2012 Fiscal Year Research-status Report
道半ばの「農地改革」と日本農業のゆくえ――農地資源はだれのものか
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23530069
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
原田 純孝 中央大学, 法務研究科, 教授 (50013016)
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Keywords | 平成の農地改革 / 農地耕作者主義 / 農地取得の自由化 / 地域的農地管理 / 農地賃貸借制度 / 土地改良法特例法 / 復興特区法 / 日仏比較 |
Research Abstract |
1.(1)年度前半には、研究発表①の論文の執筆に多くの時間を割いた。同論文を所収した書物は、民法債権法改正作業を意識しつつ不動産賃貸借の今日的課題と展望を幅広く検討したもので、2012年秋の私法学会シンポジウムの参考資料ともされた。本研究者は、同論文では、日本の農地賃貸借制度は農地改革を経たが故に、借地借家法とは異なる固有の特質をもつこと、1970年以降の改正(農業経営基盤強化法も含む)もその特質に由来するジレンマを残していること、土地利用型農業での借地型経営の発展を見通すにはその隘路の克服が必要なことを、農地制度の全体的な構造を踏まえて分析している。 (2)新農地制度の運用状況(法人企業の参入状況等)をフォローする一方、民主党農政が2012年4月から実施に移した「地域農業マスタープラン」=「人・農地プラン」(新規就農と農地集積の促進施策)の策定状況の情報を収集した。ただし、後者は、民主党農政の「ある種の迷走ぶり」の反映もあるため、期待されたほどの成果をあげていない。加えて、2012年末の政権交代もあり、今後の農業・農地政策の展開方向の基本線を見定めることは、現在かなり難しい状況にある。 2.東日本大震災の津波被災地の復旧・復興事業における土地関係制度の役割を確認するため、4月と10月に宮城県東部地域で現地調査を実施した。2011年12月の復興特区法の特別事業制度はよく機能しておらず、同年5月の土地改良法特例法を活用した仙台東部地区の大規模圃場整備事業(国営土地改良事業。約1800ha)にも困難が多い。事実、後者の事業は、2013年2月に十分な量の同意書取り付けに失敗し、仕切り直しの状態にある。 3.フランスについては、年度末にパリに赴いて関係諸機関を訪問し、社会党政権下の農政改革の検討作業が開始され、秋には大きな法案が作成されるとの見通しを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.時間と労力の配分面では、(1)研究発表①の論文執筆作業に予想外の時間を取られ、(2)津波被災地の復旧・復興事業の進捗状況に関する情報収集にも労力を割いた。ただし、①の論文は、本研究の目的を達成するためには、いずれにせよどこかで整理・分析・確認しておかなければならない問題を扱ったものであり、次のステップの考察を進める上での重要なプラットフォームを築いたという意義がある。また、(2)の問題も、「3.11」を経た今日では、本研究課題の一環に取り込むことが不可欠であると考えている。 2.他方、(1)国政のレベルでも、農業・農地政策ならびに都市・土地政策の双方において、一般的な政策・施策の推進や立案の動きが遅延している。東日本大震災と福島第一原発事故の影響、民主党農政の「ある種の迷走」、2012年末の政権交代などがその大きな要因であり、2009年農地制度改正後の農業・農地政策が向かう方向と内容を的確に見定めることが困難な状況にあった。(2)農村の現場でも戸惑いが続いていたようである。(3)農水省が2012年夏前に法人企業の参入状況に関する調査を実施しながら、結果の公表を半年以上遅らせたのも、そのような状況を反映していた。(4)安倍政権はTPP交渉への参加に踏み切り、農政路線として「競争力のある『攻めの農業』」を打ち出してきているが、その具体的な施策の内容は、農地(利用権)の中間管理機構の創設案など、まだ一部が見え始めたにとどまる。このような状況下では、具体的な分析作業は進めにくかった。 3.フランスでも、オランド社会党政権の成立に伴い、農政の動きが停滞した。「農業危機」が叫ばれる状況下で、EUの次の共通農業政策見直しを見据えた新しい農業政策の検討・立案作業が開始されたのは、2013年春のことである。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「現在までの達成度」の記載からわかるように、2012年度の研究の進捗を遅らせた諸要因は、基本的には緩和・解消されつつあるので、日仏ともに関係の制度・政策と諸施策の内容並びに実施状況を改めて整理し直したうえで、以下の作業を進める。 2.国内調査:(1)新農地制度の効果と影響を見定めるため、当初から予定した調査項目を主眼として、3~4ヵ所の農業地域で実態調査を実施する。その調査に際しては、(2)昨年度から運用された「人・農地プラン」の各市町村での具体的な策定実態への目配りが必要となるので、調査項目は再整理する。また、それとは別に、(3)津波被災地の復旧・復興のために土地法制度(特別事業制度を含む)が担うべき機能と課題を具体的に検証し、復興後の農業・農村の姿をどう見通すかを考えるため、被災地域での実態調査を2回程度実施する。「旅費」の繰越金の一定部分は、これらの調査費用に支出される。 3.(1)おそらく夏の参院選後には明らかになるとみられる安倍政権の農業政策の方向と農地関連施策の内容、並びにそれが有しうる意義を、上記の調査結果を踏まえて分析・評価する。(2)TPP対応関連で農地制度改正の新しい動きが登場した場合には、それも遅滞なくフォローする。(3)総合的な土地利用計画制度の整備に向けた動きについては、大震災のインパクトや国土強靭化政策、老朽インフラ対策などにも留意しつつ、所要の情報の収集と整理・分析に努める。(4)年度内には、そのうちの成果の一部を発表したい。 4.海外調査:社会党政権下の農業政策見直しの基本的な内容は、9月頃には固まる見通しと聞いたので、9月末にパリの関係諸機関に赴き、聞取り調査を行う。「旅費」の繰越金の一部は、この費用に充当する。得られた情報は、早い機会に発表したい。法律案が公表されれば、それも分析・評価の対象とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.「費目別収支状況等」に記載された前年度からの繰越金(「次年度使用額」)約100万円のうち、約65万円は、実際には前年度末に支出済みのものであり(ノートパソコン代、海外調査旅費ほか)、実質的な繰越額は、約35万円である。その繰越額のうち、ごく一部を「物品費」(パソコン関連機器と、図書および雑誌・資料の購入費)に充当し、大半は、2と3の「旅費」の費目に充当する。 2.国内旅費――(1)新農地制度の現実の効果と影響を、「人・農地プラン」の策定結果と関連させて把握・分析するための実態調査(3~4ヵ所程度の農業地域)と、(2)津波被災地域の復旧・復興事業の推進過程と地域再建の方向を検証するための実態調査(2回程度)に支出する。調査対象地域は、漸次的に選定していくが、前年度からの繰越額の一定部分は、これらの調査費用に充当される。 3.外国旅費――9月末予定のフランス・パリ市での現地聞取り調査(資料蒐集を含む)に支出する。日程は、10日間程度を予定。繰越額の一定部分をこれに充当する。 4.人件費・謝金――主要には、研究作業全般について研究補助業務を担う補助者を使用する費用に支出する。他には、実態調査の協力者への謝礼品代が一部、含まれる。なお、「その他」として、複写費と通信・運搬費を支出する。
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