2012 Fiscal Year Research-status Report
地域再構築における中高年女性の伝統手芸活動と民俗技術の多様化
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23520989
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
坂元 一光 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (20150386)
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Keywords | 伝統手芸活動 |
Research Abstract |
平成24年度の研究実績として、まず以下の2本の中間報告書をまとめた。①「吊るし飾りを伴う観光ひな祭りの比較-柳川、稲取、酒田における女児初節句習俗の再構築-」『国際教育文化研究』(Vol.12 ,2012.6,pp39-60.)②「伝統を創造する女性たち-酒田の傘福復興事業と地域学/地元学-」『国際教育文化研究』(Vol.12 ,2012.6,pp1-15.)①では、本研究で取り上げる手芸活動の重要な社会的、文化的文脈を構成しているひな祭り観光事業の実施状況の比較により、同じ吊るし飾りを特徴とする観光ひな祭りでありながら、それぞれが地域の歴史、地理、民俗、産業基盤、実施主体等の特性に応じた独自色を示している実態を明らかにした。②では、酒田の二系統の伝統的吊るし飾りから「平成傘福」が創造され、またそれが新しい伝統として定着する過程を明らかにした。さらに観光振興と調査研究を組み合わせた事業の取り組みが、住民参加型の地域・地方再生の実践学(地域学/地元学)として育ちつつあることを明らかにした。③『日本民俗学会64回年会』(東京学芸大学:平成24年10月7日)において「地域文化の活用から探求へ-酒田商工会議所女性会の傘福事業-」の題目で、報告書②の内容にもとづく研究発表をおこなった。④平成25年3月には「庄内傘福研究会」主催の市民シンポジウム「伝えよう未来へ-みんなの傘福-」に招かれ「伝統の創造と地域学-平成傘福物語-」と題した記念講演をおこなった。また上記シンポジウムのパネリストを務めた。ここでは柳川のさげもんと酒田の傘福の比較にもとづいて、吊るし飾り習俗の伝統的意味とその現代における活用事例を紹介した。シンポジウムでは産学及び行政からのパネリストらとともに地元の傘福が貴重な地域文化遺産であることを再確認し、次世代に伝える努力や工夫について意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、柳川を中心に「地域の再構築と女性たちの伝統手芸活動との関係およびそれらをめぐる関連知識、技術のあり方についての実証的解明をめざす」もので、これまでその目的はおおむね順調に達成されていると考える。その根拠を概略述べるならば、平成23年度に収集した3地域の吊るし飾り制作活動に関する予備的資料にもとづいて、平成24年度は地域間の比較に力点をおいた調査研究をほぼ予定通り行うことができた。当初の計画に沿って①各地域の手芸活動の実態把握とともに②活動を促す契機あるいは文脈となっている観光事業の実施状況の比較検討を中心に進めた。比較調査の結果、同じ吊るし飾りを伴う観光ひな祭りでありながら、地域ごとの歴史、地理、民俗、産業基盤、実施主体等の特性に応じた多様な実態を見出すとともに、比較作業を通して柳川の手芸活動に関する特色、①初節句習俗に深く埋め込まれた手芸活動、②地域の女性たちの間での手芸関連知識の共有、③伝統的演出を伴ったサブイベントの創出、④地域女性を取り巻く生活変化にともなう手芸活動や知識の多様な展開、⑤多様な製作集団やネットワークの形成、⑥手芸知識の地域的共有における杉森女学校の手芸・裁縫教育の役割、等を浮かび上がらせることができた。またとりわけ新しい吊るし飾り(平成傘福)の創造から日の浅い酒田の調査では、伝統の創造、定着の過程を実証的に跡付けることができ、柳川の伝統手芸活動や初節句習俗の持続・活性のメカニズムを明らかにする上で有効な包括的、集約的分析モデルを抽出することができたと考える。 以上の成果から、24年度段階でおおむね当初の目的を達成していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は当初の計画にそって、これまで収集した資料を整理、分析し、最終的なまとめ作業および公表の準備を進める。また適宜補足的な調査、資料収集を実施する。残された補足的作業として①柳川さげもん製作の民俗知識の流れや系統関係の整理、②当地のさげもん関連の製作集団のリスト化、③さげもんづくり熟練者への個別的インタビュー、④シルバー人材センター手芸教室における生きがいづくりとモノづくりについてのアンケート調査、⑤人類学的、民俗学学的技術論、知識論の整理・検討、などを考えている。 当該年度の成果は学会発表および紀要論文等の場をとおして公表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の研究を実施するために、概略、以下のような研究費の使用(計90万円)を計画している。使用予定の内訳は以下のとおりである。 1)設備備品費として地域文化資源の活用関連文献の収集(5万円)。2)消耗品費として各種メディア、データ整理用メモリー等(5万円)。3)旅費として複数回にわたる調査を予定(調査効率化のための調査補助者を伴う旅費を含む)(30万円)。①文化人類学会、民俗学会など学術研究集会での関連資料の取集。②博物館、大学等における関連資料の収集、研究打ち合わせ。③柳川、稲取、酒田市での補足調査。4)謝金等として収集資料(映像資料を含む)の整理等に従事する研究補助者へのアルバイト謝金。(30万円)5)その他として報告書作成等、成果公表に関わる費用(10万円)。以上。
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Research Products
(4 results)