2011 Fiscal Year Research-status Report
過疎高齢海村・山村における村落解体阻止と脆弱性克服に関する社会人類学的研究
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23520991
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高桑 史子 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (90289984)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 過疎高齢社会 / 学校の存続 / 山村留学 / 限界集落 / UターンとIターン / 地域おこし / 郷友会 / 災害復興と防災 |
Research Abstract |
2011年3月11日に発生した東日本大震災により、当初の目的である東日本での調査を当該年度に実施することを中止し、かわって南西日本の島嶼域の調査(薩摩川内市下甑町・下甑島)を集中して実施した。加えて、当該調査では、自然災害の危険性を克服すべき活動を行い、かつまた、それを観光資源としている桜島での聞き取りと施設における資料収集、ならびに関係者からの聞き取りを新たに実施した。また東日本の災害からの復興と地域おこしならびに災害・復興・防災・減災・地域おこしに関する理論構築のための文献研究をおこなった。この一環としてウェブサイトの閲覧をはじめ、防災関連施設での情報収集や各種研究会等への参加を行い、次年度の研究に向けての課題を発見するようにつとめた。この過程で兵庫県神戸市にある「阪神・淡路大震災記念・人と防災未来センター」において、院生の協力を得て、自然災害からの復興と地域おこしに関する資料の収集を行った。当施設での資料収集と見学は次年度の問題意識を鮮明にした。 さらに当該年度においては、調査地のひとつである鹿児島県薩摩川内市の下甑村(下甑島)から移動した人々を訪ねて聞き取りを行った。とりわけ、「学校の存続」という点で、甑島の学校から鹿児島県内の別地域に異動された教員から聞き取りを行った。これは島を離れて、はじめて客観的に以前の勤務地の状況を語ることができる学校教員という立場を考慮しての調査である。勤務地を離れ、客観的な視点から島嶼の学校と地域社会のあり方に関する知見を得ることができた。 未曾有の災害に遭遇した東北日本の山村については、実態調査の実施は見送り、さらにそれと関連した関東の山村調査も次年度に実施すべき予定を変更したが、南西日本の調査に集中し、また文献研究により、次年度に向けての研究の方向性を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書提出後の2011年3月11日の東日本大震災による未曾有の災害により、当初の東日本地域とりわけ東北の山村での調査を断念せざるをえなかった。また山村調査という点で同時に比較の視点での調査を実施する予定であった関東の山村(当初は秩父と奥多摩を予定)での調査も比較資料の収集が困難であるために断念をすることになった。しかし、現地での聞き取りによる収集という当初目的の計画を遂行することができなかったものの、文献研究を目的として、多種・多領域にわたる文字資料の収集を行い、また震災後の様々な報道、報告、提言などを丹念に精査することで、2年目に実際にて実施する調査の方向性を確率することができた。 また東日本での調査実施が不可能となったものの、そのぶん、南西日本での調査を集中的に実施することができた。とりわけ、地域の学校の存続問題にゆれる甑島に関しては、当事者からの聞き取りを行うことができた。調査の時間的配分の点では、次年度の東日本での山村調査に専念することができる結果をもたらした。さらに鹿児島県内での過疎高齢地域である大隅半島での調査や自然災害と向き合いながらも、それを克服し、しかもそれを観光資源として地域興しに応用している桜島での聞き取りを行うことができた。また「阪神淡路大震災記念・人と防災未来センター」での集中的な文献研究をはじめ、災害の展示という非常に重要な課題についても資料収集を行うとともに、本センターでの調査を本研究に応用する可能性を発見することができた。以上の点で、当初の調査対象地での調査を実施できなかったとはいえ、文献研究と2年目以降の研究の方向性を明らかにすることができた点で、達成度でいえばおおむね順調との結論を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究目的であった「脆弱性」の克服、自律性の維持、自主防災活動や環境保全などの言説が東日本大震災によって再考すべき課題となった。しかしながら、これらの言説を「外部者」と「内部者」との相互行為による脱境界的・超境界的関係性維持を支える「里海」「里山」論を考察するために、新たな検討要素として加わったNGO・支援者グループ(個人)・マスコミ報道などの動きを丹念に追うことになる。また、平成23年度には実施を見送った東北の被災地の漁村・海村において住民と外部者とのネットワークのあり方についてミクロな視点にたち公民館や支援者団体の具体的な動きについて研究を行い、津波被災地となった海村と、直接の被災地とはならなかったものの間接的な被災地となった福島県の山村との地域振興のあり方について深く掘り下げた研究を行う。最終的には防災や減災という当初の課題から「復興」という新たな課題設定も行う。研究の当初計画では、「将来予測される」災害に対して地域社会がどのような脆弱性克服に向けた戦略をたてているかを検討することであったが、研究開始後は「実際におこってしまった」災害に対し、地域社会がいかにして地域の自律性を取り戻しているか(あるいは取り戻せていないか)という、新たな問いに対して社会人類学的研究がいかに貢献できるか、という重責が課せられているといえるが、本研究ではこの点についても一定の提言を行えるべく問題点の指摘を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、前年度に震災で調査を断念した東北の山村(福島県会津地方)の調査に加えて、新たな課題となった大規模災害を契機とする、内部者と外部者との相互行為、災害後に新たな再考課題となった「地域社会」の自律性に関する言説を復興と地域再生の視点から考察すべく、東北の山村と海村での調査を予定している。5月の連休に4泊5日の予備調査を福島県会津地方(河沼郡を予定)で実施し調査地を設定し、7月下旬から8月上旬にかけて10日間の実態調査を実施する。今年度は昨年の大震災により、様々な風評被害も含む形で被災した山村の災害からの克服が課題となる。さらに近年、磐梯地方で問題となっている地熱発電による地域興しが地域の暮らしに与える影響、開発に対するとりわけ観光関係者の動きに関しても情報収集を行う。さらに、山村との比較を視野に入れて、東北の海村でも4泊5日程度の資料収集を兼ねた調査を同時期に実施する。 続いて8月下旬から9月上旬にかけて沖縄県竹富町と石垣市で、学校存続(統廃合を含む)に向けての住民の動き、新たな観光資源の開発に関する住民の意識、2011年の大規模自然災害報道に接した当該地区の住民の防災への取り組み、防災を目的とした土木事業と景観論との相互行為について、内部者(住民)と外部者(観光客、Uターン者、沖縄・八重山フリーク、郷友会)などから聞き取りを行う。この調査は八重山地区にとどまらず、多くの八重山出身者が居住する沖縄本島と兵庫県(阪神間)でも、冬休みの5日間と春休みの5日間を利用して主に郷友会会員を訪問して継続して調査を行う。 本研究の調査地のひとつである関東の山村については、秩父地域と奥多摩地域でそれぞれ3泊4日程度の調査を秋に実施し、「都会に隣接する準限界集落」と称される地域の実態について聞き取りを中心に調査を実施し、昨年度に集中して情報蓄積を行った鹿児島県甑島との比較研究も行う。
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