2013 Fiscal Year Research-status Report
過疎高齢海村・山村における村落解体阻止と脆弱性克服に関する社会人類学的研究
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23520991
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高桑 史子 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (90289984)
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Keywords | 過疎高齢社会 / 脆弱性 / resilience / 郷友会 / 廃校・閉校問題 / 甑島 / 八重山 / Uターン |
Research Abstract |
平成25年度は、収集した文献資料とWeb情報の分析に加えて、研究会や報告会等に出席して、具体的な情報の蓄積にも努めた。また並行して研究を行っているインド洋地震津波の被災地復興とも関連させた研究を行った。 前年度に引き続き、鹿児島県薩摩川内市下甑町(下甑島)の村落における廃校によって引き起こされた地域を越えた新たな動きに関する研究を実施した。同じ関西地区に住みながら尼崎、大阪、神戸など居住地が異なることで、決して緊密な関係性が築かれていなかった出郷者が、廃校という共通の体験を契機に新たな相互関係性を築きつつある。その背後には出郷者世代の子・孫世代が必ずしも親(祖父母)の出身地に関心をもたず、郷友会自体が高齢化で存続の危機にあるという事実がある。すでに甑島の各出身集落にUターンをした世帯(多くが夫婦でUターン)が高齢化し、長年住んだ関西への望郷、関西に住む子世代からの呼び寄せなど、「逆Uターン」ともいえる現象も近年見られるようになっている。地元住人、Uターン者、出郷者(Uターン待機者)、逆Uターン者、さらに加えて公的機関等の外部者といったそれぞれ異なる背景を有する人々による動態的な共同体再生の動きが、廃校によって加速化していることが知見として得られた。 共同体自律の要ともいえる、学校がなくなるという事実がもつ意味について、地元と郷友会との関係、郷友会内部での個々の人間関係に着目した考察を行うなかで、廃校の危機を乗り越えようとする状態は、村落解体阻止に向けた緊張関係を強いられている状況であるが、結果的に廃校に至った村落において、それが必ずしも村落の自律性の崩壊に至るわけではない。むしろ、廃校という経験から新たな地域再生に向けた動きが見られる。廃校プロジェクトや廃校を利用した地域再生プログラムに多くの他者(非出身者)が係わり、新たな地域再生の段階に入っているともいえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年から開始した本研究では、鹿児島県薩摩川内市の山村、島嶼域(甑島)、沖縄県八重山の海村(石垣島北部域)島嶼域(竹富町鳩間島)での調査と資料収集は順調に実施されている。また甑島出身者が多く暮らす兵庫県の阪神地区と鳩間島出身者が多く暮らす石垣島四箇(中心部)と沖縄本島域でのとくに郷友会メンバーからの聞き取りも行ってきた。また会津の山村においても、地域の民俗や歴史上の事件に着目し、それらを共有の知的資源にまで昇華させた多様な形態の地域おこしプロジェクトの存在についての知見を得た。 これらに共通することは、脆弱性を認めた上で、それを前提として故郷に住み続ける人たちと異郷に住む人たちによる新たな関係性構築に向けた模索が地域の自律性を再生産していることである。本研究の出発点が、過疎高齢社会が潜在的にもつ脆弱性が地域内外の人々にどのように受け止められ、また克服するためにどのような策が練られるかということであったが、むしろそのような策をこうじる過程で多様な人間関係が形成され、そのようにして構築されていく人間同士の相互関係が新たな地域を形作っていくという結論に達した。 たとえば廃校を阻止しようとする人々の行動は、地域の内外を問わず、出身者や観光客のような訪問者をも巻き込んだ境界の曖昧な集団を形成し、その集団による新たなプロジェクトが誕生するのである。さらに廃校阻止という緊張感の持続は担い手をときに疲弊させるものの、結果的に廃校に至っても、さらに新たな地域再生に向けた行動がスタートする。これは、下甑島の小学校が廃校に至るまでと廃校後の人々の行為の分析から理解可能である。地域と学校との相互関係のみならず、そこから生じる様々なミクロな人々の動きや故郷(あるいは過疎という現象にある社会をまなざす目)が地域という境界を越えて「里山」「里海」構築へと収斂していく枠組みを設定する点に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」や「現在までの達成度」で明らかにしたように、本研究の目的である住民と「外部者」による働きかけの相互行為の結果生成される脱境界的な関係性と、その関係性維持を支える「里山」「里海」論の考察という当初の研究目的を遂行するための実態調査は、会津山村での調査を除くと、西日本に集中してきた。その主たる要因は2011年3月の東日本大震災による新たな研究枠組設定の必要性の存在である。加えて当初の研究計画では、廃校阻止やUターン者減少あるいは伸び悩みによる脆弱性の克服について、すでに西日本での研究蓄積が先行しているからでもある。 今後は、西日本に比べて実態調査による一次資料収集が不足している東日本の山村で、観光と地域振興とをリンクさせる動きや里山資源活用という新たな政策実施のあり方を主たるテーマに調査を実施することで、文献研究での蓄積を補うことになる。また震災と津波以降に夥しい数の研究が公にされているが、これらを参考に、福島県の漁村を対象に、地域社会がどのような復興をめざし、さらに復元力resiliencyがどのような形で顕在化しているかについて聞き取りを実施する。これは、代表者が2004年以降実施しているインド洋地震津波の被災地であるスリランカの南部漁村の復興の様子との比較を視野に入れている。 また東京都檜原村あるいは周辺山村では、文献とweb関係の収集は行ったものの、実態調査を実施してより具体的な情報を得るまでには至っていない。これまでに代表者の研究蓄積のある東京都の島嶼域との比較を前提に山村における脆弱性克服と地域おこしの実態についても短期調査を行う。 以上、今年度は主に関東と東北を中心とした東日本の山村での実態調査を実施し、研究成果の発刊を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究開始直前に東日本大震災がおこり、過疎地における脆弱性克服と自然災害からの復興とを関連づけた研究を進めようと準備を進めながら、当初計画に沿って研究を遂行してきた。最終年度である平成25年には、これらの準備によって蓄積された知見をふまえて東日本大震災の被災地である福島県の海村のresilienceと脆弱性克服の様態を視野に入れた短期調査を計画していたが、原発災害による放射能汚染の問題とコミュニティ存続に関する諸課題が未解決なままであり、これらのことから研究遂行のために実態調査を計画するに至らなかった。広大な被災地における個々の報告は様々な手段で行われ、また研究会への参加や実際に当該地域の研究者や支援者からも具体的な話しを聞くことで知見を得てきた。東日本山村と津波被災地での実態調査に着手することが不可能になったために、次年度使用額が生じた。 次年度においては、未だ具体的な実態調査を実施していない東日本の山村と漁村での調査を実施する。 過去3年間にわたり、文献研究に終始してきた関東の山村の過疎高齢化から引き起こされる脆弱性を克服する試み、東日本大震災から3年がたった被災地においてresiliencyに基づく復興の動きを支える「里海」論の確認を目的とする聞き取りを主とした実態調査を実施する。いずれも3泊4日ないしは4泊5日程度の短期的な調査を3回程度実施する この3回の調査のための旅費として20万円程度を予定している。また、過去において質的量的な資料の蓄積がある甑島と鳩間島に関して、これまでに発表してきた業績をまとめてそれぞれ1冊の報告書として刊行する。この報告書出版費用として、10万円を予定している。情報整理と出版に向けた原稿整理のためにアルバイトを雇用するが、その費用として10万円を予定している。
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Research Products
(2 results)