2011 Fiscal Year Research-status Report
診療情報の保護と有効活用-電子健康保険証とレセプトデータベースの導入を射程として
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23530126
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Research Institution | Iwaki Meisei University |
Principal Investigator |
増成 直美 いわき明星大学, 薬学部, 准教授 (80538843)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 個人情報保護 / 疫学研究 / 医事法 / 社会医学 / 医療・福祉 |
Research Abstract |
初年度においては、わが国の法律に大きな影響を与えてきたドイツの状況の調査研究を目標にした。ドイツの現地調査は、2012年2月12日から同年2月22日に行った。まず、マインツのヨハネスグーテンベルク大学(UNIVERSITATSMEDIZIN der Johannes Gutenberg-Universitat Mainz) にて、疫学のマリア・ブレットナー(Maria Blettner)教授を中心に、電子健康保険証の現状、国民の理解、今後の展開、およびドイツにおける疫学研究の状況等について、研修を受け、多方面の関係者とミーティングを持った。その後、フライブルクのマックスプランク研究所で、医事法における電子健康保険証の位置づけについて検討した。当研究所の助手の伊藤嘉亮氏には、渡独前から、当該研究の趣旨を理解していただき、ドイツでの研究がスムーズにいくように多方面に手配していただいた。 2010年8月に、電子健康保険証に関するドイツで初めての訴訟が提起された。患者が電子健康保険証の使用を拒否した場合でも、健康保険の給付が受けられるか否かが争われる。そして、将来的には、電子健康保険証が患者のプライバシーを侵害しないかがドイツ連邦憲法裁判所で問われることになるであろうと、推測されている。渡独時にはまだ、判決が下されていなかった。 帰国後、日本とドイツとの社会システムの違い等を考慮しながら、わが国における診療情報の電子化に対する申請者の意見をまとめ、研究初年度の研究成果として、2012年3月30日、日本薬学会第132年回(札幌)において、「診療情報の保護と有効活用 ━━電子健康保険証の導入を射程として」(30P2-pm175)と題して報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツにおける電子健康保険証の概要を知ることができた。電子健康保険証に対しては、医師をはじめとする医療従事者の対応が極めて慎重であった。彼らは、データ保護のコンセプトの改良と電子健康保険証に関する議論の活発化を求めている。ドイツ連邦医師会は、現在のデータ保護のコンセプトでは医師の職業倫理に基づく医師と患者の信頼関係とは相いれず、医師の守秘義務を守るだけの十分なデータ保護がない、個人主体の人道的医学がこれまで実証してきた医療コンセプトを破壊する、と主張する。今後、医師等の守秘義務の再考が必要である、と感じた。 以前筆者が調査した地域がん登録事業では、患者の自己情報コントロール権と研究の自由や医療の向上といった公益との衝突が問題だったが、電子健康保険証の導入においては、患者の自己情報コントロール権と医療給付といった社会権との衝突が問題となっている。今後、社会権の性格について、慎重な検討を加えたい。 医療情報の活用には、個人の利益になるものと、公の利益になるものという2つの側面がある。医療情報を利用する目的を、個人情報保護制度上においてどのように整理すべきかを検討する必要がある。個人情報保護法の基本方針では、医療をはじめとする3分野(医療、金融・信用、情報通信等)については、格別の措置を分野ごとに検討することが挙げられており、金融分野の与信情報については法律の改正が行われ、個人情報を「公の利益」のために利用することが可能となっている。医療についても、法改正をも視野に入れた対応が望まれる。今後、自分なりの構想を掲げたい。 自分自身への課題として、以上のようなものを発見できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策に関しては、大きな変化はない。本年度繰り越して次年度に使用する予定の研究費は、ドイツ等で収集した大量の資料を電子化して整理・保存するために充てる予定である。 2年目においては、事実上、あらゆる診療情報のレコード・リンケージが可能な北欧の法システムを調査研究する。北欧においては、これらの法律の整備により、たとえば糖尿病患者や高血圧患者の情報と整形外科領域である骨粗鬆症との関連が疑われたとき、それらのデータのリンケージがスムーズに行われ、その関連を検討した論文等が他の国々より早期に数多く公表されており、疫学研究においては恵まれた環境を獲得している。北欧では、個人情報保護法制の歴史も長く、個人情報保護機関も充実している。そこで、これらの機関の活動と、医療領域での診療情報の活用、それに関する患者および国民の理解の状況などを調査する。 3年目においては、巨大な診療情報のデータベースを構築、運営しているアメリカ合衆国の状況を調査する。アメリカでは、巨大データベースの管理者に対して、個人情報保護のためになされている方策、運営状況、運営上の問題点を中心に聴き取り調査を行う。また、疫学研究者にも、研究環境、今後の課題等についての聴き取り調査を予定している。帰国後、日本とアメリカとの社会システムの違い等を考慮しながら、わが国における診療情報の電子化に対する申請者の意見をまとめ、研究成果として関連学会で発表する。そして、3年間の研究成果を広報用のパンフレットにまとめ、公開報告会を開催する。また、学生や市民を含めた討論会も開催予定である。医療における患者の診療情報の保護とその有効活用システムに関して、国民レベルでの議論を展開できる機会を提供できるように努めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究計画の通り、北欧に関するデータ保護、疫学研究に関する図書、資料等に40万円、北欧での現地調査(約10日間)では、交通費=396,000円、宿泊費=18,800円x 8日=150,400円、日当=6,200円x 9日=55,800円で計算し、計602,200円を計上した。国内の調査、研究発表に16万円、謝金、その他で7万円を予定している。 2010年8月26日に、ドイツで初めて提起された、患者が電子健康保険証の使用を拒否した場合でも、健康保険の給付が受けられるか否かが争われている、電子健康保険証に関する訴訟は、提訴から1年半以上経過しても、未だ判断が示されていない。これに対して、2011年12月3日に施行した「極めて長い裁判手続きの場合の法律上の保護に関する法律」により、2012年4月7日、デュッセルドルフ社会裁判所における電子健康保険証に対する裁判手続の遅延が指摘された。2012年中に決着をつけられる見通しとなっているので、引続き、ドイツにおけるこの裁判の行方を追跡することにしたい。
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Research Products
(1 results)