2014 Fiscal Year Research-status Report
徳川儒学思想における清朝学術の受容:徂徠学以降の思想展開をめぐる新たな枠組の模索
Project/Area Number |
23520797
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (30311898)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 徳川儒学思想 / 清朝考証学 / 舶来漢籍 / 儒礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトのとりまとめへ向けて、これまでの研究活動を総括する研究論文の執筆とその口頭報告に力を注いだ。昨年度まで、徳川儒学思想における徂徠学以降の展開を、日本における儒学古典の校勘学の発達および明朝・清朝学術の受容の文脈のなかで位置づけようと試み、多くの論点について検討を重ねてきたが、今回は儒礼の認識とその実践に焦点を絞ってまとめ上げることにした。 1、享保期から天保期までの徳川幕府周辺の知識人たち、とりわけ林家とその門人たちに絞りつつ、彼らの清朝学術受容を儀礼の側面から調査・研究した。東京大学史料編纂所の林家文書や国立公文書館内閣文庫の林家旧蔵書などを調査して、林家蔵書と彼らの書き残した著作内容を関連づけながら分析した。また林家門人や昌平坂学問所儒者についても、同様の手法で接近した。蔵書と著作内容を関連づけた思想史研究は、本研究プロジェクトで従来より試みてきた分析方法であるが、明朝・清朝学術の受容を明らかにする上で有効であるとの確信を強めた。 2、同時代の中国や朝鮮の儒礼との比較のなかで、徳川日本における儒教儀礼、とりわけ家礼や釈奠儀礼の受容とその変遷を、その認識や実践の根拠となる著作にまで遡りつつ検討した。宗教遺産学研究会で行った報告「昌平黌の釈奠改革」は、その寛政年間の昌平坂学問所の孔子祭祀をめぐり試論を述べたものである。その後、検討時期と対象を拡げて検討し直し、大幅に改稿した内容を、国際シンポジウムへの提出ペーパー「日本における儒礼の受容と展開」としてまとめ上げ、口頭報告を行って国内外の研究者から批評を受けた。また、20世紀日本における儒教思想の研究史を踏まえて本研究の意義を明確にし、さらに徂徠学以降の儒礼受容と実践について一般化を試みた改訂稿「神の憑依するところ:昌平黌釈奠改革と徳川日本の儒礼受容」を、2015年2月開催の研究会に提出・報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究プロジェクトの総括の一つとして、「徳川儒学思想における清朝学術の受容」と題する東アジア・ワークショップを札幌で開催する予定であった。しかし、個別研究成果の共有を、開催前にさらに時間をかけて入念に行う必要が生じたため、また、海外から招聘予定の研究者との日程調整の結果、事業期間延長申請をしてワークショップを先送りし、次年度に開催することになった。ただし、国内外のいくつかの研究会やシンポジウムにおいて、本研究プロジェクトの成果を口頭報告や提出ペーパーをとおして公表し、関係分野の研究者たちから批評を受ける機会を本年度は数度もっている。そのため、当初の研究計画から大幅に遅れをとっているわけではない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査研究の成果や口頭発表における反応を踏まえ、徂徠学以降の徳川儒学思想史の展開をめぐる論文発表を行い、引き続き多方面から批判を受ける機会を設ける。 とりわけ諸事情により昨年度実施できなかった、「徳川儒学思想における清朝学術の受容」と題する東アジア・ワークショップを札幌で開催し、近世中国・朝鮮思想史・文学史の専門家たちからそれぞれの分野での研究状況と課題を提起してもらい、各人の個別研究の成果を共有し、清朝学術の移入段階ごとに江戸儒学に共時的に現れる学問方法と特徴についてのまとめと新たな枠組み提示の作業を行う。 また、前年度までの研究会や国際シンポジウム提出ペーパーを、その後の内容検討を踏まえて改訂し、そこで扱った個別的で多様な主題から国際比較のなかで一般化できる枠組みを抽出するよう心がけたい。既存の論文草稿でも、対象と論点が多岐にわたり一論文としては内容が複雑なため、個別の主題を扱ういくつかの論文と枠組み提示の論文に分割して公刊することも検討したい。
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Causes of Carryover |
本研究プロジェクトの総括の一つとして予定していた東アジア・ワークショップの開催を、次年度に延期したことによる。ワークショップにあたり、参加者予定者間で個別研究成果の共有を事前に行い、より入念に論点のすりあわせをする必要が生じたこと、また、海外から招聘予定の研究者との日程調整の結果、予定していた日程で開催できないことになったことが原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ワークショプ実施を延期したため、その開催経費をそのまま次年度に繰り越して使用する。ワークショップにおいては、近世中国・朝鮮思想史・文学史の専門家たちから、本プロジェクトの成果に対する批評を受け、次なる課題に向けての示唆を得る。国際的な比較思想史の観点からの成果の検証を行うため、国内外の思想史研究者たちを招聘し、そのための旅費と専門知識の提供に対する謝金を要する。ここでの意見交換をもとに、本研究の最終成果をとりまとめる。 公刊を予定している論文草稿を改訂すべく、検討不十分な点について補足的な調査を行う。資料調査・蒐集のためには、国立公文書館などへの国内調査研究旅費が必要となる。本研究の学問水準を保つため、近世日本史関係図書・東アジア近代史関連図書・政治思想関係図書を購入して、引き続き国内外の学術界の動きを把握し、関連の諸研究の最新の成果を共有する。
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Research Products
(4 results)