2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520823
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
水野 章二 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (40190649)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 里山 / 中世 / 後山 / 屋敷林 / 河上荘 |
Research Abstract |
里山という語は従来は近世以降に出現するとされていたため、中世における里山の実態的な研究はほとんどなかった。しかし食料・建材・肥料などを獲得する村落住民の不可欠な生活空間は、「後山」「近隣山」などの表現で、平安末・鎌倉初期から存在する。これらの山野は、立地条件によっては平地林・屋敷林として存在しており、資源の獲得だけにはとどまらず、水防・風防などの生存に不可欠な機能を有する山林ととらえることが必要である。村落立地と山林・山野の関係、災害との関わりなどを広くとらえ直すために、史料の豊富な近畿地方を中心に里山関連の史料・語彙の収集、各事例の具体的検討を進めるとともに、平地林・屋敷林の研究蓄積が豊富な静岡・島根・富山・埼玉・群馬各県での史料や調査報告書・地図類などの収集、現地調査を行った。 「里山」の語は、九条家領播磨国田原荘の応永25年(1418)九条家雑掌申状案(九条家文書)に登場しており、正応4年(1291)実検目録の「里寺」とあわせて、現在に近い意味で里山の語が中世に使用されていたことが確認できる。また生駒山西麓の寝屋川市讃良郡条里遺跡などでは、12世紀にマツ属二次林進行し、里山的な利用が展開するとともに、15・6世紀以降森林植生が破壊されて、土砂流出が続き、洪水が増加する事実なども明確になった。あわせて近江国河上荘域における里山の実態研究を進め、基本史料である地元日置神社社家布留家の「大江保河上往古中古近代集入雑記」の翻刻および基礎的な現地調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中世における「里山」の語の存在を近畿地方や中国地方で確認し、近世に出現するというこれまでの理解を大幅に見直すことができた。また屋敷林・平地林を里山概念に組み込むことによって、狩猟採集の場としてだけではなく、水防・風防などの多様な機能を含めて、里山をより実態的にとらえ直すことが可能となった。 そのため、予定していた近江国河上荘域における里山空間の長期的復原的検討にあてる時間が少なくなったが、それに代えて全国的な屋敷林・平地林に関する史料・地図類・調査報告書などを収集し、現地調査を実施することに力点を置いた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続いて、広く里山関連語彙の収集を進め、関係史料とあわせて具体的な地域状況を含めた個別の分析を加え、里山に関する歴史学的概念の明確化を図る。その際、屋敷林・平地林の位置づけも積極的に行う。 また近江国河上荘域あるいは菅浦周辺地域などに関する史料収集と現地調査を行い、当該地域における里山空間の成立と変容・荒廃の過程を、長期的復原的に明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
自治体史・史料集・論文集・発掘調査報告書などの購入費用、史料調査のための旅費、分析対象地域の地形図・空中写真などの購入費用および現地調査旅費、現地調査や史料整理に関わる謝金など。
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Research Products
(3 results)