2012 Fiscal Year Research-status Report
2013:数値目標失効後の世界-機能が低下した地球環境ガバナンスの行方
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23530189
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Research Institution | The University of Shimane |
Principal Investigator |
沖村 理史 島根県立大学, 総合政策学部, 教授 (50453197)
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Keywords | 国際情報交流 / ガバナンス / 気候変動問題 / 国際関係論 / 政治学 / 環境問題 |
Research Abstract |
気候変動問題に関する国際規定を定めた京都議定書は、先進国に対し、2008-12年(京都議定書第一約束期間)の温室効果ガス排出の数値目標を定めている。しかし、第一約束期間が終了した後の国際対策の在り方は規定がないため、京都議定書が発効した2005年以降、国際交渉が続けられてきた。当初交渉の期限とされていた2009年の気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)では、各国の首脳級が参加して議論が行われたが、交渉は決裂したため、国際的な気候変動対策の不透明性が高まり、数値目標が失効することによる地球環境ガバナンスの機能低下が懸念されていた。 本研究の対象は、気候変動問題に関する地球環境ガバナンスシステムとしての気候変動枠組条約体制である。2012年末に終了する京都議定書第一約束期間以降、気候変動対策の国際制度は、それまでの国際制度と大きく変質することとなる。そこで、平成24年度は、調査代表者は気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)に参加し、政府間交渉で模索されている2013年以降の地球環境ガバナンスシステムの制度設計の決定過程について情報収集を行った。COP18では、最終的に一部の先進国が第二約束期間の設定に合意し、京都議定書改正が合意され、2013年以降の空白期間は一定程度抑制されることとなった。同時に米国や発展途上国を含む全ての主要排出国を対象とした国際制度の在り方に関する議論が開始されたが、具体的な制度の内容は今後の交渉に委ねられることとなった。 また、気候変動枠組条約を補完する地域的、国際的な取り組みについても調査を行った。調査対象とした、気候変動問題を含む地球環境ガバナンスの強化が議論された国連持続可能な開発会議(リオ+20)については、政府のみならず多くのステークホルダーを巻き込むグリーン経済の取り組みの強化に向けた国際社会の対応とその課題を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、12月に開催された気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)に参加し、事例分析に必要な情報収集に努めた。具体的には、2013年以降の京都議定書第二約束期間に、先進国に対して設定される数値目標(京都議定書改正)と、米国や主要発展途上国に定められる強制力を持つ国際制度の二つの仕組みからなる複合的なグローバルな地球環境ガバナンスシステムをどのように設定するのか、政府間交渉会議で議論されている内容を調査した。この実態調査を踏まえ、日本やカナダといった京都議定書第二約束期間に数値目標が設定されない国々が生じることで機能が低下する地球環境ガバナンスの変容の現状を、引き続き調査した。また、昨年度東日本大震災により科研費の3割カットの可能性があったため繰り越した調査旅費を用い、5月と9月に行われた気候変動枠組条約作業部会に参加し、EUにおける域内排出枠取引制度(EU-ETS)や北東アジア地域における地域的な取り組みなどについての資料収集や関係者への聞き取り調査を行った。 さらに今年度は、1992年に開催され、その後の地球環境ガバナンスの方向性を定めた国連環境開発会議開催から20周年にあたり、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催された。そこで、リオ+20会議の動向に関する実態調査も行い、気候変動問題を含む地球環境ガバナンスの在り方についても分析した。その成果については、論文にまとめ、平成24年度中に刊行した。 このように、2012年末に京都議定書第一約束期間が終了し、数値目標失効した後の国際社会で、機能が低下した地球環境ガバナンスの状況について、多様な観点から調査を行うと共に、その研究成果を発表しているため、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、気候変動枠組条約の条約交渉に参加し、条約交渉の行方をその最前線で調査すると共に、交渉に参加している多様なステークホルダーの主張に関する情報収集を行う。具体的には、地球環境ガバナンスシステムの制度設計が議論されている気候変動枠組条約締約国会議や、米国や主要発展途上国をも含むグローバルな地球環境ガバナンスシステムとして2020年以降機能させることが目指されている新制度を議論する作業部会(ダーバン・プラットフォーム)に参加し、政府間交渉の内容を取材する予定である。また、同時並行して、EUにおける域内排出枠取引制度(EU-ETS)や、北東アジア地域における地域的な地球環境ガバナンスシステムの取り組みに関する文献調査や実態調査を行う。これにより、京都議定書改正が発効するまで、国際法的には数値目標が失効している現状で、機能が低下している気候変動枠組条約制度を補完する地球環境ガバナンスの在り方について、調査・分析を行い、一レジームにとどまらず総合的な地球環境ガバナンスがどの程度機能するのか、評価分析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、昨年度に引き続き、気候変動枠組条約の作業部会会合(ダーバン・プラットフォーム)に参加し、2011年に開催されたCOP17で設定され、2020年以降の国際枠組みと2020年までの取り組みの加速の二点を議論する政府間交渉の場で、欧州や日本といった京都議定書で数値目標を設定された国々のみならず、米国や主要発展途上国をも含む、グローバルな地球環境ガバナンスシステムがどのように設計されていくのか、取材する予定である。また、11月に行われる気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)にも参加する。そこでは、ダーバン・プラットフォームにおける政府間交渉の議論の内容に加え、主に欧州などの参加者から、京都議定書第二約束期間が欧州に設定された後に変質しつつあるEU-ETSや、次世代炭素市場の制度設計に関する議論の状況を聞き取り調査を行う予定である。また、同時並行して地球環境ガバナンスや国内、地域レベルでの環境ガバナンスに関する文献調査も行う。したがって、研究費の多くは旅費に用いられ、一部は文献調査に必要な書籍、論文購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)