2011 Fiscal Year Research-status Report
古代ギリシアにおける暴力と社会秩序の比較文化史的研究
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23520891
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋場 弦 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (10212135)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アテナイ / 民主政 / 暴力 / 紛争解決 / アリストテレス / アテナイ人の国制 |
Research Abstract |
(1)今年度は、古代ギリシア人の暴力がどのように社会に分布していたか、とくに国家権力の暴力装置の助けをかりずに、市民たちが実力行使をふくめた手段によって自律的に紛争解決に当たった様相を明らかにするべく、その証拠の全体的把握に努めた。同時に、そのような暴力行使の作法と文法を、古典期民主政のアテナイと、その他のポリスとの間で、比較文化史的方法によって比較検討し、私的な暴力が全否定されることなく、なおかつ社会の秩序維持のために役割を負っていたことを、法制度の側面から裏づけることを試みた。(2)ポリス共同体の権力構造を解明するため、近年考古学的研究の進展とともにめざましく明らかにされた、ポリス国家の成立過程について知見を深め、探求することに努めた。とくにこれまでアテナイ(アテネ)一国に偏りがちであったポリス研究においては、それ以外のポリス、もしくはポリス外のギリシア人共同体(エトノス)のあり方と比較検討するため、同時代史料として、歴史書・文学作品・法テクスト、および近代以降発見された碑文史料の分析を行った。(3)具体的には以上の課題を遂行するべく、基礎的史料の網羅的収集・分類を行い、考察を加えた。とくに近年研究の進展いちじるしい伝アリストテレス『アテナイ人の国制』テクストの解読、テクスト批判、および註釈研究を精緻に多し進めた。(4)さらに近代になって刊行されたおびただしい点数の古代ギリシア法制度史・政治史・社会史関連の研究文献を入手し、問題点と議論の整理とにつとめた。とくに近年問題になっている、伝アリストテレス『アテナイ人の国制』の作者同定の問題に関して、最新の研究動向の把握に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ギリシア古典史料、とくに伝アリストテレス『アテナイ人の国制』の解読、翻訳および註釈作業については、ほぼ当初の予定通り順調に進み、それをとおしてアテナイ民主政における暴力、とくにスタシス(党争)の諸相を詳しく分析することができた。ただし、現在のギリシア国内の政治情勢が不安定化したため、当初予定していたアテネ碑文博物館における調査は、見合わせざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もこれまで同様、伝アリストテレス『アテナイ人の国制』分析を中心に、ギリシア古典史料の解読と史料研究に専念する。さらに関連する碑文史料にも分析を加え、民会決議や法などの形で、どのように暴力と紛争解決にかんする合意形成が図られたのかを中心に探究してみたい。またギリシア国内の政情が安定したら、当初予定していたアテネ碑文博物館などの海外出張も行ってみたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度同様、物品費(図書費、コンピュータなどの機器、文房具など)への支出が中心となる。とくにBrill, New Paulyは必須の参考図書なので、全巻の購入を予定している。 また国外・国内の出張旅費にも相応の額を支出する予定である。
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Research Products
(3 results)