2012 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国における「市民」と「国民」の差異化に関する比較史的研究
Project/Area Number |
23520907
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
中野 由美子 成蹊大学, 文学部, 准教授 (40362214)
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Keywords | 西洋史 / 南北アメリカ史 / 先住民史 |
Research Abstract |
19世紀半ば以降の合衆国においては、南北戦争後に国民統合の機運が高まるなかで海外領土の獲得が進み、国内においては建国以来の「市民ではないインディアン」(noncitizen Indian)という法的地位を再定義する必要性が生じる一方で、新たに合衆国の海外属領となった地域では「市民ではない国民」(noncitizen national)という法的地位が創出された。本研究の目的は、19・20世紀転換期の合衆国における「市民」と(「市民ではない」という点では共通している)「インディアン」・「国民」の差異化の過程に注目して、保留地・併合地の先住民・先住者に対する諸施策と現地社会の対応に関する比較史的研究を通じて、その歴史的意義を検討することである。 平成24年度には、上記のような問題関心に沿って、19世紀前半の先住民政策に関する基礎的研究を行った。具体的には、先住民の「文明化」という理念が19世紀前半の先住民政策においてどのような施策として結実したのかという関心から、1819年に成立した文明化基金法と1930年の南東部の先住民に対する強制移住政策の両方に関わったトマス・マッケニ―という人物に焦点を絞って考察した。その成果の一部は、"The Campaign for Civilization or Removal: Thomas L. McKenney and Federal Indian Affairs in the Formative Years" と題した論考として発表した(『成蹊大学文学部紀要第48号』(2013年3月)所収)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度には、これまでの基礎的研究をもとにして、新たな事例研究と理論研究に取り組むことを目的としていた。一方の事例研究としては、第一段階として、これまでの研究では十分に検討することができなかった19世紀前半の連邦先住民政策に関する基礎的研究をまとめることができた。この点では、目的はほぼ達成できたといえるだろう。具体的には、19世紀前半の「文明化」を掲げた先住民政策について、文明化基金法(1819年)の制定や南東部の先住民の強制移住政策(1830年代初頭)に焦点を絞り、その歴史的意義を検討した。 他方の理論研究については、「文明化」の概念に関する比較史的研究などの基本文献を精読する時間を増やす必要がある。アメリカ合衆国の先住民政策に関する基礎的な事例研究は継続して行いつつ、合衆国に限らず19世紀の欧米諸国による植民地政策等との比較という観点から、隣接諸学の先行研究からも学ぶ必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、19世紀前半から後半にかけての先住民政策の展開についての基礎的研究を進め、論考を発表する作業を行う予定である。これまでは主に20世紀初頭の南西部の先住社会に特化した形で研究を進めてきたため、19世紀の先住民政策については、前史として主要な法律や施策に言及するにとどまっていた。昨年度は、19世紀前半の先住民政策に関する論考をまとめたので、今年度は、19世紀後半の保留地政策と保留地制度の漸次廃止を目的とした法律の成立過程に関して、一次史料の収集と精読をしたうえで論文の執筆を行う予定である。 理論研究に関しては、19世紀後半の植民地政策に関する比較史的研究や、「文明化」概念の変遷に関する思想史的な研究について、国内外の優れた先行研究を精読する作業を進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「今後の研究の推進方法」欄で言及した事例研究と理論研究を行うために、一次史料を収集したり二次文献を購入するために、旅費や図書費として研究費を主に使用する予定である。19世紀後半の先住民政策に関する基礎的な一次史料を収集して精読すると同時に、同時期の植民地政策についての二次文献の購入と読解を進めていく予定である。とりわけ、「文明化」という概念について、19世紀後半から20世紀初頭の欧米列強による植民地政策においてどのような文脈で用いられていたのかという関心をもって、植民地政策史、思想史の分野での先行研究から多くを学びたい。 なお、昨年度末に予定していたが実行できなかった、海外での史料収集については、今年度に行う予定である。
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