2011 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国における「市民」と「国民」の差異化に関する比較史的研究
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23520907
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
中野 由美子 成蹊大学, 文学部, 准教授 (40362214)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 西洋史 / アメリカ史 / 先住民史 / シティズンシップ論 |
Research Abstract |
19世紀半ば以降の合衆国においては、南北戦争後に国民統合の機運が高まるなかで海外領土の獲得が進み、国内においては建国以来の「市民ではないインディアン」(noncitizen Indian)という法的地位を再定義する必要性が生じる一方で、新たに合衆国の海外属領となった地域では「市民ではない国民」(noncitizen national)という法的地位が創出された。本研究の目的は、19・20世紀転換期の合衆国における「市民」と(「市民ではない」という点では共通している)「インディアン」・「国民」の差異化の過程に注目して、保留地・併合地・海外属領の先住民・先住者に対する諸施策と現地社会の対応に関する比較史的研究を通じて、その歴史的意義を検討することである。 平成23年度には、上記のような関心に沿って「市民」概念の歴史性・政治性を再検討するために、建国以来の連邦政府による先住民政策について、主に教育政策を通史的に再検討する作業を行った。その成果の一部は、「『内なる他者』としてのアメリカ先住民と公教育―19・20世紀転換期の同化教育をめぐる葛藤―」と題して洛北史学会第13回総会・大会(2011年6月4日 於京都府立大学)において口頭発表を行った。この大会では、「帝国秩序と『教育』―「内なる他者」への視点」という大会テーマに沿って、近代日本と英領インドの事例を取り上げた優れた口頭発表を拝聴する機会にも恵まれ、研究方法や分析枠組みという点で多くを学んだ。とくに比較史的な観点から研究を進めるうえでは、時代や地域を限定せず、質の高い先行研究から学ぶ必要があることを改めて認識した。また、合衆国の先住民政策に関する事例研究については、先住民に対する教育政策を事例として取り上げたこれまでの基礎的な研究をまとめた論考を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2011年度には、これまでの基礎的な研究を整理してまとめることによって、次の事例研究や理論研究につなげることを目的としていた。一方の事例研究に関しては、この目的はほぼ達成できた。具体的には、これまで行ってきた20世紀初頭の連邦先住民教育政策の展開と先住民の対応についての事例研究に基づき、行政官や教育者、児童・生徒という立場の異なる人々が特定の教育施策に対してどのように対応したのかを検討した。他方の理論研究については、先行研究を精読する時間を増やす必要がある。これまで、ウィル・キムリッカ『多文化時代の市民権―マイノリティの権利と自由主義』などの市民権に関する基本文献については、拙稿においても言及してきた。これらの古典に加えて、今後は、ヨーロッパやアジアを事例とした近年のシティズンシップ論の成果からも多くを学びたい。
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Strategy for Future Research Activity |
市民権(シティズンシップ)に関する理論的研究は、アメリカ合衆国やカナダに限らず、ヨーロッパ諸国やアジア・日本の事例に基づいた先行研究の豊富な蓄積がある。昨年度は、理論的研究に関しては先行研究のリストアップをする段階までは終えた。今年度は、これらの国内外の優れた研究成果を精読する時間を十分にとりたい。そのための文献を購入する費用として昨年度からの研究費を使用する予定である。 また、事例研究については、前史となる19世紀前半から後半までの先住民政策の展開についてまとめる作業を行う予定である。これまでは南西部の先住社会に特化した形で研究を進めてきたため、19世紀前半の全国レベルでの政策の展開についてはほとんど言及してこなかった。ただし、この時期の合衆国においては、先住民を法制度上どのように位置づけるのかについて活発な議論が行われていたため、少なくとも主要な施策については通史的にまとめる作業を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「今後の研究の推進方策」で言及した市民権に関する理論的研究について、先行研究を読み進める作業を行う。それと同時に、19世紀末前半~20世紀前半の先住民政策について、主に市民権と法的地位に関する通史的な基礎的研究と事例研究を行うため、一次史料を収集して読み解く作業を行う。そのため、史料収集のための旅費や図書費として研究費を使用する予定である。
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