2011 Fiscal Year Research-status Report
国際紛争の和平交渉と仲介外交―タジキスタン事例研究から包括的理論構築へ
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23530207
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
伊地 哲朗 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (90512963)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際紛争 / 内戦 / 和平交渉 / 仲介外交 / タジキスタン / 国連 |
Research Abstract |
当該研究課題の主たる目的は、採択以前から取り組んできた、タジキスタン内戦の和平交渉と仲介外交に関する事例研究を完成させ、そこから得られた知見に立脚しつつ、国際紛争、特に内戦形態の武力紛争をめぐる和平交渉と仲介外交に関わる包括的理論構築の基盤づくりを進めることである。本研究の初年度である平成23年度には、具体的な研究テーマとして、主権国家、国連、地域機関、非政府組織など様々なアクターの仲介的役割、およびそうした多種多様な仲介者間の連携・調整に焦点を当てつつ、タジキスタン事例分析のための理論的枠組みを精緻化することが研究の出発点となった。そうした中で、複数の仲介者が関与する国際的な「集団仲介」現象への関心を前提としつつも、まずは第三者的主体を複数の主権国家に限定し、分析対象をより単純化することで理論構築の足掛かりを作ることはできないかと考えるに至った。こうした問題意識に基づき、ナミビア紛争解決のための西側五カ国(アメリカ、イギリス、フランス、西ドイツ、カナダ)から構成されたコンタクト・グループ(連絡調整グループ)による、1977年から1982-83年までの集団的仲介活動を扱った事例研究を行い、その成果を海外学術誌に査読付き論文として発表した。ここで展開された集団仲介のダイナミックスに関する概念的考察は、今後推し進めていくタジキスタン内戦の事例研究の完成、延いては国際的仲介に関する理論研究に有益な示唆を与えると考える。またタジキスタンより専門家を招聘するなどして、タジキスタン紛争の和平仲介に関する事実確認や意見交換を実施すると同時に、同国におけるフィールドワークの可能性に関して助言を得る機会も作った。総じて、本研究の目的を達成する上で、未だ試行錯誤は多分にあるものの、研究計画の一年目としては十分な成果を挙げられたものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度中に完成を目指していたタジキスタン内戦の事例研究の進捗が、本研究の今一つの目的である仲介外交に関わる包括的理論研究を念頭に置いた別の事例研究(ナミビア紛争における国際的仲介)に関する英語論文執筆の影響もあり(同年末、海外学術誌に査読付き論文を発表)、当初の計画より遅れている。しかし、ナミビア事例研究を通じて、仲介外交に関する理論的整理が相当程度進捗し、より総合的な理論研究を進める上での基盤作りが出来たと考える。とりわけ、平成23年度に予定した二つの研究テーマのうち、仲介者を複数の主権国家に限定した形ではあるが、仲介的関与がいかなる要因(利益、パワー、動機など)から為され、それらがいかなる相互作用を生み出すのかについての考察はかなり進展した。一方で、もう一つの研究テーマとして、多種多様な仲介者間の連携・調整、特に国連の調整機能に関する分析は今後の課題として残ったと言わざるを得ない。本年度に計画していたタジキスタン和平プロセスにおける国連の仲介活動の指揮を執ったGerd Merrem氏(元タジキスタン担当国連事務総長特別代表)へのインタビュー実施を、次年度に延期したことが大きく影響した。全体的には、ナミビア事例研究を通じた理論的整理に加え、タジキスタンからの専門家招請などを通じて現地調査へ向けた事前準備が進み、本研究の二つの主要目的、すなわち、タジキスタン内戦の和平交渉と仲介外交に関する事例研究の完成、および和平交渉と仲介外交に関わる包括的理論構築の基盤づくりにおいて、一定の成果が得られたというのが初年度の自己評価である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、前年度からの持ち越しの課題であるタジキスタン内戦の事例研究を完成させると同時に、当初の計画通り、そこから得られた知見に立脚しつつ、内戦終結における交渉と仲介の役割に関する理論構築の基盤づくりを進める。具体的活動としては、1)前年度に実施できなかった、タジキスタンにおける国連の仲介活動を指揮したGerd Merrem氏(元タジキスタン担当国連事務総長特別代表)との意見交換、2)前年度のKamoludin Abdullaev氏招聘結果を踏まえ新たに立案したタジキスタンにおけるフィールドワーク、3)仲介外交理論の専門家の招聘、を実施する。平成24年度に研究計画の遅れを取り戻す見込みであり、平成25年は当初の計画通り進めたい。すなわち、1)主権国家、国連、地域機関、非政府組織など様々なアクターの仲介的役割、2)そうした多種多様な仲介者間の連携・調整、3)国際的仲介のタイミング、4)国際的仲介案の合意形成、の4つの研究テーマの全てを分析の射程に入れつつ、本研究の最終目的である国際紛争の和平交渉と仲介外交に関わる包括的理論構築の基盤づくりにおいて、一定の成果を出したい。また自らの研究成果の積極的な発信に努めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度に計画していたGerd Merrem氏へのインタビューを実施しなかったことなどから、「次年度使用額」として約50万円程度の研究費が生じている。一方で研究遂行に不可欠な海外調査および研究者招聘を、その大部分において平成24年度に完了する予定である。そうした必要性を念頭に、前倒し支払請求をして、次年度には210万円の直接経費使用を見込んでいる。主な使途は、Merrem氏へのインタビュー訪問、タジキスタンにおけるフィールドワーク、仲介外交理論の専門家の招聘などに関連する旅費、人件費・謝金などである。また書籍や関連資料の購入費を継続的に計上している。
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Research Products
(1 results)