2011 Fiscal Year Research-status Report
高句麗・渤海をめぐる中国・韓国の「歴史論争」克服のための基礎的研究
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23520861
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
古畑 徹 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (80199439)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 韓国 / 中国 / ロシア / 北朝鮮 |
Research Abstract |
今年度は、ロシア科学アカデミー極東支部および東北アジア歴史財団の招聘を受けて、ウラジオストク国際学術会議「高句麗・渤海史研究の新たなる地平」(2011.11.28-29)に出席し、「張建章『渤海国記』をめぐる若干の問題」を発表した。本発表では、本科研費の交付を受けて史料調査をした結果、従来知られていなかった張建章『渤海国記』に関する新史料を発見することに成功し、これを報告するとともに、やはり本科研費の交付を受けて中国研究者の論文を整理している際に気が付いた、中国研究者の「張建章墓誌」の誤読に対する訂正を行った。また、本国際会議は韓国・北朝鮮・ロシア・中国の研究者が一か所に集まるという稀有な会議であり、ここでの意見交換自体が本科研費における研究のテーマに密接にかかわる。そこで本国際学術会議の報告を用意しており、現在発表できる場を探している。 また、史学会より『史学雑誌』の書評欄に、赤羽目匡由『渤海王国の政治と社会』(吉川弘文館、2011)についての書評を執筆してほしい旨の依頼があり、その書評を執筆して提出した。本書は日本における最新の渤海史の研究書であり、高句麗・渤海をめぐる中国・韓国の歴史論争を踏まえて研究がおこなわれている。そうした本書の研究史上の位置や著者の問題意識・方法論などを明確にし、いくつかの点を本研究の成果に基づいて修正しつつ、一定の高い評価を下した。なお、本書評を掲載する『史学雑誌』の号は現時点では未定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画の5つの検討作業((1)冊封関係を「宗藩関係」とみなす見解の妥当性の検討、(2)高句麗・渤海構成種族の滅亡後の動向、(3)中国が中国東北部を自国領と認識する過程の検討、(4)教科書・概説書を通してみた中国・韓国の高句麗・渤海認識の変遷の検討、(5)東北アジア歴史財団の動向の検討)に関する資料収集は、平成23年度の重点事項であった(1)(3)に関係する中国書の収集を中心に順調に進んでいる。また、(3)に関する国内図書館に対する資料調査も、訪問場所に予定との若干の違いは生じたものの、訪問件数的には順調であり、検討対象となるであろう資料の所蔵場所確認は進んでいる。韓国関係の翻訳(たとえば、韓国の教科書や東北アジア歴史財団ホームページの翻訳)はあまり進んでいないが、代わりに、東北アジア歴史財団とロシア科学アカデミー極東支部が共催したウラジオストク国際学術会議で韓国・北朝鮮・ロシアの最新研究を入手できたので、予定を変更してここで入手した論考等の翻訳を優先した。最新情報にはそれぞれの立場性とともに考古学を中心とした新史料の発見が報告されており、これらの情報入手により当初よりも幅広い研究が可能になってきている。さらに、これらの情報収集をもととした中国の「宗藩関係」研究についての分析も順調に進んでおり、非常にわかりにくいその論旨も次第にクリアーになってきたので、次年度には研究発表ができるものと思われる。以上を総じてみると、おおむね順調と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、研究は順調に進展しているので、平成24年度は当初計画を基本に若干の修正を行いながら研究を進めていくこととする。つまり、前年度にひきつづく(1)冊封関係を「宗藩関係」とみなす見解の妥当性の検討、および(3)中国が中国東北部を自国領と認識する過程の検討、に加え、(2)高句麗・渤海構成種族の滅亡後の動向の検討も今年度の重点項目とし、さらにウラジオストク国際学術会議で得られた情報等に基づく研究をすすめることとするのである。具体的には、まず辺境研究関係の中国書籍と前年度にあまり入手できなかった韓国の教科書等を中心に資料収集を行っていく。そして前年度の(1)の成果として、中国の「宗藩関係」に関する研究の分析を発表し、これを論文にまとめられるように研究を進める。前年度の残りの図書館の調査もそのまま進め、これを受けて(3)に関する検討結果を論考にまとめられるようにしていく。さらに、韓国の情報を十分活用できるようにするために、教科書や東北アジア歴史財団ホームページなどの翻訳依頼を積極的に行っていく。こうした当初計画に加えて、ウラジオストク会議で得られた情報を分析し、最新の研究成果を広く学界に還元できるようその成果を公表をするようにしていく。また、前年度のウラジオストク会議で韓国・東北アジア歴史財団の理事長ほかと面識を得たので、3年目の韓国訪問調査がやりやすくなったが、そこでしっかりした成果が得られるようにするための準備にも入っていきたい。その後の2年間は、現在のところ当初予定の計画通りに進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費に関しては、高句麗・渤海をはじめとする中国東北地方史およびそれと関係する辺境史研究に関する中国書籍の刊行が依然として盛んであり、かつ今年度は韓国教科書等の入手にも力を入れる必要があるので、これらのための大幅な図書費を配分しなければならない。そこで、そのための経費として当初予定通り50万円を充てることにする。旅費に関しては、調査予定でありながらがいまだ残っている図書館が少なからずあり、依然調査は継続しなければならない。また、今年度から研究発表も行っていくので、そのための経費を用意しなければならない。これらにより、旅費には当初予定通り22万円を配分する。残りの「人件費・謝金」「その他」に関しては、その大半を翻訳に充てる予定である。韓国・ロシア・北朝鮮の情報は翻訳しないと活用できない。前年度に韓国語を翻訳したウラジオストク国際学術会議の情報についてもいまだ翻訳が残っている部分があり、まずは昨年度の業者に継続的にその翻訳を依頼する役務費として、「その他」の予算を用意する。その後も重要な部分の翻訳には業者の手が必要となるため、「その他」を当初予定の3万円から15万円へと予算変更する。ただ、業者による翻訳は多額の経費が掛かるので、できるだけ残りの翻訳に関しては学生・院生アルバイトを活用することとし、経費を可能な限り抑制していくこととする。残りの「人件費・謝金」は、このアルバイトのための経費に充てることとする。
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Research Products
(1 results)