2011 Fiscal Year Research-status Report
道半ばの「農地改革」と日本農業のゆくえ――農地資源はだれのものか
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23530069
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
原田 純孝 中央大学, 法務研究科, 教授 (50013016)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 平成の農地改革 / 農地耕作者主義 / 農地取得の自由化 / 地域的農地管理 / 土地改良法特例法 / 復興特区法 / 宅地・農地の一体的整備事業 / 日仏比較 |
Research Abstract |
1.年度前半には、(1)新農地制度(2009年12月施行)の運用状況がある程度知られてきたので、2010年農林業センサス結果の概数値も踏まえつつ、新農地制度の当面のインパクトを多面的な視点から分析・評価する作業を行った。研究発表(6)の編著『地域農業の再生と農地制度』が成果であり、法学・農業経済学・農地行政の各分野の専門家による11章の論文を収録している。本研究者も、前年度までの研究の蓄積の上で今後を見通すことを意図した論文を執筆した(研究発表(1))。同書は、今後の研究推進のための一つの重要な基盤を整える意義をもつ。また、(2)「農地の保全と管理」に関する国際コンファレンスの招待講演の機会を活用して、日本の農地転用制度の仕組みと課題を、歴史的展開過程を踏まえつつ総括的に整理する作業を行った(学会発表(4))。 (3)年度後半に執筆した研究発表(3)は、民法債権法改正作業における不動産賃貸借の問題と課題を検討する共同研究の一環として、農地賃貸借制度の固有の特徴と課題を分析・整理したものである。 2.東日本大震災と福島第一原発事故の影響により、一般的な政策・施策の推進にブレーキがかかる一方、津波被災地の復旧・復興に向けた土地関係の特別事業制度整備の動きが登場したので、年度後半には、その内容の研究に着手した。研究発表(5)の招待講演は、土地改良法特例法(2011年5月)と復興特区法(同年12月)中の「宅地・農地の一体整備事業」制度とを中心として、その作業結果の一部を報告したものである。 3.フランスについては、関係資料の持続的な入手に努めつつ、日本農業の再建のためにフランスの構造政策の経験から学べるものはないかという視点から、幾つかの講演や研究報告を行った。研究発表(2)はその一つである。また、年度末にはパリに赴いて関係諸機関を訪問し、農業・農地政策と都市政策の最新動向に関する聞取り調査を実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.東日本大震災と福島第一原発事故の影響により、本研究者自身にも予定外の業務や処理案件が生じたため、本研究推進のための十分な時間が取れず、全国的に騒然とした雰囲気とも相まって、とくに国内での現地調査が予定通りに実施できなかった。 2.同じく大震災と原発事故の影響により、国レベルでも、農業・農地政策ならびに都市・土地政策の双方において、一般的な政策・施策の推進や立案の動きが大きく遅延した。例えば、TPPへの対応の方向性もいまだ十分明確にならず、農水省の「『我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画』(『食と農林漁業の再生推進本部』による政府決定。2011年10月)に関する取組方針」が発表されたのは、2011年12月24日である。 3.しかも、それらの政策文書やその具体化のために打ち出された関係施策――とくに「新規就農・農地集積に関する施策」(2011年12月)と、それをも取り入れた「地域農業マスタープラン」=通称「人・農地プラン」の策定方針(2012年1月末~)――の内容をみると、民主党政権下の農政の「ある種の迷走ぶり」が現われており、従前の農政との連続性のあり方や今後の農業・農地政策の展開方向の基本線を見定めることが、いま一つ困難な状況にある。とくに「人・農地プラン」に組み込まれた諸措置が現実に有する意義は、各市町村によるその策定結果をみなければ、軽々に判断しがたいところがある。その点は、見直し後の戸別所得補償制度の機能についても、また同様である。 4.以上のような事情から、研究の達成度はやや遅れ気味となり、本年度に予定していたパソコン関係機器の購入も先送りした。そのことと上記1の点とが相まって、研究経費の面でも次年度への繰越金が発生した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「現在までの達成度」の項の記載からわかるように、2011年度の研究の進捗を遅らせた諸要因(大震災と原発事故による予定外の業務や処理案件の発生、国レベルの一般的な政策や施策の推進・立案の動きの遅滞、年末以降に打ち出された政策や施策の方向性の曖昧さなど)は、基本的には解消されてきているので、関係の制度・政策と諸施策の内容と実施状況をあらためて整理し直したうえで、以下の作業を進める。 2.国内調査:(1)新農地制度の現実の効果と影響を見定めるため、当初から予定した調査項目を主眼として、4~5ヵ所の農業地域で実態調査を実施する。ただ、その調査に際しては、(2)新たに制度化された「人・農地プラン」の各市町村での具体的な策定結果への目配りが不可欠となるので、調査の狙いと調査項目を再整理する工夫が必要となる。また、それとは別に、(3)津波被災地の復旧・復興のために土地法制度(特別事業制度を含む)が担うべき機能と課題を具体的に検証し、復興後の農業・農村の姿をどう見通すかを考えるため、被災地域での実態調査を3~4回程度実施する。繰越金の相当部分は、これらの調査費用に支出される。 3.(1)2011年度末に一応出揃ってきた農業・農地関連施策の意義と狙い(方向性)並びにその現実の効果を、上記の調査結果を踏まえて分析・評価する。(2)TPP対応関連で農地制度改正の新しい動きが登場した場合には、それも遅滞なくフォローする。(3)総合的な土地利用計画制度の整備(都市計画法や国土法の改正等)に向けた動きについては、大震災のインパクトにも留意しつつ、所要の情報の収集と整理・分析に努める。 4.海外調査:新しい社会党政権下のフランスやEUでの関係諸制度(都市計画法を含む)の機能や最新の政策・立法動向を把握するため、年度末にパリの関係諸機関に赴き、聞取り調査と資料蒐集を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.物品費――2011年度には先送りしたパソコンと関連機器の購入費、および、図書と雑誌・資料の購入費が、2012年度の主な支出費目である。2011年度からの繰越金の一定部分は、このうちの前者に充当される。 2.国内旅費――(1)新農地制度の現実の効果と影響を、「人・農地プラン」の策定結果と関連させて把握・分析するための実態調査(2012年度には4~5ヵ所程度の農業地域)と、(2)津波被災地域の復旧・復興事業の推進過程と地域再建の方向を検証するための実態調査(2012年度中に3~4回程度)に支出する。調査対象地域は、漸次的に選定していくが、2011年度からの繰越金の相当部分は、これらの調査費用に充当される。 3.外国旅費――年度末のフランス・パリ市での現地聞取り調査(資料蒐集を含む)に支出する。日程は、12日間程度を予定。 4.人件費・謝金――主要には、研究作業全般について研究補助業務を担う補助者を使用する費用に支出する。他には、実態調査の協力者への謝礼品代が一部、含まれる。 5.その他――複写費と通信・運搬費が主たる支出内容である。
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