2011 Fiscal Year Research-status Report
知的財産法における競争政策的思考の現代的意義と市場の展開
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23530125
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
泉 克幸 京都女子大学, 法学部, 教授 (00232356)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 知的財産 / 競争 / 著作権 / 特許 |
Research Abstract |
本研究は、知的財産法を競争政策との関連で分析・検討することにより、「市場の展開を促し、国民生活を豊かにする」という知的財産法のシステムあるいはメカニズムを、正しく効果的に機能させることを目的に、4年計画で実施するものであり、本年度はその1年目に当たる。「研究実施計画」に従い、本年度は、過去に集積した資料の再整理、新規資料の収集、問題点の整理などに主眼を置いた。また、関連する研究会やワークショップに積極的に参加した。 さらに、こうした過程において、(1)「『元祖』の表示と品質誤認表示」(三山峻司先生=松村信夫先生還暦記念『最新知的財産判例集ーー未評釈判例を中心として』(青林書院・2,011年)479頁)および(2)「著作権の集中管理団体の現代的意義と競争政策ーーGoogle Books 事件を素材に」京女法学1号117頁(2011年)を公表した。前記(1)は、大阪みたらし元祖だんご事件(大阪高判平成19年10月25日判タ1259頁311頁)の判例評釈である。同事件では、和菓子の包装等に「元祖」と付する行為が不正競争防止法2条1項13号(品質誤認表示)・14号(信用棄損行為)に当たるかが問題となった事例である。本研究との関連では、「元祖」も表示が13号または14号に形式的には該当する可能性があるとしても、こうした表示は「通常の商慣習・商慣行として行われているものであり、このような表示を過度に規制することはかえって『事業者間の公正な競争、国民経済の健全な発展』という不競法の目的(同法1条参照)に悪影響を及ぼす結果となりかねない」との指摘を行った。 また、前記(2)においては、デジタル社会あるいはネットワーク社会においてその意義が高まる著作権の集中管理団体について、その競争政策上の問題のポイントや解決の方向性などを明らかにするために、グーグルブックス事件を紹介し、分析と検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究計画」によれば、研究の1年目に当たる本年度は「知的財産法および競争法の領域を中心とした審決・判決例、論文、雑誌、図書、研究会の配布資料や報告書、立法作業における資料」の収集に努め、その収集先として「文化庁、特許庁、公取委等の行政機関、ソフトウェア情報センター、知的財産研究所、著作権情報センター、特許情報センター等のシンクタンク、大学の附属図書館や国会図書館など」を指摘していた。また、「新たな問題点の発見や意見の交換、実社会での現状把握には極めて有効」との観点から、「関連する研究会やワークショップに積極的に参加する」ことを予定していた。 申請者は本年度所属先を変更したが、移動先は新設学部であったため、本研究に必要な資料が乏しい状態であった。こうした悪条件にも拘らず、研究計画をほぼ予定どおり消化させることができたばかりでなく、上記「研究実績の概要」でも触れたように、2件の成果を公表できたことは、本研究がおおむね順調に進展していることの証左といえよう。 また、交付申請書の「研究目的」では、「本研究は知的財産法と競争法の関係を抽象的・理念的なレベルではなく、より具体的・実践的な場面で分析・検討することで両者の関係を明確にし、学術上の発展を推し進めるものである。従来、この分野の研究の多くは…競争政策の立場から…の議論であった。…。本研究はそれらとは異なり、知的財産法の内在的考慮要因として、競争政策的視点を積極的に採り入れながら知的財産法の有する『市場育成機能』を活発化・効率化させることを目指している点に特徴がある」と述べていた。この点に関し、申請者は、知的財産法のうち、「著作権法と競争政策」というテーマの下、企業の法務担当者、弁護士等の実務家などを対象に講演を行う機会を得た(その内容については当日の講演原稿に加筆修正したものをコピライト611号2頁(2012年)に発表した)。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、資料収集活動を継続する。また、関連する研究会やワークショップに積極的に参加する。時間的制約や調査先の受け入れなど諸条件が整えば、海外調査も行いたいと考えている。 次に、本年度の末を目途に、本研究課題の1つである「知的財産権のライセンスと競争政策」の問題について、成果の公表を目指す。申請者の現時点での問題意識には以下のとおりである。(1)公取委は2007年9月に最新の知的財産ガイドラインを策定したものの、同ガイドラインは「技術」に関する知的財産のみを対象としており、音楽や映像、商標等の他の知的財産に関しても独禁法上あるいは競争政策上の考え方を明確にする必要がある。(2)非係争条項の存在意義が、特にコンピュータやネットワークの市場分野で高まっており、同条項の詳細な分析・検討が必要である。(3)特許制度研究会の報告書、「特許制度に関する論点整理」(2009年12月)の中で、裁定実施制度の在り方については引き続き慎重な検討を行うべき旨の記述がなされているが、その際には競争政策との関わりを議論することが必須であると思われる。(4)平成21年著作権法改正では裁定制度に関する内容も含まれていたが、その内容につき、市場育成あるいは競争政策の観点からの分析・評価が重要だと思われる。 また、電子書籍市場に焦点を当て、その育成・発展における競争政策上の問題点を整理し、分析・検討を行いたいと考えている。本テーマは、著作権を中心としてする情報独占の問題、コンテンツ提供業者によるカルテルの問題、出版社の権利の在り方に関する問題、孤児作品に関する強制許諾の問題、アクセスコントロールに関する問題、規格を巡る技術標準に関する問題などが含まれる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、次年度も資料の収集を引き続いて行う(資料の種類としては知的財産法および競争法の領域を中心とした審決・判決例、論文、雑誌、図書、研究会の配布資料や報告書、立法作業における資料など。資料の収集先としては文化庁、特許庁、公取委等の行政機関、ソフトウェア情報センター、知的財産研究所、著作権情報センター等のシンクタンク、大学の附属図書館や国会図書館などである)。先に述べたとおり、申請者の新しい所属機関には本研究に関連する資料が乏しいため、図書や雑誌等の購入は必須である。また、研究会やシンポジウム等への参加も継続する(参加予定の研究会は、関西経済法研究会(主催:公取委近畿事務所)、独禁法審判決例研究会(主催:比較法研究センター)、知的財産法判例研究会(主催:比較法研究センター)など)。このような作業・活動は翌年度以降も継続して行うべきものであり、図書・雑誌の購入費に加え(次年度概ね20万円程度)、資料収集や研究会参加に伴う旅費(次年度概ね40万円程度)が必要となる。 次に、資料整理や論文作成・研究会での成果公表といった作業を効果的・能率的に行うためにパソコンを購入する(次年度概ね20万円)。本研究はネットワーク技術やデジタルコンテンツ市場、ソフトウェア技術などを対象としており、そのためには作業効率という観点からのみならず、研究対象を実際に使用・体験し、その具体的な経験と感覚を研究の成果に生かすという観点が重要であると考えることができる。併せて、表計算やプレゼンテーション用ソフト、その他資料の整理やストレージ(蓄積)に必要なメディアやファイル等の購入も予定している(次年度概ね20万円)。
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Research Products
(2 results)