2011 Fiscal Year Research-status Report
国際取引と競争・消費者保護-食品分野における法規制を中心として-
Project/Area Number |
23530063
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
和久井 理子 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 研究員 (50326245)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 英国 / EU / 米国 / 香港 |
Research Abstract |
本研究の目的は、自由競争が導入され、グローバル化が進む中で、消費者が公正に便益を受けることができるようにするための法制度のあり方と発展の可能性を、食品分野に焦点をあてて検討することである。この目的を達成するために、平成23年度には、(1)不公正取引規制原理の比較法的研究、(2)消費者保護・食品安全にかかる法制度の文献・情報収集、(3)食品の安全性を確保する規制機関と基準・認証機関の作用についての文献調査を行うことを計画していた。 これらのうち、(1)については、なかでも、EUの不公正取引に関する一連の指令と規則と食品表示に関する新しい指令を調査した。日本国内の関心が高く、今後の法改正への影響力が大きいとみられる不公正取引・消費者保護にかかるEU指令・規則案(消費者権指令、欧州共通販売法(案)など)については、翻訳を作成し、広い層からアクセスできるようインターネット上で公表した。(2)については、ドイツや日本国内において開催された研究会議に参加し、香港大学において共同研究するなどして進めた。(3)については、危険な食品の流通を阻止することなどのために利用される早期警戒制度と規制機関間協力(規制機関間情報共有制度等)についての文献調査を行った。 これらに加えて、(4)食品流通の実態と法的規制に関する比較法的検討(大手流通業者と納入業者との取引関係を中心として)を香港大学にて行い、日本独占禁止法・優越的地位の濫用にかかる論文(英語)の共同執筆を開始した。このテーマは食品流通のあり方、とりわけ大手小売店の購買力問題に関わる。加えて、(5)危険な商品の水際取締措置について香港の規制状況を調査し、(6)本課題の研究を進める上で関連性が強い立法過程の経済分析、実効的な規制のあり方にかかる経済学的・政治学的分析にも取り組み、前者については法学・経済学研究者から注目される研究者の論文を翻訳して公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」に記したとおり、2011年度には、計画した事項について研究調査等を開始し、その成果の一部についてインターネット上で公表するとともに、論文の形で公表する準備を進めることができた。なかでも、翻訳・公表(上記「実績の概要」(1)参照)を行ったものをはじめとする欧州の指令・規則等は、欧州加盟国の国内法制度の比較研究を踏まえて策定され、消費者保護と加盟国間通商の活発化という問題にも関わり、実務上の重要性が高いというだけでなく、理論的にも興味深いものである。インターネット上で公表することで、迅速かつ広く研究成果を共有することができたと考えている。また、グローバル化する中での食品取引の現状(流通における集中の進展、グローバル化、購買力行使の実態等)とこれに対応する規制について国際比較を行い、食品取引分野における貿易と競争の機能及び取引の公正性のあり方についての研究を進めることができた。 他方で、文献と聞取調査については、限定的な範囲でしか行うことができなかった。この理由は主として第一に、東日本大震災後に生じた日本製食品の輸入制限の問題やリスクコミュニケーションなどの問題を咀嚼し、これに対応する諸制度を検討するために時間を割いたこと(上記「実績の概要」(3)、(5)参照)、第二に、食品等消費者向け商品の流通過程における買い手購買力(バイイング・パワー)が世界的に問題となり、日本・公取委による実態調査報告書が公表されたことなどを受けて、取引実態・規制の中でも、もともとは予定していなかった優越的地位の濫用規制(上記「実績の概要」(4)参照)の研究に取り組んだことにある。また、東日本大震災の影響も受けて科学研究費(基盤C)の確定配分額等の連絡が遅れたことから、とりわけ聞取調査については時宜にかなった形で調査先と調整し、スケジュールを立てることなどができなかったことも影響した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に(1)消費者保護ならびに食品にかかる法規制の比較研究と、(2)独禁法・WTO法上の判決・決定・法学理論の研究を行なった上で、平成25年度に研究成果を総括し提言等を行うことが、当初の計画であった。このお計画は基本的に変更することなく、今後の研究を推進することとしたい。ただし、平成23年度中の達成度ならびに調査研究結果に鑑みて、次のとおり、若干の修正を行う。 第一に、平成24年度には、消費者保護と食品安全にかかる法制度にかかる文献の収集と聞取調査を上記研究(1)、(2)に並行して進める。これは、平成23年度中に達成することができなかった網羅的な文献収集作業と聞取調査を、平成24年度中に遂行するためである。 第二に、比較法を行う対象は、欧州、英国、香港、米国とする。当初の計画では、欧州およびEU加盟国中の1国ないし複数国と比較することとしていた。これを、欧州について欧州・英国と比較することとするのは、EU機関と英国の資料を参照すれば、欧州加盟国他国についても、その動向がかなりの程度まで把握できることが判明したことが理由である。他方、米国については日本との取引高が大きい同国の法制度と政策研究の重要性を再認識したこと、香港については中国からの食品輸入急増という日本に共通する課題に直面していることとアジア各国の法制度への影響が大きいことが分かったことから、追加するものである。 また、公表の方法については、本課題、とくに食品分野に直接的にかかわる分野に予め限定することなく公表の機会を獲得し、かつ、内容も、本研究の成果を部分的にでも応用することができるのであればその機会も利用して、行うこととする。これは、本課題に直接的に関係する分野及び内容に限定すると公表が容易ではないところ、成果の発信を活発に行うために、関連・応用分野にも積極的にその機会を求めていくことにしようとするものである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献収集に研究費の主要な部分を利用する。とりわけ、「次年度使用額」は、全額を平成23年度中に行う予定であって消費者保護・食品安全関係図書・雑誌とWTO・独禁法関係図書・雑誌、私法関係図書を購入するために利用する。「次年度使用額」が生じたのは、上記「現在までの達成度」に記した理由により、文献収集を限定的にしか行うことができなかったためである。この収集作業を、「次年度使用額」分の研究費を使用して、平成24年度中に行いたい。この額に加えて、平成24年度に配分される予定の研究費のうち、50%に相当する額を、文献収集に充てて、文献収集を実施する。この他、インクトナーや文房具などの消耗品を購入する(平成24年度配分額の5%に相当する額を充てる。)。 旅費について、平成24年度中には、欧州と香港と日本国内において、調査研究および研究会出席を行う。このために研究費を使用する(次年度配分予定額のうち25%に相当する額)。欧州については、平成23年度中にドイツに出張し、私法上の重要な改正動向と加盟国各国の法制との関係についての情報収集と動向把握を行なったところである。今後、さらに重要な法改正が予定されており現地での情報収集を行う必要性が高い。香港については、香港に所在する大学所属研究者らとの議論を進めるべく出張することとしたい。なお、米国については、平成25年度春に調査に行くことを予定しており、それまでの間は、公表されている文書等で研究調査を進めることとしたい。 英語での研究成果公表を予定しており、一部については論文の執筆を開始している。この過程で、英語校正費用が必要となる。文献資料については、他者に委託することができる比較的単純な整理作業をする必要があり、この整理作業を行ってもらうために、研究費を使用する。これらのために、平成24年度に配分される予定の額の20%に相当する費用を充てる。
|
Research Products
(1 results)