2012 Fiscal Year Research-status Report
民族誌を用いた土器型式の動態把握のための理論的研究
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23520935
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高橋 龍三郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80163301)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中門 亮太 早稲田大学, 會津八一記念博物館, 助手 (60612033)
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Keywords | 国際研究者交流 パプアニューギニア / イーストケープ / トーテミズム / 家庭的土器生産 / 母系制社会 / 民族考古学 |
Research Abstract |
2012年度は、パプア・ニューギニアのイーストケープ地域における民族誌調査(8月11日~25日)と、その成果の分析と発表に重点を置いた。民族誌調査の主眼は、家庭的土器生産にかかわる女性土器製作者の技術的系譜と、技術が反映した土器の実際の地理的拡散分布を調査することにより、技術系譜の移動や拡散にかかわるエージェントとしての、人間の行動的側面を明らかにすることである。一人の土器製作者が子供のころ、母親から土器作りを習得して、土器製作者として独り立ちし、結婚や居住地の変更などを経て、イーストケープ地方を転々と周回するプロセスを明確にすることである。これは移動した先で自身の文様を含む様々な技術伝統が他の土器製作者に影響を与え、その結果新たに模倣され、かつての技術的系譜が各地に分散し、地域間を伝播し継承されるメカニズムと関わっているからである。この視点は、縄文土器型式の成立過程と地理的分布のメカニズムを明らかにするための方法論と関係し、従来の縄文土器型式の研究では全く等閑視されてきた側面である。おおよそ2週間にわたる調査で、土器製作者のfamily treeと土器製作伝統の継承のされ方(母親ー娘)を明らかにし、またその集落組織(sub clan)に関するする聞き取り調査も併せて実施した。後者は、特に所属するクランとトーテムの関係を闡明することを目的としている。この地は母系制社会なので、クラン外婚制といっても、女性が婚姻と関連して移動するわけではないが、婚後に夫とともに夫方の親族の村々を転々とするので、夫方のクランの女性成員に影響を与える可能性が大きいからである。これらの基礎的データについては論文で公表している。また、これらの成果とセピク川流域(父系制)における土器製作の差異について、両地域の比較を行い学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
縄文土器型式が成立する前提は、多数の土器製作者によって同じ文様や成形手法などの製作技法が分有され、それらによって製作された土器が一定の地理的範囲に分布する事実関係に基礎をおいている。それらの考古学的現象は、背後にそれを生み出した製作者の社会的関係によるところが多く、それを行動系として捉え直して解明する必要がある。しかし、はるか昔に過ぎ去った縄文時代の社会関係を覗いてみることは不可能なので、それに代わる手法として未開社会の家庭的土器生産の実態を観察する民族誌的方法が重要になる。未開社会としてパプアニューギニアのイーストケープ地方に入り、親族組織の在り方、出自体系、婚姻体系、婚後居住規程、サブクランの在り方、クランとトーテムなどの社会的関係の実態について明らかにし、それと現在の土器型式(イーストケープ伝統)の在り方を比較する方法が重要である。現在、基礎的なデータを収集している。それは基礎データが不完全だと、把握されている土器の実態がいかに克明に記録されたとしても、比較の意味をなさないからである。したがって本年度の調査は、できる限り社会的基礎データを収集することを目的にしている。民族誌調査によるデータ収集は現地において、おおむね順調に進捗しており、2013年度の調査によって得られたデータと総合すれば、ほぼ必要なデータは収集できると考えられる。これまでの調査成果については、その都度、論文や学会発表などで公表している。
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Strategy for Future Research Activity |
イーストケープ地方における家庭的土器製作者の技術的系譜関係を押さえ、またその拡散状況を押さえる必要があるので、本研究では2つの側面から調査を進めている。一つは女性製作者の技術伝統を明らかにするために、個々の製作者のfamily treeを作成して、母ー娘の技術継承関係を明らかにする。二つ目は土器製作者である女性が、母系制社会の中でどのように移動するのかを把握するために、サブクランの構成員の状況や、婚姻関係、保有するトーテムの種類、婚後の移動経路(婚後居住規程)等を明らかにすることで、女性土器製作者の移動と土器型式の分布状況を比較するためである。以上の二つは今後も継続的に進める必要がある。また同時に、実際にそれらの女性土器製作者が製作した土器が、各村々にどのように運ばれ地理的に拡散し分布しているのかを知るために、実際の家庭で保有する土器を細大漏らさずに記録する必要がある。それらの基礎データが完全に収集されたならば、ある土器が、なぜそのサブクランに存在するのか、その動機を社会的脈絡において理解することができる。また、あるサブクランの製作者が、なぜその技法を外部から仕入れることができたのか、ある製作者が母親から習得した技術以外の知識について、それをどのように誰から仕入れたかなどについて明らかにすることが必要になる。このようにしてイーストケープ伝統の土器型式が成立する過程を、社会行動学的な側面から明らかにする必要がある。したがって今後の調査研究は、今までの調査方針を堅持し、できる限りのデータを収集して、型式の成立と土器型式の地理的分布について明らかにすることが求められる。また、異系統の土器型式(ワリ式)が70km離れた島からイーストケープにもたらされているが、島の土器製作の実態をより細かに観察し、製作、運搬、分配というプロセスを分析し、異系統土器混入の社会的脈絡を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度は、パプアニューギニアのイーストケープに民族誌調査に出かけ、土器製作者の家々を訪問し、できるだけ多くの製作者に面会する。時期は夏季休暇を利用したい。場所はトパ地区とケヒララ地区の2か所で、かつて面会して聞き取りをした製作者についても、追加的に聞き取りを行いたい。また両地区の海岸沿いのサブクランについては調査が進展しているが、山側に入ったサブクランについては不明な個所があるので、そこで重点的に聞き取り調査を実施したい。併せてそこの家々に保存されている土器を調査して、図面や写真撮影で記録に残したい。この調査のために大学院博士課程の学生を引率するので、旅費と滞在費の支出が予想される。また、記録類の保存や図化のために、若干の人件費、消耗品費の使用を計画している。各家々を訪問し、聞き取り調査を行う場合には、一軒当たり20キナ(900円程度)の支払いが必要である。30軒程度の訪問を計画している。 イーストケープでの調査が終了したら、2週間ほどワリ島に渡海して、家々を訪問しながら土器製作者の聞き取り調査を実施するので、渡海のための交通費(船代)と滞在費、謝金などが発生すると考えられる。またワリ島の地図については、以前に作成したことがあるが、一軒ごとの家屋までは記録していない。今回の調査では、土器製作者の家とサブクランの位置を正確に把握するために、GPSによる家屋の記録も行う。これには別途に一軒当たり20キナ程度の費用がかかる。
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Research Products
(3 results)