2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530084
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小粥 太郎 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40247200)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 情報 / 司法制度 / 民法 / 名誉 / プライバシー / 忘れられる権利 / 近代 / 小野清一郎 |
Research Abstract |
平成23年度の研究の中心は、情報化社会の進展と私法システムとの連関についての概括的な検討であった。情報化社会におけるプライバシー・名誉などの侵害の場面においては、伝統的な侵害態様とは異なり、多数の加害者により(インターネットの利用)、永続的な加害(ウェブ上に加害情報が残る)が行われる。こうした侵害に対しては、不法行為法と民事司法制度による救済がよく機能しない。被告を探し出すことが難しく、仮に訴訟を提起して勝訴しても金銭賠償によっては十分な救済が得られないからである。不法行為法の抑止機能に期待すべきかもしれないが、プライバシーや名誉の主体が、人格を使い分けることによって、自らを守る可能性も示唆されている(平野啓一郎の分人主義)。しかし、人格の使い分けの意味は、必ずしもはっきりしない(分人主義と、憲法学説[棟居快行、長谷部恭男など]との関係は、なお検討したい)。また、徹底的な人格の分離は近代法の基礎を動揺させる危険を持つ。情報化という観点から、明示的に語られなかった私法システムの基礎原理を照らし出せる可能性が出てきたかもしれないと考える。 以上とは別に、小野清一郎の研究を行った。現在の名誉学説の基礎となっている小野の名誉論について、近年、顧みられることが少ないことから、いくらか丁寧に小野の研究を再読し、その名誉論を支える思想や人間像の一端を明らかにしようと試みた。そこでみられるのは、個人でも国家でもない文化に最重要の価値を置く考え方、そして、人格を完成させる手段としての名誉保護とでもいうべき考え方であった。近年の名誉に関する研究を相対化する可能性が得られたのではないかと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた、日仏法学研究集会における報告(平成23年9月)を行い、また、小野清一郎に関する研究を公刊することができたので。 日仏法学研究集会は、準備の過程で、日本の、民法の分野にとどまらない、多様な分野の研究者から、意見をいただくことができて、たいへんありがたかった。また、研究集会においても、フランスの研究者からの充実したコメントをいただくことができて、これまた、有益であった。 情報化が進展した社会における民事司法制度の機能の分析から、民法ないし近代法が暗黙の前提にしていたもの(人格の通時的同一性と責任、人格の共時的同一性と不可分の個人、など)が浮上したことは、予想以上の成果のように思う。 小野清一郎の研究は、小野が前提にする名誉の考え方の特性を、ある程度提示できたのではないかと思う。とはいえ、数十年前の研究者たちにとっては、常識に属する事柄だったようにも思う。そうだとすれば、日本の法学の長くはない歴史の中で、時間の経過とともに、法学領域において伝承すべき事柄が抜け落ちただけのことなのかもしれず、今回の研究は、そのことを確認した、ということになる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度開催された日仏法学研究集会の成果について検討すること、名誉・プライバシーに関する日本の判例・学説について少しずつ検討することを目標としたい。 具体的には最高裁の関係判例を精査すること、関係する論文を分析すること、などの作業を行いたい。日本の憲法学説のプライバシーという言葉の用い方と、最高裁のそれとの間には、齟齬があるような印象を持っているので、まずは、それぞれがプライバシーとして何を考えているのか、を、検討する。住基ネット事件なり、江沢民主席講演会事件なり、ノンフィクション逆転事件なり、長良川事件なりにおいて、何が保護されるべき権利・保護法益とされているか、精査する予定である。 中間的な成果を、年度内に公表することを目標に、論文等の形で公刊したい。 また、研究対象を狭く絞ることなく、多様な対象の研究を行うことによって、本研究の中核分野へのフィードバックを得たいので、プライバシー・名誉等の周辺にとどまらない分野の研究も、行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、小規模な物品費への支出が中心となる。 具体的には、雑誌・書籍、PC関連機器、通信環境の確保、文具等である。 また、資料収集・整理については、アルバイトを依頼して、円滑に作業をすすめたい。 さらに、研究上の助言を得るために、国内出張をすることを考えていたが、本年度は、本拠地が東京になったため、出張の必要回数が減少することが見込まれる。
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