2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530131
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西村 智朗 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (70283512)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 持続可能な発展 / 多数国間環境協定 |
Research Abstract |
本年度の研究として、まず、持続可能な発展に関する国連会議(UNCSD)の準備文書を検討素材として、同会議で採択される予定の原則宣言草案に関する各国の主張を整理した。これらの研究結果については、2012年度に開催されるUNCSDの結果を踏まえて同年度中に論文として発表する予定である。 また、気候変動条約の締約国会議(COP17・ダーバン)に参加をして、ポスト京都議定書の国際交渉の詳細について資料を収集し、NGOや政策担当者と意見を交換した。特に非附属書I国(発展途上締約国)の持続可能な発展の達成に大きな影響を与える「クリーン開発メカニズム」がポスト京都議定書の議論の中でどのように位置づけられているかについて検討を開始し、京都議定書における市場メカニズムの有用性と課題について考察した。 最後に、国連の動きとは別に、世界貿易機関(WTO)による持続可能な発展概念の位置づけについて、GATTからWTOに移行するプロセス、同機関の設立文書(マラケシュ協定)の起草過程、および紛争解決機関における同概念の解釈を検討した。その結果、同機関は貿易と環境を「相互支援的」と位置づけており、この見解はある程度積極的に評価されているが、それに伴ういくつかの課題が存在することを検証し、論文にまとめた。特にWTOが持続可能な発展のための機関として積極的に同概念を活用しており、それはUNCSDにも影響を与えていることを論証した。 上記の研究結果から、2012年のUNCSDが、持続可能な発展概念の法的意義を確認するために非常に重要であることを再確認した。併せて、同概念の多義性から生じる義務の衝突の可能性については慎重な検討が必要であることを認識した。これらの現状を踏まえて、次年度以降の研究をより効率的に進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は、(1)持続可能な発展に関する国連会議(UNCSD)における各国の主張の整理、(2)気候変動条約レジームにおけるポスト京都議定書の動向分析、および(3)生物多様性条約レジームにおける遺伝資源のアクセス及び利益配分に関する名古屋議定書の評価、の3つである。 このうち、(1)および(2)については、順調に研究が遂行している。特に(1)については、会議に提出される成果文書の起草に関する検討はすでに終えており、会議の結果を踏まえて、研究成果を論文として刊行できる状況にある。(2)についても、COP17(ダーバン会議)の結果についての分析は終了し、本年度のCOP18(ドーハ会議)終了後に気候変動条約レジームの現状と課題について一定の方向性を指摘できると考えている。 (3)については、名古屋議定書の法的評価について、欧米における研究業績が当初の想定よりも少なかったため、十分な検討がまだ行われていないが、その分、WTO紛争解決手続の検討を本年度開始したため、次年度に回すことで対応可能である。 持続可能な発展概念が有する「統合(Integration)」及び「衡平(equity)」理念の規範的意義の検証に関して、UNCSDの成果が最も大きなウェイトを占める。また、気候変動条約及び生物多様性条約の2つの環境レジームにおける立法プロセスで持続可能な発展概念がいかなる規範的意義を果たしうるかについても、2012年度に開催されるそれぞれの締約国会議の検証が重要である。研究所年度は、そのための資料収集および前提の把握に多くの時間を費やした。現時点では、概ね研究目的の達成は可能であると位置づけることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、当初の予定通り、(1)UNCSDの成果に対する検証と、(2)多数国間環境協定における持続可能な発展概念の実効性の双方を並行して進めていく。 このうち(1)については、2012年6月に開催されるUNCSDに出席する予定であったが、法原則宣言が採択される予定がないこと、また重要な会議をはじめとして成果の多くは、Webサイトを通じて入手可能であるため、後述する生物多様性条約の締約国会議(COP11)に出席することで代替する。 (2)については、本年度は、毎年開催される気候変動条約の締約国会議(COP18・ドーハ会議)に加えて、隔年開催の生物多様性条約の締約国会議(COP11・ハイデラバード会議)が開催されるため、両会議に出席し、情報収集に務める。特に生物多様性条約レジームに関しては、名古屋議定書に関する学術的評価が、期待していた以上に少ないため、会議に参加する他の研究者や実務家、NGO関係者と積極的に意見を交換したい。 これらの作業に加えて、2012年1月にWTO紛争解決手続において上級委員会が出した裁定(中国レアメタル事件)が、持続可能な発展概念の法的意義に大きく関与しているので、同裁定の評釈を行い、自由貿易レジームから見た「持続可能な発展」法の実効性についても分析を加える。 以上の研究結果を踏まえて、多数国間環境協定における「持続可能な発展」概念の実効性及びUNCSDの成果、特に持続可能な発展を実現するための制度的枠組の課題について分析し、成果を論文としてまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、名古屋議定書に関する欧米の研究業績を収集する予定であったが、想定していたよりも文献が少なかったために、翌年度以降の研究と並行して実施する。特にWTOのTRIPs協定、WIPO、FAOの食糧農業植物遺伝資源条約との抵触/整合性についての文献収集に努める。必要に応じて、知的財産権の専門家からの助言を仰ぎたい。これらの研究を進めながら、10月に開催される生物多様性条約の締約国会議に出席して、問題関心を共有する参加者と意見交換を行いたい。 また、気候変動条約レジームにおいても、ポスト京都議定書の法的帰結について、結論が先送りされたため、12月に開催される同条約の締約国会議に参加して、最新の動向について、情報収集を行う。具体的には、2012年後に発生する温室効果ガスの削減数値義務不遵守に対する法的帰結や第二約束期間の削減数値義務の設定とクリーン開発メカニズムの関係について、持続可能な発展の寄与という観点から検討を加える。 これら以外に、引き続き、持続可能な発展概念の国際法上の規範的意義に関連する文献の収集をおこない、必要に応じて資料の整理やデータ入力などの研究補助作業を行う。 その他、国内の学会(環境法政策学会など)に出席して、国際環境法の研究者と「持続可能な発展」法の最新の研究動向などについて意見を交換し、研究の精度を高める。
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Research Products
(1 results)