2011 Fiscal Year Research-status Report
大衆の法意識から見るローマ契約法の研究ープラウトゥス喜劇を素材として
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23530013
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
五十君 麻里子 (安武 麻里子) 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30284384)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ローマ法 / 契約法 / プラウトゥス喜劇 / 法意識 |
Research Abstract |
本研究の目的は、紀元前2世紀のローマ大衆に広く人気を博したプラウトゥス喜劇を素材に、法的な営みを前提とする台詞に着目し、ローマ人一般における契約観や合意観を明らかにし、19世紀のパンデクテン法学以来の伝統的なローマ法学の捉え方に代わる視点を学界に提供することにある。平成23年度においては、プラウトゥス作品全20作品につき、法律用語を抽出し、その文脈を確認した上で、とりわけ合意がいかに扱われているかを検討するとともに、それらの用語がいかなるメカニズムで「笑い」と結びついたのかを分析し、分類する予定であった。これに対して実際には、プラウトゥス作品すべてを網羅的に検討することはできなかったが、『バッキス姉妹』において、ローマ人の契約観・合意観にかかわる興味深い場面を発見することができたので、この場面について集中的に研究した。すなわち、遊女であるバッキス姉妹のうちの一人が軍人の妻であると誤解し、奴隷から、この女と自分の息子が姦通を犯しているものと思い込まされた父親が、軍人と事なきを得るために、奴隷を介して結ぶ金銭支払い契約がそれである。父親はまず奴隷にpaciscorという単語を使って軍人との間を取りなせと命じる。その中で取引が具体化してくると、意思を確認し、さらに問答契約の文言を使って父親に一定金額の債務を負わせるのである。後に、バッキス姉妹が軍人の妻ではないことが判明しても、この債務負担行為の拘束力は変わらず、父親は約束した金銭を支払わなければならない。問答契約とは、問と答えの形を用いた片務的な債務引受の要式行為であるが、その要式が満足されれば、債務から逃れることはできないのである。これは、合意を契約の本質と考え、問答契約といえども当事者意思によって変更されるとの主張も見られる現在のローマ法学の議論とは逆行するものであり、ローマ人の契約観を具体的に表すものとしての意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プラウトゥス喜劇全作品を網羅的に分析する事はできなかったものの、その代わり『バッキス姉妹』について一定の研究成果を挙げ、シンポジウムにおいて報告する事もできるなど、予定外の進展があったため。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に24年度分の研究を先取りした面が有る一方、網羅的な分析など前年度に積み残した課題もあるので、24年度はこれを中心に研究を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度、英語圏における資料収集と喜劇鑑賞が、研究の推進に有意義であったので、24年度はアメリカおよびイギリスで資料収集/喜劇鑑賞にあたり、イギリスでは学会発表も予定している。また、引き続き資料の充実を図る。
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Research Products
(2 results)