の研究としては、おおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトの最終年度である研究第四年目は、これまでの調査研究を踏まえ、徂徠学以降の徳川儒学思想史の展開をめぐり新たな枠組みを提示すべく、研究会報告や論文執筆を行い、多方面から批判を受ける機会を設ける。報告準備や論文執筆にあたり、従来の調査では不十分な側面について、補足的な資料蒐集を行う。 資料調査・蒐集のためには、国立公文書館などへの国内調査研究旅費が必要となる。また研究打ち合わせや研究会による国内の関連研究者たちとの意見交換が有効であり、札幌からの国内旅費を要する。文献調査では、自ら史料を撮影した場合には紙焼きのための複写費が、また諸史料を専門業者に依頼した場合には、マイクロフィルム現像費や紙焼きを含めた複写費と製本費がかかる。 また「徳川儒学思想における清朝学術の受容」と題する東アジア・ワークショップを札幌で開催し、近世中国・朝鮮思想史・文学史の専門家たちからそれぞれの分野での研究状況と課題を提起してもらい、各人の個別研究の成果を共有し、清朝学術の移入段階ごとに江戸儒学に共時的に現れる学問方法と特徴についてのまとめと新たな枠組み提示の作業を行う。ワークショップに中国・台湾・韓国の思想史研究者たちを招聘するため、招聘のための旅費と専門的知識の提供を受けた場合にはそれに対する謝金を要する。 DVD-Rなどの電子資料を含む資料集や最新の研究書を揃えて活用することは、本研究の学問水準を保つ上で欠かせない。近世日本史関係図書・東アジア近代史関連図書・政治思想関係図書を購入して、引き続き国内外の学術界の動きを把握し、関連の諸研究の成果を共有する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の調査を進める過程で、「折衷学派」と「考証学派」の研究を進めるためには、足利学校関係の史料を調査し、近世儒学思想史における校勘学・考証学の意義の確認が不可欠であることが明らかになった。徂徠学以降の主な考証学者たちのほとんどが足利学校に来訪して蔵書・史料調査を行っており、各地の史料を広範囲に調査するよりも、足利学校という機関とその蔵書群を軸に検討した方が問題状況の把握には有効であると判断した。そのため対象を絞り込み、国内各地での史料調査の回数を減らさざるを得なかった。 また、当初今年度に関連研究者を一堂に会した東アジア・ワークショップの実施を予定していたが、日本思想史上での校勘学の位置づけ、またそれと「折衷学派」の関係について定まった見解をもった上で国際比較を試みた方が、有意義な検討できると考えた。そのため、ワークショップの時期を次年度にずらして開催時期を調整することにした。 今年度予算の国内調査経費や図書購入費の一部は、次年度の調査経費や文献購入費として使用することにする。具体的には、当初今年度に予定していた石川県立図書館および金沢市立図書館の調査経費と、近世文芸関連文献の補充的な収集・複写代として使用する。また、ワークショップ実施を次年度に延期したため、その開催経費をそのまま次年度に繰り越して使用する。
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Research Products
(1 results)