2011 Fiscal Year Research-status Report
16世紀スペインにおける恩寵と自由意志―「もう一つの社会契約説」の展開
Project/Area Number |
23530152
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
松森 奈津子 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (80337873)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | サラマンカ学派 / 恩寵 / 自由意志 / スペイン / 思想 / 政治 / モリナ / スアレス |
Research Abstract |
本研究は、16世紀スペインにおける後期サラマンカ学派の政治理論に着目することによって、国家理性論や社会契約説に偏った従来の西洋初期近代理解を修正するという全体構想の一部である。具体的には、政治的諸問題が論じられる際の基盤となっていた恩寵(神の意志)と自由意志(人間の意志)の関係をめぐる諸議論を検討する。その目的は、第一に、恩寵論争とジェイムズI世論争を主軸として展開された16世紀後半期スペインの世俗権力論の全体像を明らかにすること、第二に、社会契約説に代表される同時代の主流理論との異同を考察することにより、その地位と意義を模索することである。 この二つの目的を達成するため、今年度はまず、第一の分析軸となる恩寵論争をめぐる資料調査を通じて、典拠となる底本の確定作業を行った。具体的には、貴重図書購入、図書館閲覧・相互貸借によって、研究書の附録、雑誌論文、当時の諸版、手稿本の形で散在しているラテン語・カスティリャ語原典を収集した。 ついで、これらのテクストを読みこむとともに、先行研究の批判的検討や諸研究者との議論によって、恩寵論争をめぐる思想家間の異同を確定し、理論展開の過程を把握した。具体的には、後期サラマンカ学派が多大な影響を受けている前期サラマンカ学派との異同を明確にするため、16世紀前半期を考察対象とした既刊の拙著をめぐる合評の場において、隣接分野の諸研究者と議論を深めるとともに、あらためてその理論的特質を英語の二論文としてまとめた。また、16世紀後半期の理論展開についても、二つの口頭報告、一冊の分担著の形で公にした。 以上により、本邦ではほとんど知られていない後期サラマンカ学派の原典、先行研究を紹介し、古来の恩寵論争の文脈に位置づけてその特質を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、今年度は恩寵論争をめぐる資料調査期間と位置づけており、収集した資料をもとにこの論争の経緯と内容をまとめるのは、翌24年度における執筆期間の予定であった。したがって、資料収集と底本確定に重きを置き、それらの解釈に基づいた研究成果としては、口頭報告の形で公にすることはできても、論文としてまとめるまでには至らないと考えていた。 けれども結果的には、資料収集と底本確定をほぼ終えたばかりでなく、三つの口頭報告のほか、英語(二論文)、日本語(一論文)双方で、それぞれ恩寵論争の背景となる初期近代スペインの時代状況、恩寵論争の概略とイエズス会の意義づけ、について考察することができた。 したがって本研究は、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記載した当初計画では、平成24年度は、前年度に調査した資料をもとに、恩寵論争をめぐる経緯と内容をまとめる予定であった。けれども、研究実績の概要で述べたとおり、宗教的側面からの恩寵論争の考察はすでに終わり、その成果を口頭報告と学術論文の形で公にしている。 したがって、24年度については、当初の計画よりもさらに一歩進め、恩寵と自由意志の問題が、神学者たちの議論に端を発しながらも、結果的には、それ以降の権力・国家論を律する論理を提供するに至った点に着目し、その詳細を検討する。具体的には、第一に、恩寵の先行性、優位性を説くドミニコ会派(バニェス、レデスマ、ゲバラ)と、自由意志の影響力を主張するイエズス会派(モンテマヨル、モリナ、スアレス)を中心に、テクストの内在的分析を進める。第二に、通時的分析として、彼らの理論を、中世から近代に至る思想系譜に位置づけ、その意義を提示する。主な対照相手となるのは、中世思想を代表するアウグスティヌス、トマス、カイェタヌスらと、近代理論を構築したルター、グロティウス、ホッブズらである。これらにより、主として抵抗権との関連で、恩寵論争のもつ政治思想的な意義が明らかにされることが見込まれている。 平成25年度以降は、交付申請書に記したとおりの計画を遂行する予定である。すなわち、恩寵論争と並んで本研究のいま一つの分析軸となるジェイムズI世論争をめぐる資料調査(25年度)・草稿執筆(26年度)を経て、二つの分析軸を統合した最終成果発表(27年度)を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本報告書に記載されている平成23年度実支出額の累計は、平成24年3月31日までに支出済の累計額であり、3月に出張や納品を行った分は、含まれていない。3月実施分の153,338円は、平成24年度に繰越し、4月に支出する予定である。 上記を差し引いた今年度の研究費残額645,724円は、絶版の貴重書が入手できなかったこと、また英文校閲費の分量割引により、予定額よりも少額執行ですんだこと、によって生じたものである。双方とも翌24年度に繰越し、前者はひきつづき当該書籍の入手ルートを探し、後者は別の論文等の英文校閲費として活用する予定である。 このほか、平成24年度研究費に配分される予定の800,000円は、当初計画通り、論文執筆のための資料調査(購入、貸借、複写、出張、調査補助)費の他、経過発表としての口頭報告のための国内旅費、ディスカッション・ペーパー配布のための英語原稿校閲費、文具・印刷・郵送費、郵送作業補助費として使用する。
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Research Products
(6 results)