2012 Fiscal Year Research-status Report
生存権のジェンダー分析――若い女性への支援法の構築
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23530130
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
若尾 典子 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (70301439)
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Keywords | ハイム教育 / 暴力 / 青少年福祉法 |
Research Abstract |
今年度は、オーストリア、とくにウィーンにおける子ども・青少年支援(以後、「子ども・青少年」を青少年という)の基本的な法枠組みを検討した。オーストリアの場合、憲法12条によって、青少年福祉に関する基本法を国が制定し、これを執行する法および執行は州が行うとされている。その基本法として現在、1989年青少年福祉法がある。この青少年福祉法の意義を、明らかにした。その視点として、改正前の1954年青少年福祉法の下、ハイム(児童養護施設)における凄惨な暴力が、2010年被害者からの告発によって明らかになったことが重要となった。ウィーン市長は率直に謝罪し、補償のための歴史家委員会を設置した。この委員会による報告書が2012年11月に公刊されたため、この最新研究を検討素材にしつつ、オーストリア憲法12条と青少年福祉法の歴史的検討を行った。憲法12条は1920年に制定されたが、これを受けた青少年福祉法は制定されず、ナチス併合下の1940年、ドイツの青少年福祉法が適用されており、1954年青少年福祉法がオーストリアの最初の基本法であった。この歴史的経緯は、次のような問題を提起する。なぜ、青少年福祉法の制定がなされなかったのか。ナチス併合下の青少年福祉法は、オーストリアにおいて、いかなる役割を果たしたのか。1954年青少年福祉法は、1940年青少年福祉法との断絶を確保したのか。さらに憲法12条は、ヴァイマル憲法9条に類似の規定を見出すが、ヴァイマル憲法とは異なり、社会権規定をもたないオーストリア憲法において、いかなる意味があったのか。これらについて一定の見通しを得た。また、ハイム内暴力の問題は、ドイツやスイスにおいても社会問題化しており、ドイツ語圏において、戦後の青少年福祉政策の再検討が緊急課題として急浮上しており、あらためて青少年福祉法の比較法的検討の重要性が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調であるとする理由は、なにより、憲法と家族という大きなテーマへの一つの接近方法を得ている点である。たしかに当初の設定とは異なり、現状分析というより、歴史分析に進んでおり、より困難な課題を設定している。しかし、青少年支援、それもジェンダー分析をふまえた比較という課題は、それぞれの国の歴史と無関係に検討できない。しかも、ナチズムとの関係が射程に入ってきた点で、研究テーマとして深化していると思われるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
生存権のジェンダー分析の前提として、憲法における家族の位置づけを、オーストリア憲法と青少年福祉法との関係に即して検討するという大きな課題が浮上した。この領域に関する先行研究が、ドイツと異なり、オーストリアにはほとんどないため、困難ではあるが、なんとか見通しをつけたいと考えている。この作業を通して、ジェンダー分析の意味がより明確になると思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ウィーンでの資料収集および調査を想定し、そのための旅費を予定していたが、所属研究機関である佛教大学によりウィーン研修が認められたため、次年度使用予定の研究費が生じた。今後は、ハイム教育の歴史的検討およびオーストリア憲法の歴史的検討が必要となったこともあり、さらなる文献収集および調査に使用することを予定している。
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Research Products
(4 results)