2011 Fiscal Year Research-status Report
日本における【良い会社】と企業倫理のプラットフォームの構築
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23530459
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
水村 典弘 埼玉大学, 経済学部, 准教授 (50375581)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 企業倫理 / 行動科学 / 行動倫理 / 行動科学系企業倫理 / 企業不祥事 / 良い仕事 / 評価指標 / CSR |
Research Abstract |
本年度は、行動科学系企業倫理という先端領域を開拓し、「よい仕事」のドライビングフォースとなる組織と業績評価の設計図をデッサンする段階まで到達できた。ビジネスパーソンが非倫理的な行動に手を染める心理的要因にフォーカスした行動科学系企業倫理にアプローチできたことは、企業倫理の基盤となる制度の実効性を高めるうえで重要な意味を持つ。眼前の利に迷って非倫理的な行動に手を染める人の心理プロセスに目を配らなければ、企業倫理の基盤となる制度も水泡に帰してしまうからである。次いで、不祥事発覚後に軌道修正を図るために編成されたプロジェクトの関係者へのヒアリングを重ね、「誰が、何を軸として、どのような仕掛けを施すのか」を明らかにできた。本年度に得られた知見は、次のとおりである。第1に、不祥事発覚後の経営者選任のプロセスが復元ポイントになる。第2に、経営者主導の倫理イニシアティブは、当該部門長と構成員の社内評とキャリアパスに依存する。第3に、数値目標が社員の非倫理的な行動を誘発した場合には、定性的評価指標の導入と評価者の育成プログラムが重要となる。The author surveyed the frontier of the theoretical development of behavioral business ethics and described the architect and driving force of good quality of work. In this case, CEO should take the initiative in designing performance management system that rewards individual employees who support and foster good quality of work.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本国内外の研究動向をサーベイする過程で「行動科学系企業倫理」(behavioral business ethics)というアメリカでも先端的な領域を発掘し、企業倫理学に新たな地平を拓くことができた。このことは、当初計画案を上回る本年度の成果である。規範的企業倫理学(normative business ethics)とは異なる前提に立って議論を組み上げてきている「行動科学系企業倫理」は、2010年前後の欧州とアメリカで萌芽し、行動科学の研究者だけではなく企業倫理の研究者の間でも注目されている。しかし、日本国内で紹介されることはない。規範的企業倫理学の前提となっている「理性的人間」(rational person)の限界が「行動科学系企業倫理」という新たな領域を創出したという事実の発見は、企業倫理の基盤となる制度の設計思想に影響を与えるだけではなく、学術研究上の意義を持つ。次いで、不祥事発覚後に軌道修正を図るために編成されたプロジェクトのリーダーや関係者へのヒアリングが実現し、復元ポイントの設定や復元シナリオの骨格となるドライビングフォースの輪郭を明らかにできた。このことも当初計画案を上回る本年度の成果である。「よい仕事」のドライビングフォースとなる組織と業績評価の設計図に関して、本年度に得られた知見は、次のとおりである。第1に、不祥事発覚後の経営者選任のプロセスが復元ポイントになる。第2に、復元シナリオを描くコーポレート部門発のメッセージがオペレーションレベルのマネージャーの腑に落ちて実行に移されるかどうかは、当該部門に就く人物の社内評とキャリアパスに依存する。第3に、組織業績評価と人事評価に占める定性的評価の割合を引き上げる際には、定性的評価指標に正統性を付与するだけではなく、定性的評価指標(例、コーポレートバリューズ)の内容に通じた評価者の育成プログラムが重要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き次年度も規範的企業倫理学と「行動科学系企業倫理」の研究動向をサーベイする。「行動科学系企業倫理」については、行動意思決定論(behavioral decision making)と行動倫理学(behavioral ethics)の先行研究を渉猟し、規範的企業倫理学との違いを浮き彫りにする。特に、Bazerman and Tenbrunsel(2011)の著書『ブラインドスポット』(Blind Spots: Why We Fail to Do What's Right and What to Do About It)や、Cremer and Tenbrunsel(2012)の編著『行動科学系企業倫理』(Behavioral Business Ethics: Shaping an Emerging Field)など、行動科学系企業倫理の基礎的文献を講読し、企業倫理学の系譜に位置付ける。「よい仕事」については、ハーバード・プロジェクト・ゼロ(Harvard Project Zero)による「グッドワーク・プロジェクト」(GoodWork Project)に視野を広げて、「よい仕事」という概念を精緻化する作業に取り掛かる。「よい仕事」のドライビングフォースとなる組織と業績評価の設計図については、前年度に得られた知見を汎用可能なモデルの域にまで高める。また、結果に至るプロセスの妥当性を評価するために導入された組織業績評価や人事評価の運用状況などをリサーチしたうえで、業績評価の全体に占める定性的評価の割合を引き上げる際に出てくる課題や問題点(例、過大申告、身内贔屓など)についても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・「研究費の次年度使用」による研究費移動(H23年度使用予定からH24年度使用予定への移動)の理由:(残額が生じた状況:その1)図書(英語文献)の出版が大幅に遅れたため。(その2)海外の取次店に発注していた図書(英語文献)が本学の備品図書受け付け締切日までに到着しないことが判明し、キャンセルしたため。(次年度での使用予定)上記の理由で購入できなかった英語文献を発注し購入する。・次年度に使用する研究費の額:本年度の未使用分(115,963円)は、次年度の研究費(500,000円)に繰り入れて使用する。次年度の研究費の総額は615,953円となる。・物品費(本年度の未使用分を含めた額:365,963円)は、本研究を遂行するために必要な図書、設備備品、並びに消耗品を購入するために使用する予定である。旅費(100,000円)は、本研究を遂行する際に必要な情報を得るための調査・研究旅費(ヒアリング調査)や本研究の内容に関わる情報を得るための旅費として使用する予定である。人件費・謝金(50,000円)は、本研究の内容に関して専門的知識の提供を得る際に使用する予定である。その他(100,000円)は、本研究を遂行するための経費として使用する予定である。いずれの項目についても、申請者が属する研究機関で実施する教育経費及び研究経費では補完できないと考えられるものに限定している。
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