2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520823
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
水野 章二 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (40190649)
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Keywords | 里山 / 中世村落 / 荘園制 / 後山 / コモンズ / 屋敷林 |
Research Abstract |
里山は多方面からの再評価が進み、現在では里地里山として広く把握されており、コモンズ論から言及されることも多い。歴史学はこのような研究状況に対応できていないため、集落遺跡の成立経過を整理したうえで、中世村落と里山空間の関係を、中世荘園の成立過程のなかに位置づけ直した。古代の公私共利的な山野河海は、オープンアクセス的な性格を有していたが、中世荘園は村落空間をその基礎に組み込み、荘域内の山野は荘園領主・荘官・荘民の重層的な利用が独占的に公認されたローカルコモンズへと転化する。 里山空間をさす制度化された表現はなく、「里山」という語自体は中世後期から断片的に史料に登場する。一方、中世初期から多く出現するのが「後山」という表現で、それと対応する意味合いを持つ「向山」も史料で確認でき、地名としても多く現存する。 このような里山空間は、交通・流通の条件などから、地域によっては鎌倉期から開発が進んで酷使され、植生が貧弱化してしまう。史料の「野山」「無毛山」という表現は、植生が後退してしまった里山空間を示しており、花粉分析からは一二世紀頃をピークに二次林化が進行し、一五・六世紀に洪水が増加する事例が畿内などで確認できる。また里山空間が欠落・不足する地域では、隣荘との契約などによって山林資源を確保していた。 里山空間は食料・肥料・燃料などを獲得するだけのものではない。民衆的な小規模な牛馬の放牧は林間などで行われていたことが、絵巻物などからも明らかである。また地形条件によっては屋敷林や平地林が発達するが、これらは資源獲得だけではなく、水防・防風・防火などの多様な機能を果たしていた。写実的とされる桑実寺縁起絵巻では、琵琶湖岸の薬師寺領豊浦荘の樹木に囲まれた集落景観が描かれている。これらの成果は単著『里山空間の成立』として、出版することが決定した。
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Research Products
(3 results)