2012 Fiscal Year Research-status Report
知的財産法における競争政策的思考の現代的意義と市場の展開
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23530125
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
泉 克幸 京都女子大学, 法学部, 教授 (00232356)
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Keywords | 知的財産 / 競争 / 市場 / 商標 / 著作権 |
Research Abstract |
本研究は、知的財産法を競争政策との関連で分析・検討することにより、「市場の展開を促し、国民生活を豊かにする」という知的財産法のシステムあるいはメカニズムを、正しく効果的に機能させることを目的に、4年計画で実施するものであり、本年度はその2年目に当たる。「研究実施計画」に従い、本年度も、過去に集積した資料の再整理、新規資料の収集、問題点の整理などに主眼を置いた。また、関連する研究会やワークショップに積極的に参加した。 さらに、こうした過程において、①「インターネット上のショッピングモール運営者の商標権侵害主体性」L&T58号60頁(2013年)および、②「編集著作物における著作者の認定」知的財産法政策学研究42号241頁(2013年)を公表した。前記①は、知財高判平成24年2月14日〔チュッパチャプス事件〕の判例評釈である。本研究との関係では、インターネットショッピングモールの運営者が責任を負う可能性を一般的には認めた本判決は、「Yのようなインターネットショッピングモールの運営者に与える委縮効果は、意外と大きいことも予想される。今日の社会におけるその便利さや有益性に鑑みるならば、プロバイダ責任制限法を含め、インターネットショッピングモールを規律する関連諸法の総合的な整備・検討が必要かもしれない」との指摘を行った。 また、前記②は、「商品としての著作物を全く新規に創作するのではなく魅力のある既存の作品を市場に投入するケースも増えているが、その際、既存の著作物を新たな方針・企画の下で編集することもよく行われている」等の基本的認識に立った上で、関連する判決例を中心に、適宜学説等を参考にして、編集著作物の著作者は誰かというテーマについて分析・検討を行ったものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究計画」によれば、研究の2年目に当たる本年度は、「前年度に続き、資料収集活動や研究会への出席、専門家へのヒアリング等の作業を継続する」ことを予定していた。申請者が所属する組織(京都女子大学法学部)が創設2年目ということもあり、学内業務多忙のため、残念ながら予定していた海外調査は実現できなかったものの、その他の予定については概ね達成できた。2012年8月3日開催の「知的財産判例研究会」(主催:一般財団法人比較法研究センター)において報告を行い、その成果として、「インターネット上のショッピングモール運営者の商標権侵害主体性」L&T58号60頁(2013年)(上記「研究実績の概要」参照)を発表したのは、そのことの1つの証左である。 本研究の交付申請書において、「本研究は知的財産法と競争法の関係を抽象的・理念的なレベルではなく、より具体的・実践的な場面で分析・検討することで両者の関係を明確にし、学術上の発展を推し進めるものである。従来、この分野の研究の多くは知的財産権の独占の範囲あるいはその行使について競争政策の立場から(典型的には独禁法の適用によって)制限または縮減させるという内容・方向での議論であった。(中略)。本研究はそれらとは異なり、知的財産法の内在的考慮要因として、競争政策的視点を積極的に採り入れながら知的財産法の有する「市場育成機能」を活発化・効率化させることを目指している点に特徴がある」と記述した。このことと関連して本年度申請者は、公正取引委員会競争政策研究センターが主催する共同研究、「電子書籍市場の動向について」に客員研究員として参加した。年度内の公表には間に合わなかったものの、本共同研究で得た知見も参考にして、電子書籍市場の発展には著作権法制がいかにあるべきかというテーマの学術論文を現在執筆中であり、近く公表を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、資料収集活動を継続する。また、関連する研究会やワークショップに積極的に参加する。時間的制約等の問題がなければ、海外調査も行いたいと考えている。 前記「現在までの達成度」で指摘した電子書籍市場と著作権法制に関する学術論文を、速やかに公表する。本論文は、「近年、出版物がデジタル化され、CD-ROMのような媒体に格納されて店頭で売買されたり、さらには、インターネットを通じでオンライン配信されたりするようになってきた。デジタル技術およびネットワーク技術の誕生・普及は著作権法制に大きな変革をもたらしたが 、変革した著作権法は、今度はデジタル著作物の創作や販売、ネットワーク配信に関連するビジネスあるいは市場に大きな役割を果たす存在となっている」という認識の下、「電子書籍の市場が発展するために著作権法が現在抱えている問題を競争政策の観点から概観し 、若干の検討を行うこととする」ものである。扱うテーマとしては、再販売価格の維持、DRM(著作権管理技術)、出版社の著作隣接権、著作権の集中管理機構、出版契約、デジタル著作物と頒布権の消尽、欧米における大手出版社およびアップルによる競争法違反のの事例、などを挙げることができる。 また、標準必須特許に基づく侵害訴訟の制限について研究を行い、学術論文の発表を予定している。これは、近時、標準必須特許に基づく侵害訴訟における差止請求や損害賠償請求を、産業政策あるいは競争政策の観点から 否定するケースが、わが国を含めて世界各国で次々と現れており、しかも、そのことが競争法の適用によるだけでなく、特許法の枠内でも実現されている。そこで、知的財産権の侵害訴訟を競争政策および知的財産政策の観点から制限することの意義とその現状を、標準必須特許に関する最近の各国の動きを素材に分析することで明らかにし、検討を試みようというものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、次年度も資料の収集を引き続いて行う(資料の種類としては知的財産法および競争法の領域を中心とした審決・判決例、論文、雑誌、図書、研究会の配布資料や報告書、立法作業における資料など。資料の収集先としては文化庁、特許庁、公取委等の行政機関、ソフトウェア情報センター、知的財産研究所、著作権情報センター等のシンクタンク、大学の附属図書館や国会図書館などである)申請者の所属機関は創設間もないということもあって、本研究に関連する資料が極めて乏しいため、図書や雑誌等の購入は必須である。 また、研究会やシンポジウム等への参加も継続する(参加予定の研究会は、関西経済法研究会(主催:公取委近畿事務所)、独禁法審判決例研究会(主催:比較法研究センター)、知的財産法判例研究会(主催:比較法研究センター)など)。このような作業・活動は翌年度以降も継続して行うべきものであり、図書・雑誌の購入費に加え(次年度概ね30万円程度)、資料収集や研究会参加に伴う旅費(次年度概ね40万円程度)が必要となる。 次に、資料整理や論文作成・研究会での成果公表といった作業を効果的・能率的に行うためにパソコンを購入する(次年度概ね20万円)。本研究はネットワーク技術やデジタルコンテンツ市場、ソフトウェア技術などを対象としており、そのためには作業効率という観点からのみならず、研究対象を実際に使用・体験し、その具体的な経験と感覚を研究の成果に生かすという観点が重要であると考えることができる。併せて、表計算やプレゼンテーション用ソフト、その他資料の整理やストレージ(蓄積)に必要なメディアやファイル等の購入も予定している(次年度概ね20万円)。 また、場合によっては本研究に関する資料収集やその整理等を効率的に行うために、学生に補助作業を依頼し、謝金の支出も予定している。
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Research Products
(2 results)