2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530273
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
島根 哲哉 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (90286154)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 産業論 / 大学入試 / 離散選択モデル |
Research Abstract |
本研究では,受験生の出願行動を離散選択問題として定式し,彼らの期待効用最大化の結果として説明することを試みている.その上で,大学側の受験機会設定の変更や教育サービスの変更が出願行動にもたらす影響を明らかにし,さらにはこうした変更についての受験生の観点からの評価を定量的に与えようというものである.本研究のアプローチは,理論的な側面と実証的な側面がある.本年度は,同日実施であるため併願を考慮する必要のない国公立大学の前期日程の出願について,それぞれの側面から検討を加えた.理論的な側面としては,出願行動を決定する期待効用の定式化を行った.出願した大学に入学することによって得られる効用は,その大学に出願した上で入学試験に合格し,入学したという条件の下で得られるものである.特に入学試験の合否は受験生にとっては結果を得るまでは確率的捉えるしかない.そこで,他の受験生の出願状況を与件としたときの,センター試験スコアによる条件付きの合格確率を考え,これを考慮した出願大学選択をモデル化した.実証的な分析のためには,過去に実現した出願者と彼らの合否,また大学入学により期待される効用を説明する各大学の教育サービス等に関する情報を収集することが必要となる.今回は対象となる国立大学について,受験予備校が公開するセンター試験得点と出願及び合否に関する情報を分析できるよう収集,整理及び加工を行った.また,大学毎の出願者数,合格者数,学部定員,学生数,教職員数等の情報を一部の学部に絞って,収集整理を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論的な検討にあたり,出願者の戦略的な行動を記述するために彼らの直面する合格確率を陽に表現することが困難な点の一つとして考えられたが,これを数値的に近似するアルゴリズムを開発することで克服したと考えられる.数値的なアプローチであるため解析的に「出願均衡」を記述することはできないが,データに基づいて分析/予測を行う上では一定の成果を見込めると考える.実証分析を行うためのデータ整備の面では当初期待していたデータソースから期待した精度の情報が得られないことが分かったが,別のデータソースから具体的なセンター試験得点と合否の対応を確認できるサーベイデータが限られた期間についてでは有るが利用できることが明らかになり,これに合わせた分析フレームワークの再構築を行うことができた.しかしながら,実証分析として統計的な判断に基づく結果を出すためには複数年に渡るデータを蓄積することが望ましく,初年度ではこれに至らなかった.以上の点から,当初計画と比べ達成されていない部分も有るが,全体としてはおおむね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)併願を認めない場合の出願行動について,理論的検討と実証分析を進める.特に内生性を伴う離散選択モデルとしての推定手続きの理論的検討と計算プログラムとしての実装を,計算環境の改良を含めて進める.(2)併願を認める場合の出願行動について,理論的分析枠組みの構築を試みるとともに,実証研究に耐えうるデータの整備を進める.特に国公立大学について水平的併願を前提に,理論的な検討を進めるとともに,分析に相応しいデータの整備の可能性について検討する.平成23年度には,当初期待したデータが入手できなかったこともあり,モデルの理論的な側面を中心に検討を進めた.その後,入手可能であることが明らかになったデータに合わせてモデルを修正することとなった.そのため,当初計画よりも,理論的な検討とデータの整理を中心とした作業が占める割合が高くなり,数値的な分析の一部は24年度以降に行うこととしたため,これらのための予算を年度末に残すこととした.24年度には計画した数値的な分析行うために,これらの予算を充てることを予定している.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用目的は以下のように大別できる.(1)実証分析のための計算環境構築:本研究の実証分析において,シミュレーションを用いた推定手順を必要とすると考えられる.これは推定をする離散選択モデルに内生性が無視できない部分を含んでいるためである.シミュレーションを用いた推定では多くの計算資源を要求するものが多く,実証研究をする際の障害となるが,ここではデスクトップ上にこれらの計算に適した計算環境を構築するとことを目指すとともに,大学所有の並列型計算機を有効に活用することを試みる.(2)理論分析のための知見の収集:分析の対象となる大学の選択に関しては,経済学に限らず幅広い分野で取り上げられ議論がなされている.これらについて文献を通じて知見を得ると同時に,必要に応じて専門家の意見を聞き取る機会を設けより適切な行動モデル構築に活かす.(3)データ入手及びその整備:実証分析を進めるために,今年度までに構築した併願を認めない場合の分析のためのデータセットの拡張,及び新たに併願を認める場合について分析を進めるためのデータの入手及びデータセットの構築を行う.必要なデータの入手及びこの整理のために研究補助者を雇用する.(4)研究成果の発表:分析によって得られた知見をまとめ,口頭発表及び論文の投稿を通じて発表する.
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