2011 Fiscal Year Research-status Report
地域再構築における中高年女性の伝統手芸活動と民俗技術の多様化
Project/Area Number |
23520989
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
坂元 一光 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (20150386)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 伝統手芸活動 |
Research Abstract |
本年度は当該研究全体にわたる基礎的資料の収集および予備的分析をおこない一定の成果を得た。まず文献等で柳川のローカルな手芸細工「さげもん」と日本の和裁伝統(裁縫お細工物)との史的連続性を確認し、その上で柳川市内のさげもん製作活動の実態把握と資料収集を進めた。結果として中高年女性によるさげもん製作が(1)地域の多様な場において趣味的で交流的雰囲気と集団的、実践的学習様式にもとづいて行われている。(2)それらの場や講師ごとに多様な技術・知識が伝達、学習されている。(3)さげもんを構成する毬と袋物(ちりめん細工)は別々の技術・知識体系として存在している。(4)地域の主導的講師を中心に技術・知識の大きな系譜の存在が予想される。(5)女性たちのさげもん製作は単なる趣味活動に閉じているのでなく、展示、販売の様々な機会を通じて広く地域に埋め込まれ、またそれらは女性たちを能動的な製作活動に向かわせる動因にもなっている。(6)さげもんと密接に関係する柳川の一連のひな祭り行事は、そのほとんどが最近になって観光目的で創造されたものであること、等を明らかにした。類似の吊るし飾り習俗をもつ東伊豆稲取、山形県酒田市でも調査を行った。(1)稲取では初節句の吊るし飾りを地域婦人会が復活させ、これが地元の温泉地観光に取り込まれることで商品化、土産物化していった。(2)土産物市場の拡大に伴い伝統や品質を維持するための取り組み(品質保証制度)が行われている。(4)酒田の吊るし飾り「傘福」は地元商工会の女性部が観光振興のためにa)古くからの祈願習俗、b)祭礼の「造り物」を基本に、現代風のアレンジを加え生みだされた創作民芸品である。(5)傘福やその展示に関する新しい工夫や企画を毎年考え、その地域観光資源としての持続可能性を探っていること、等の知見を得た。これら成果は「日本民俗学会」第63回年会および『大学院教育学研究紀要』第14号に公表された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は地域社会の再構築という全国的動向を前提に、柳川の観光に組み込まれた伝統的手芸活動および技術・知識伝承の実態把握・分析を通して、地域に生きる中高年女性のライフコース形成と民俗の新たな展開との関係性の解明を目指している。そのための三つの具体的目標(1)女性たちの手芸実践とその社会的基盤の解明、(2)手芸民俗的知識基盤の維持、形成、配分、変容等の解明、(3)他地域の類似の手芸細工(吊るし飾り)との比較による柳川の伝統的手芸知識・活動における独自性の抽出、を設定し研究を進めた。その進捗状況を振り返ると、まず(1)に関しては、公民館、シルバー人材センター、手芸店等の観察、インタビューをおこない、手芸実践の形態、目的、意義等に関する基本的、概括的なデータを得ることができた。また(2)に関しては、毬と袋物それぞれに特化した製作集団や独自の目的や理念をもつ学習グループの存在を確認し、インタビューを通してそれら多様な知識や様式(製作スタイル)や新たな動向に関しての予備的な情報を得ることができた。さらに(1)(2)に関して、さげもんと江戸・明治期のちりめん細工との歴史的、文化的連続性を確認し、ローカル及びナショナルな手芸知識のジェンダー化過程を跡付けることができた。最後に(3)に関しては、東伊豆稲取、酒田市での予備調査を通して、吊るし飾りの地域ごとの民俗特性および創造された民俗としての共通性が浮かび上がりつつある。以上の成果から、初期の研究目的はおおむね順調に達成されつつあると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の成果にもとづき、基本的に当初の計画にそって、柳川市、東伊豆稲取、酒田市での調査・資料収集活動を継続する。その際、これらの地域の民俗的、社会的動向を相互に関連づけ、また個々の独自特徴を捉えるために、(1)比較枠組みの整理、(2)個別地域の民俗的背景を形づくる歴史、産業、海運等の地誌的資料、観光活動のみならず博物館・資料館、学校での教育・学習、継承活動など民俗文化の持続可能な活用を視野に収めた資料の収集に努める。まず研究の中心となる柳川では現地でのさげもん関連の歴史・民俗資料および現在の状況に関する資料収集を継続して進め、とくに民俗的知識の系統関係の確認や製作グループの数や特徴についてその全体像の把握、及び中高年女性のライフコースと伝統手芸活動との関係性の把握をすすめる。その際、調査補助者との調査合宿など集中的、効率的に資料を収集する方法も検討する。年末からのひな祭りイベント期間中は前年度から持ち越したイベント実態に関する資料不足を最大限補うよう努める。もうひとつの研究の柱として稲取、酒田市等での比較資料の収集・分析を継続して行う。比較資料の中には九州各地に伝えられる同種の初節句つるし飾り習俗や稲取、酒田周辺地域の関連習俗、イベントに関する資料も含まれる。稲取では近年のひな祭りイベントや販売店以外の人びとの生活場面(家庭)におけるつるし飾りの製作、展示などに関する資料の収集をおこなう。酒田市の予備調査では傘福につながる祈願系と祭礼系の二系統のつるし飾り習俗が確認されたが、この成果にもとづき両系つるし飾りのさらなる実態把握及び近年のひな祭り習俗への傘福受容の経緯について関連資料の収集を進める。また商工会議所女性会へのインタビューを継続し、傘福伝統の創造過程についてのより詳細な資料を収集する。当該年度の成果は関連学会および報告書等で公表する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の研究を実施するために、概略、以下のような予算使用(130万円程度)を計画している。1)設備備品費として(20万円程度)内訳は・関連文献の収集。(15万円)(1)民俗文化の地域資源的活用、(2)地域のモノづくり伝統の新たな展開、(3)博物館・資料館での教育・学習活動、生涯学習関係・資料収集のための撮影機材および関連機器等の購入(5万円)、である。2)消耗品費として(5万円程度)内訳は各種メディア、データ保存用メモリー等。3)旅費として(55万円程度)複数回にわたる国内調査旅費の支出を予定している。一部は調査効率化のための調査補助者を伴った複数人数による旅費を含んでいる。(1)文化人類学会、民俗学会など学術研究集会での関連資料の取集。(2)民俗、民芸、民族文化に関する博物館、資料館、大学等における関連資料の実見及び収集、研究打ち合わせ。(3)柳川への日帰り調査及び連泊調査。(4)東伊豆稲取及び山形県酒田市での現地調査。その他、九州各地、稲取、酒田周辺の関連地域への調査。(5)観光協会、商工会等関連機関等での打ち合わせ。4)謝金等として(30万円程度)収集した資料(映像資料を含む)の整理、電子ファイル化、PCによる統計処理、などに従事する研究補助者へのアルバイト謝金。5)その他として(20万円程度)・レンタカーの借上げ費用。・映像編集ソフト、HP作成ソフト等。以上。
|
Research Products
(2 results)