2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520813
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
岸本 覚 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (80324995)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 藩祖神格化 |
Research Abstract |
本年度は、明治維新期の薩長両藩の神仏分離を考察するにあたって、キリシタンの影響に重点を置く調査と、国内の事例調査を行った。まず、8月イギリスに調査に行き、幕末の長州藩士・薩摩藩士・岩倉使節団とキリスト教に関わる接点や墓地などの実地調査を行い、国立公文書館、大英図書館などで関係資料を収集した。その結果、キリスト教との邂逅が、近代日本の神仏分離・神道国教化において重要な意義を持ったことを確認した。とくに薩摩藩のキリシタンへの傾斜は今後深めていくべき課題で、実際に鹿児島での調査が必要である。また、国内調査として、土佐藩主と徳島藩主の墓地調査とその関係文献の調査を行った。調査箇所は、高知市の山内神社、山内家墓所、徳島市の蜂須賀家墓所(興源寺、万年山)、国瑞彦神社、文書は、高知県立図書館、徳島県立図書館、徳島県公文書館である。山内神社は現在実地や文献の調査をされている学芸員から直接説明を受けることができた。これについては今後継続調査の必要がある。 日常的には、方法論を深める作業として、フランス革命期の非キリスト教化運動や市民宗教の著書の講読を実施し、専門家と意見を交換した。著書は、Suzanne DesanItheaca"Reclaiming the sacred"である。 本年度の成果としては、津和野藩祖亀井茲矩の顕彰と神格化・年回忌について雑誌に掲載した(「旧領主の由緒と年忌」、『歴史評論』743)。これは、近世後期から幕末維新期にかけて国学者などで注目されてる津和野藩と、その藩祖墓所を有する鳥取藩、さらにそれを引き受ける地域社会との関係を論じたものである。これは年回忌という仏教儀礼に基づくものであるが、それだけではなく、神格化の動向も併せ持つ興味深い事例である。こうした領域を異にする事例も視野に入れていく必要性を提起したものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)キリシタン問題との連関は、海外調査を入れることで、薩長両藩の神仏分離の調査を行う歴史的背景と世界規模での視野を入れることができた。よく知られているように、薩長両藩は、幕末期に留学生を派遣した藩である。とくに薩摩藩は、キリシタンに転宗した藩士を少なからず出したことで知られており、薩摩藩が否応なくキリシタンと日本の宗教の問題に直面したことがわかった。また、岩倉使節団においても浦上キリシタン問題への対応を何らかの形で欧米諸国に説明しなくてはならず、宗教問題は喫緊の問題であった。こうした薩長両藩と明治新政府の宗教問題に関わる調査ができたことは、重要な収穫であると言える。(2)土佐藩山内家、徳島藩蜂須賀家の両藩は、幕末期の政治史で重要な役割を果たすが、両家が持つ自己認識は、藩祖の神格化とも関係があることが今回の調査で確認できた。具体的な資料は、長州藩ほど多くあるわけではないが、同様な方向性を持ち、歴代藩主廟もそれぞれ独自の方法を模索しており、興味深い。とくに徳島藩は両墓制を採用する珍しい藩で、こうした方法を採用する背景や藩祖の神格化がどのような問題があるのかを考えることができるであろう。(3)論文掲載についてであるが、初年度において、藩祖顕彰に関わる研究成果を発表できたことで、今後多くの研究者との意見交換などを行う素地ができ、科研の期間中にさらなる研究の深まりを期待できるものと考えている。(4)現段階での課題であるが、本年度は、キリシタンへの問題に重点を移したことで、鹿児島への調査を実施することができなかった。これが次年度以降に影響を及ぼさないような配慮が必要である。また、思想的な背景としての調査が、該当資料機関の長期閉鎖などにより実施することができなかった。 以上、若干課題もあるものの、全体としての進行はおおむね順調と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)まず、第一にキリシタン問題と藩祖神格化との関係である。本研究の課題を深めるためには、23年度の成果が重要であることは前述してきたが、方法としては、浦上キリシタン問題が薩摩・長州双方(あるいはその他の諸藩)にどのように受け止められていたのかを具体的に見ていく必要がある。そのためには、国立公文書館の資料や流刑地である22の地域の資料を収集し、それを薩長両藩と比較していく工夫が必要だろう。長州藩ではとくに小野述斎や杉民治の存在が大きいことがわかっていることから、その資料収集が求められる。(2)次に、思想的背景と真宗僧侶についてである。世界的な動向と、日本の思想的な動向との接点に視野を向けることにもこの研究の進展には欠かせない。思想的な背景には、長州藩の山縣太華と近藤芳樹の存在は欠かせないし、さらに長州藩からはキリシタン問題や神道国教化に関わる明治初期の宗教問題の中心的な役割を担う真宗僧侶が続出する。この点をキリシタン問題と重ねながら考えていく必要がある。(3)最後に、九州・中国・四国地方を視野に入れるという点である。23年度の国内調査で、いわゆる「西南雄藩」の枠組みはそれなりに重要な位置を占めることがわかった。もちろん、政治的な勢力を持つ諸藩だけでなく、地域的に九州・中国・四国地方の視野を持ち続けておく必要があり、今後出来る限りの関連資料の収集が望まれる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)薩長両大名家における神仏分離と藩祖祭祀の調査については、24年度は、薩摩藩関係史料の調査を継続し収集史料の整理・分析を実施する。調査予定地は、島津家の資料を有する鹿児島歴史資料センター黎明館および尚古集成館である。また、長州藩については、支藩(徳山毛利家)の史料を山口県文書館徳山毛利家文書、周南美術館所蔵徳山毛利家文書、周南市立中央図書館所蔵徳山毛利家文庫などで調査する。(2)次に、長州藩の思想的動向の調査についてであるが、萩藩の儒者山縣太華・国学者近藤芳樹についての資料収集を文書・文庫に双方にわたって実施する。さらに山縣太華との関連で村田清風についての新史料調査を行う。調査予定地は、近藤芳樹・山縣太華については山口県立図書館、山口県文書館、萩市立図書館で、村田清風については村田清風記念館を予定している。関連して、真宗僧侶に関わる資料についても収集をはじめたい。24年度は島地黙雷などの刊行資料を中心に進める。(3)三番目に、明治政府の国家祭祀・社寺政策の整理であるが、明治政府の祭祀と社寺政策の資料を収集し、九州・中国・四国地方の旧領主神社創建に関する史料の収集を図る。調査予定地は国立国会図書館・国立公文書館である。(4)方法論的な学習と研究交流については、23年度の講読を継続しつつ、今年度は研究会では欧米における宗教史研究の現状や非キリスト教化運動研究や市民宗教に関わる議論を行い、明治維新期における差異を検証する。
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Research Products
(1 results)