2011 Fiscal Year Research-status Report
取引関係から見た総合商社の機能に関する歴史分析-三菱商事を中心にして-
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23530416
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
加藤 健太 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (20401200)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 総合商社 / 三菱商事 / 寿製作所 / 三菱電機 / 取引関係 / 意思決定 / 情報 / 経営資源 |
Research Abstract |
本研究の目的は、戦前期の三菱商事(商事)を主な対象に、取引関係という視点から総合商社の機能を再検討することである。この目的に向けて、2011年度は、(1)寿製作所と(2)三菱電機のケースを取り上げ、商事の機能に関する実証研究を行った。 (1)の事例研究を通じて、三菱商事が、外資との提携の仲介・斡旋と市場開拓のサポートという機能を発揮していたことを明らかにした。具体的に言えば、商事は、繊維機械メーカーの寿製作所によるカサブランカス社(スペイン)の特許権買収を仲介・斡旋した。この買収は寿製作所の製品ラインナップの増強と商事の繊維機械取引の拡大を促す意味を持った。この点に関連して、商事が取引先の情報を積極的に収集・発信していた点を強調したい。そうした行為は、取引先の情報の蓄積に止まらず、商社による「事前的なモニタリング」という新たな論点を提供するように思われるからである。 (2)の事例研究では、総合商社が、同じ財閥に属する企業(分系会社)との間で、どのような取引関係を築き、その中でいかなる機能を果たしたのかという点に考察を加えた。分析の結果、三菱商事は、三菱電機(電機)とメトロヴィックス社との電気機関車製造権譲受(譲渡)交渉の過程において、情報供給と交渉窓口という重要な役割を演じたことが明らかになった。とくに、商事の供給した情報が電機の意思決定ないし経営行動に小さくないインパクトを与えた点は強調してよいだろう。 上記の研究のほか、三菱史料館、東京大学経済学部図書館、北海道立文書館、東洋紡、名古屋市市政資料館、ソウル大学などで資料調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」は、戦前期の三菱商事(商事)を主な対象に、取引関係という視点から総合商社の機能を検討することである。さらに、分析に際しては、(1)意思決定プロセスを視野に入れながら、企業間の取引関係の変遷を追跡すること、(2)個別の取引先企業との関係の中で、商事の持つ経営資源が果した役割とその意義を解明すること、(3)事例の位置づけにあたっては、産業中分類(「部」)レベルに止まらず、"産業小分類"(「商品」)レベルにまで落とし込んだ損益を指標に使うこと、という3つのポイントに焦点を合わせる、と書いた。 この目的と分析視角に照らした場合、(1)については、三菱商事と三菱電機の『取締役会議事録』を使うことで、取引関係の変容に関わる意思決定プロセスにかなりの程度接近できたと考えられる。(2)に関しては、製品販売や資金融通に止まらず、提携の斡旋・仲介、市場開拓のサポート、情報供給、交渉窓口、そして「事前的なモニタリング」といった多面的な機能の存在を実証できたと思われる。(3)については、既発表論文である「戦間期三菱商事の機械取引―数量的推移からの接近―」(『三菱史料館論集』第12号)を参照することにより、商事の機械取引の中で、繊維機械と寿製作所、電気機械と三菱電機がそれぞれどのような位置を占めるのかといった点を把握できるだろう。 以上を要するに、研究の目的と分析視角から見て、本年度はおおむね順調に研究を進めることができたと考える。ただし、事例が機械取引に限られており、異なる商品や業種(企業)で観察される取引関係のあり方や総合商社の役割については、今後の課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
「今後の研究の推進方策」として、ポイントとなるのは、総合商社の機能に関して、新しい論点を提示することである。これまでの研究を通じて、三菱商事の発揮した多面的な機能はある程度明らかになった。ただ、その中に先行研究が強調してきた提携の斡旋・仲介や市場開拓のサポートなども含まれていることは否定できない。実証水準の向上には貢献できたとはいえ、新たな論点を全面的に展開する準備は整っていない。そこで注目したいのは、寿製作所のケースで見出された「事前的なモニタリング」という機能である。商事は、係員による取引先の監視・調査を常時行っており、その経営行動に応じて常駐させる意思を持っていた。換言すれば、総合商社は"取引統治"ないし"経営監視"という機能を有していた可能性がある。今後は、そうした機能が、商社自体ないし取引先にとっていかなる意義を有したのかといった点を深めていきたいと考えている。と同時に、商品ないし取引先の業種を広げることも重要と思われる。 このような研究計画を進めるにあたっては、当然のことながら、上記の機能の存在を裏づける事実の発見が欠かせない。そのためには、第1に、国内外に亘る資料調査が必要となるが、その際、三井物産をはじめ三菱商事以外の商社も対象に加えることや取引先の側から接近することが有用と思われる。第2に、現状分析を含めて、研究史を整理し直すことも重要である。最近、総合商社の歴史研究は注目を集めており、多数の研究者が相次いで業績を発表している。本研究の発見が持つ意義を正確に研究史上に位置づけるためにも緻密なサーベイは大きな意義を持つであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「今後の研究の推進方策」との関連では第1に、国内外の資料調査とヒアリング調査に要する旅費、複写代・プリントアウト代などを挙げられる。第2に、研究史のサーベイに必要な文献の購入に充てる。このほか、研究成果の発表を目的にした学会ないし研究会への参加に関わる旅費、論文の作成に用いる一次史料と二次文献(書籍、雑誌)の購入にも使用する予定である。
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