2012 Fiscal Year Research-status Report
16世紀スペインにおける恩寵と自由意志―「もう一つの社会契約説」の展開
Project/Area Number |
23530152
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
松森 奈津子 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (80337873)
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Keywords | サラマンカ学派 / 恩寵 / 自由意志 / 抵抗権 / ビトリア / モリナ / スアレス / マリアナ |
Research Abstract |
本研究は、16世紀スペインにおける後期サラマンカ学派の政治理論に着目することによって、国家理性論や社会契約説に偏った従来の西洋初期近代理解を修正するという全体構想の一部である。具体的には、政治的諸問題が論じられる際の基盤となっていた恩寵(神 の意志)と自由意志(人間の意志)の関係をめぐる諸議論を検討する。その目的は、第一に、恩寵論争とジェイムズI世論争を主軸として展開された16世紀後半期スペインの世俗権力論の全体像を明らかにすること、第二に、社会契約説に代表される同時代の主流理論 との異同を考察することにより、その地位と意義を模索することである。 この二つの目的を達成するため、今年度は、第一の分析軸となる恩寵論争をめぐる諸議論を考察した。すでに前年度において、底本と先行研究を調査・確定し、宗教的側面からの恩寵論争の経緯と理論展開の詳細を明らかにしたので、これらに基づき、そこにあらわれた諸議論の政治思想面での意義を模索した。 具体的には、後期サラマンカ学派が多大な影響を受けている前期サラマンカ学派との異同を明確にするため、あらためてビトリアに代表される16世紀前半期の理論的特質を英語の二論文、邦語の一論文としてまとめた。また、16世紀後半期の理論展開について、四つの口頭報告、一冊の分担報告書の形で公にした。 以上により、とりわけ人民による統治者への抵抗権と「野蛮人」の政治権力という観点から、恩寵と自由意志の問題が、神学者たちの議論に端を発しながらも、結果的には、それ以降の権力・国家論を律する論理を提供するに至った点が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、今年度は宗教的側面からの恩寵論争の理論展開と意義をまとめる期間と位置づけられていた。けれども結果的には、資料収集と底本確定のみを行う予定であった前年度にそれをほぼ終えることができた。そのため、今年度はさらに一歩進め、同論争の政治思想的意義を考察し、四つの口頭報告のほか、英語(二論文)、日本語(二論文)双方で、それぞれ恩寵論争の背景となる初期近代スペインの時代状況、カトリシズムにおける抵抗権の理論展開、について考察することができた。 したがって本研究は、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降は、交付申請書に記したとおりの計画を遂行する予定である。すなわち、恩寵論争と並んで本研究のいま一つの分析軸となるジェイムズI世論争をめぐる資料調査(25年度)・草稿執筆(26年度)を経て、二つの分析軸を統合した最終成果発表(27年度)を行う予定である。 分析の中心となるのは、王権を恩寵によって神から直接授けられたものとみなすジェイムズI世の論理と、王権に正当性を与えるのは人々の自由な合意だとするスアレス、ベラルミーノの論理である。彼らの論理を、中世から近代に至る国家論の変遷という文脈に位置づけ、その意義を提示する。主な対照相手となるのは、中世思想を代表するアウグスティヌス、トマス、アゾ、カイェタヌス、シルヴェストリと、近代思想を構築したマキアヴェッリ、ボダン、グロティウス、ホッブズ、ロック、スピノザである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費残額894,483円は、3月までに購入した書籍等の中で、クレジットカード明細をはじめとする手続き書類が年度内期限までに間に合わないものがあったこと、絶版の貴重書が入手できなかったこと、英文校閲費の分量割引により予定額よりも少額執行ですんだこと、によって生じたものである。この残額は翌25年度に繰越し、ひきつづき絶版書籍の入手ルートを探したり、別の論文等の英文校閲費として活用したりする予定である。 このほか、平成25年度研究費に配分される予定の800,000円は、当初計画通り、資料調査、収集、解釈のために使用する。まず、国内外の図書館等で一次資料の収集作業を行うため、渡航・滞在費と資料閲覧・複写費が不可欠の経費となる。さらに、現地で参照するテクスト以外の一次・二次資料を収集するための図書購入費、借受料(図書館相互貸借・複写依頼制度)、旅費(相互貸借・複写不可の国内稀少資料)を要する。
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Research Products
(8 results)