2012 Fiscal Year Research-status Report
国際規律の形成・受容・確保に関わる統治構造理解の前提の変容と憲法的統制の再構築
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23530034
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
齊藤 正彰 北星学園大学, 経済学部, 教授 (60301868)
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Keywords | 公法学 / 憲法 / 条約 / 国際規律 |
Research Abstract |
本年度は、条約締結の承認と当該条約の国内実施法の制定とが国会審議において区々に扱われている問題について検討するとともに、従来の条約とは性質を異にする国連安保理決議の国内的実施に関する問題についても検討するという計画に基づき、資料・文献を収集・考察し、関連する論文を公刊した。 研究の具体的成果として、まず、多層的立憲主義の観点からの論文「新たな人権救済制度がもたらす人権規範の共通化─個人通報制度と国内人権機関」が公刊されたが、その執筆は実質的には前年度の成果である(平成23年度の研究実績の概要において報告済み)。この論文でも打ち出した「多層的立憲主義」は、「国家間で形成され、あるいは整備が求められる法」の基盤を説明するキーワードと考えられる。そこで、昨年度に公刊した単著『憲法と国際規律』の次に続く課題を見据え、本研究の課題の位置づけと論点を俯瞰するものとして、「憲法の国際法調和性と多層的立憲主義」を所属機関の紀要に執筆した。この論文では、従来の憲法98条2項の解釈を見直すための視座を明らかにし、考察の手がかりとしてドイツ連邦共和国における「国際法調和性の原則」についての判例の展開等を確認した上で、多層的立憲主義と国際人権条約の関係を論じ、さらに、多層的立憲主義と人権以外の国際規律の関係について展望した。憲法によって設営される国内機関が、国家の領域外で活動する中で他国との間でなされた合意が国内に及ぼされ、あるいは、そのようにして創設された国際機構が国内で高権を行使することが生じるような場合(国連安保理決議の国内的実施に関する問題もここに関連する)を考えると、国家の対外権の統制について論じるのに既存の道具立てでは限界がある。そこで、国際的に活動する国内機関および国際機構の法的統制のしくみを考えるについても、多層的立憲主義の構想が有用であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際規律の国法体系への受容段階の問題として、条約締結の承認と当該条約の国内実施法の制定とが国会審議において区々に扱われている問題について検討するとともに、従来の条約とは性質を異にする国連安保理決議の国内的実施に関する問題についても検討するという本年度の研究計画については、国連安保理決議の国内的実施に関して十分に検討を深められなかった面はあるものの、「国家間で形成され、あるいは整備が求められる法」の定立から実施までの過程を総合的かつ動態的に捉えて、その憲法的統制を考察するという本研究の課題の位置づけと論点を俯瞰する論文を所属機関の紀要に執筆しており、相応の達成度に至っていると評価できる。 さらに、本研究とは別の共同研究による現地調査の際に、オーストラリアにおける条約締結の実際について調査し、現地日本大使館の書記官からも詳細な情報を得ることができた。単に「二元論」を採る国家として片付けることのできない、連邦制の事情と結びついた、条約締結後の国内的実施の実効性が担保されることを志向するオーストラリア連邦議会での手続から、本研究の目的達成のために貴重な示唆を得ることができた。 これらの事情を総合的に勘案すると、当初計画以上とまではいえないが、おおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、当初の研究計画に従い、中心的なテーマとして、国際規律の国内的実施の確保段階の諸問題について検討する。国内裁判所とりわけ最高裁判所の責務という観点から、単に裁判での条約の適用問題ではなく、国法秩序を国際規律に適合的に維持し、日本国の国際規律違反を避止し、あるいは国際紛争を法的に処理するための対応を憲法学の観点とりわけ多層的立憲主義の視座から総合的に検討するものとする。 平成23・24年度における考察の成果に基づき(必ずしも検討が十分ではなかった部分を補完しつつ)、研究計画全体の進捗状況や状況の変化に応じて、合理的な調整を行いつつ研究の推進を図り、3年間の研究成果をまとめて、適時に公表するものとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度における配分額は、昨年度に発注済みの洋書の納品が遅れたために執行できずに繰り越していた分を含めて、ほぼ予定通り執行を終えている(次年度に繰り越す額は2000円ほどである)。したがって、研究計画の変更等、研究遂行上の対応が必要となる課題を生じさせるものではない。 平成25年度における配分額については、当初の計画に沿って、補助事業期間の最終年度であることも考慮し、適切な執行を図るものとする。
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