2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520823
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
水野 章二 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (40190649)
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Keywords | 里山 / 向山 / 屋敷林 / 菅浦 / 豊浦荘 |
Research Abstract |
中世の村落空間については、議論が錯綜して共通イメージができていないこともあり、里山の成立過程に関する実態的な研究はあまり進んでいない。食料・建材・肥料・燃料などを獲得する、村落住民の生活に不可欠な山野などの空間は、「後山」「近隣山」といった表現で、平安末・鎌倉時代には村落間紛争の対象として史料に現れる。これらの山野は、立地条件によっては平地林・屋敷林として存在しており、資源の獲得だけにはとどまらず、水防・風防などの生存に不可欠な機能を有する山林ととらえることが必要である。中世村落とその構成要素である山野の成立過程や、防災機能との関わりなどを広くとらえ直すために、史料の豊富な滋賀・兵庫などの近畿地方を中心に里山関連の史料・語彙の収集、各事例の具体的検討を進めた。あわせて里山や平地林・屋敷林の研究蓄積が豊富な静岡・群馬・岩手・新潟各県での史料や調査報告書・地図類などの収集、現地調査を実施した。 現段階での「里山」の初見は、応永25年(1418)の九条家領播磨国田原荘に関するものとなるため、周辺地域を含めた史料収集・分析とともに、現地調査を実施した。中世惣村の代表的事例である近江国菅浦では、「向山」が里山的実態を示す表現として登場するが、地名調査などを実施し、当該地域において「向山」がいかなる存在であったのか、復原的研究を進めた。また絵画史料における山野表現描写は類型的なものになることが多いが、写実的な描写として注目されている中世後期の桑実寺縁起絵巻では、琵琶湖岸の薬師寺領豊浦荘の集落が樹木に囲まれた特徴的な景観として描かれている。このため、豊浦荘に関する関連史料の収集および景観分析も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中世における「里山」「向山」その他の里山関連語彙を広く収集するとともに、史料に現れた具体的な状況について、九条家領播磨国田原荘・近江国菅浦・同薬師寺領豊浦荘などで、現地調査を含めて分析を進めた。屋敷林・平地林を里山概念に組み込むことによって、狩猟採集の場としてだけではなく、水防・防風などの多様な機能を含めて、里山を民衆が生存するための不可欠な空間として、歴史学的にとらえ直すことに取り組み、各地における文献史料や事例の収集を行った。 また社会科学の諸分野で注目されている資源の共的管理に関するコモンズ論との接点についても、検討を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに引き続いて広く里山関連語彙の収集を進め、関係史料とあわせて具体的な地域状況を含めた個別の分析を加えて、里山空間の成立と変容・荒廃の過程を、復原的に明らかにする。それをふまえ、里山空間に関する歴史学的な概念を明確にする。その際、屋敷林・平地林の位置づけも積極的に行う。 また近年注目されているコモンズ論との接点を確認し、歴史学的な視点からの里山研究の意義を明らかにする。成果は単著として公表できるように、出版準備を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3月に予定していた島根県における調査が家族の危篤・死亡により延期となったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。 研究費は自治体史・史料集・論文集・発掘調査報告書などの購入費用、史料収集のための旅費、分析対象地域の地形図・空中写真などの購入費用および現地調査旅費、現地調査や史料整理に関わる謝金などにあてる。
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Research Products
(3 results)