2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520815
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
西別府 元日 広島大学, 文学研究科, 教授 (50136769)
|
Keywords | 時範記 / 中右記 / 鹿跡坂 / 駅家 / 粟倉荘 / 宿 / 王朝国家体制 / 国司 |
Research Abstract |
文書・記録・編纂物という文献史学のオーソドックスな研究対象について、ヒト・モノの移動や中央集権的物流の具体相を反映する史料を丹念に収集するとともに、古代官道を継承する道路沿線の地域にどのような社会的変化がみられるのか、考古学的情報も集積しながら、平安時代中後期(王朝国家体制期)の交通システムを検証し、その後の交通体系への移行を展望することが本研究の目的である。そのために研究の過程を、「史料収集」「文献学的考察」「考古学的資料収集」「地域史的考察と整理・制度史的考察と整理」の各工程に区分して、年次的に研究を進めることとしているが、2年度にあたる今年度は前年度と同様に、上記の「史料収集」段階として位置づける一方、前年度と同様に申請時には後次的なものとして位置づけていた「考古学的資料収集」についても、一部前倒し的に実施した。 「史料収集」段階として本年度もデスクワークを中心として、古文書は『鎌倉遺文』(索引編をのぞく35巻)から少し時代をさげて『南北朝遺文 中四国編』にも眼をとおし、記録については、『大日本古記録』所収の『貞信公記』『九暦』『中右記』のほか『時範記』逸文などに眼をとおした。また典籍については『類聚三代格』や『朝野群載』のほか、『吾妻鏡』などについても着手した。「文献学的考察」としては先行研究の蒐集につとめるととも、蒐集した史料と並行して、自分なりに駅家制解体以後の交通大系のありかたについてのスケッチを描くべく、『中右記』や『時範記』にみえる因幡国司の入国記事にそって臨地調査をおこない、国司や荘園政所などの存在に注目する必要性を痛感した。また、駅制の衰退以後における地域の交通大系の連続面を確認する必要から、数カ所でフィールド調査を試みたが、現状から直接敷衍することの難しさや、発掘調査途中の段階では把握しがたいことも痛感した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
基礎的な作業としての『平安遺文』『鎌倉遺文』にみえる文書類、『大日本古記録』『史料纂集』『史料大成』などに載録された日記類にみえる旅行・移動に関する記事、『国史大系』『新日本古典文学大系』などの紀行文や旅行報告、その他諸文献史料から必要な情報を抽出してカード化していく作業は、思いのほか手間取った前年の反省をふまえて、時間的調整をはかったが、平成20年~22年度の採択研究「芸備地域における古代山陽道の歴史考古学的研究」(基盤研究〈C〉)の成果をうけて申請していた継続調査について民間団体からの研究助成をうけることとなり、その調整と発掘調査の実施さらには調査報告書の刊行(『トントン古道跡II』2013年3月刊)に手間取り、文献史料からの情報抽出とカード化が思うように進められなかった点が、大きな反省点であり、「現在までの達成度」を3と自己判断した理由である。この作業分野は、次年度以降も継続的に実施していかなければならない作業分野ではあるが、次年度は少し比重をかけて遂行したい。 関連する先学の研究成果の博捜・収集については、『条里制・古代都市研究』など所属機関に架蔵されていない基本文献を購入してその確認と調査をおこなった。また、その他の文献目録などをもとに関連論文を博捜したが、前年同様、研究課題と直接つながる中世初期については、いまだ十分な研究がおこなわれていないことをいっそう深刻に痛感した。しかし、文献資料(とくに記録史料や官符類)のなかに、駅伝制解体以後と考えられる10世紀以後の史料でも、駅家と荘園記載が混在する史料が散見されることに気がついたので、その混乱を解きほぐしていく必要性を痛感している。その意味でも、それぞれの地域における後次的な交通大系の把握が必要と考えている。「考古学的資料収集」の工程についても、情報の収集まではいったが、その具体的検討までにはいたらなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
やや遅れ気味の「史料収集」の工程をより協力に継続・推進するとともに、史料と先行研究・関連論文などを検討し、その過程で確認できた歴史事象や明らかになった諸問題を順次成稿化していく過程と位置付けている「文献学的考察」の工程にはいるとともに、『文化財発掘出土情報 歴史・考古学の情報』(旧:『月刊文化財発掘出土情報』)のほか考古学系の学会誌・情報誌などから蒐集した10~13世紀にかかる遺跡・遺物の情報を整理するとともに、それぞれの情報が駅家ないしは宿に関連する情報か否かの吟味をすすめたい。また兵庫県考古博物館による兵庫県域の古代駅家関連遺跡の発掘調査報告書など日本各地の調査報告書を蒐集・再読し、駅家停廃以後の当該地域の情報を収集しながら「考古学的資料収集」の工程作業をすすめるとともに、具体的に駅家から宿への展開を想定しうる場所を抽出し、それぞれについて地域情報等を加味しながら、その可能性を吟味して、次年度以降に実施するフィールド調査の対象地を具体的に絞りこんでいく作業をすすめたい。 今年度、未執行の金額が生じた理由は、「現在までの達成度」にも記したように、平成20年~22年度に採択された研究課題「芸備地域における古代山陽道の歴史考古学的研究」(基盤研究〈C〉)の成果をうけて申請していた継続調査について、民間団体からの研究助成をうけることとなり、その調整と発掘調査の実施さらには調査報告書の刊行(『トントン古道跡II』2013年3月刊)に手間取り、文献史料からの情報抽出とカード化が思うように進められなかったこと、次年度(平成25年度)の5月に、山陽道の駅家と交通路にかかわる研究会が兵庫県考古博物館で開催される予定であり、そのため年度末のフィールド調査を見送ったためである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はやや遅れ気味の「史料収集」の工程で生じるさまざまな情報のデーター化を進めるつもりである。そのために情報処理のためのコンテンツを整備するとともに、その作業などについて研究補助を依頼したいが、地方大学のつねで適当な院生がすくないことが頭痛のたねである。院生以外でも退職された高校教師などの歴史学的感性と史料処理能力をもたれたかたを確保できればと摸索しているところである。その場合は予算全体のなかで謝金の比重が高まってくることになろう。研究計画調書の段階では、25年度にフィールド調査の実施を遂行するために旅費を多めに設定し、フィールド調査に必要な備品類の購入などを予定していたが、この部分についても、上記の遅れの部分との調整によって若干補正をしながら、平成26年度にも継続するような計画・工程にしたいと考えている。またおなじく日本各地の調査報告書を購入するための経費も多めに計上していたが、これらについては大学附属図書館の相互貸借制度による借用や、広島県の埋蔵文化財調査室架蔵の報告書などの利用をすすめて、経費の節減をはかりたい。
|
Research Products
(3 results)