2013 Fiscal Year Research-status Report
日米コンテンツ事業のビジネス・エコシステムの比較研究
Project/Area Number |
23530510
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
井上 達彦 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (40296281)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山下 勝 青山学院大学, 経営学部, 教授 (80348458)
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Keywords | 価値創造 / ビジネスモデル / ビジネスエコシステム / ネットワーク / コンテンツ産業 |
Research Abstract |
本研究はコンテンツ産業の価値創造の仕組みについてビジネスモデル、コラボレーション、社会ネットワーク論の視点から探求することを目的としている。調査はコンテンツ産業を代表する日本の音楽産業を対象としており、業界関係者から得た定性データ、公刊資料から得た定量パネルデータを用いて分析を行っている。2013年度の主な研究活動は、これまでの研究活動から得た知見をまとめ、国際学会で研究発表を行うとともに、学会誌への論文投稿を行ったことである。また、現在までに得られた知見を発展させるべく、実務家へのインタビュー、文献レビューを行った。 2013年度の主な実績は、9月に行われたStrategic Management Societyの国際年次大会での発表である。本学会では、市場環境の不確実性が高まった際の企業のネットワーキング行動について発表した。具体的には以下である。 不確実性に対応するための企業のネットワーク行動は関係を結ぶ相手のビジネスモデルに依存する。価値を生み出すうえで信頼関係が鍵となるビジネスモデルをもつ企業とは不確実性が高まった際に、繰り返し同じパートナーと関係を結びやすい。音楽産業でいえば、このプレイヤーは、長期的なアーティストの育成が不可欠な音楽プロダクションである。一方、短期的経済機会を追求が鍵となるビジネスモデルをもつ企業とは、不確実性が高まった際に関係自体を結びにくい傾向が定量分析から明らかとなった。このプレイヤーは、時間とともに価値が低下しやすい楽曲著作権を投資、売買する音楽出版社である。つまり、音楽産業の中心的プレイヤーであるレコード会社は、市場環境が変化する中、異なる論理で行動する二つのタイプのプレイヤーとネットワーク関係を結びながら価値を創出しなければならない。なお、上記発表内容は学会でのフィードバックを踏まえて論文化し、既に『組織科学』に論文を投稿している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトが活動実績として設定していた次の二つの目標は既に達成している。一つは、トップジャーナルを発行している国際学会(Strategic Management Society)での研究発表であり、もう一つは国内の経営学分野を代表する学会誌への投稿である。ただし、後者の学会誌への投稿は、まだ審査結果が得られていない状態であるため、2014年度にリバイスを行い、再度投稿する可能性がある。 残念ながら、公刊資料から得られるデータ仕様が異なることから、日米比較分析を行うことはかなわなかった。日本の音楽産業で得られるデータは、長期にわたってランキングデータを提供してきた『オリコン年鑑』から個々の音楽作品の売上げなどのパフォーマンス情報、作家情報、企業情報が豊富に得られる。一方で、Billboard chartなどの日本の『オリコン年鑑』にあたる公刊資料からは、米国の音楽産業の個々の作品にかかわる詳細データが得られなかった。もちろん、詳細な作品データを提供している業者(例えばSound Scan)は存在するが、日本並みのデータをこうした業者から得るには本研究の予算を大幅に超えてしまうため、実現することができなかった。 しかし、本研究プロジェクトを通じて日本の音楽産業にかかわる長期かつ豊富なデータを備えたパネルデータが構築できたため、本プロジェクト終了後もエコシステムやネットワークに限らず、様々な枠組み、理論的視点から研究を行うことができると考えられる。このように既に一定の目標実績が達成されたことから、2014年度は、これまでの知見を踏まえた新たな調査課題に向けた研究活動を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
先の達成度の項目でも一部説明したとおり、本研究プロジェクトの最終年度である2014年度は、これまでの研究から得られた知見を踏まえて、今後の調査課題の発見、設定に向けた調査活動を行う。推進方法として以下の三つの活動を重点的に行う。 一つは、定性研究の方法論かかわる文献レビューである。これまでは統計的手法を用いた定量調査を中心に行ってきた。定性調査は、定量調査で得られた理論的因果関係の知見をより強固なものとするためにも有用であり、新たな理論構築を行うためにも有用である。つまり、定性調査はこれまで行ってきた定量調査と補完関係にある。今後は、国際学会の水準に耐えうる定性調査を行っていくためにも、定性調査の方法論をレビューしていく。とくに、主要な学会において高く評価されている文献を取り上げ、データベースを構築して行く予定である。 二つ目は、定性調査の方法論のレビューと並行して、実務家へのインタビューを継続させることである。確固とした方法論に沿いながら、定性データを収集し、整理していく。これまでの調査から得られた知見をベースに楽曲以外のコンテンツについてもより包括的に調査できるように、音楽業界以外へのインタビューを本格化させる。 三つ目は、国内外の学会参加費にかかわる旅費である。新たな理論構築を行うためには、最新の研究の知見を獲得する必要がある。そのため、2014年度は積極的に学会に参加していく。 以上の推進方法を踏まえ、予算の計上も工夫する。2014年度の予算は主に、文献レビューにかかわる書籍の購入、実施したインタビューをテープ起こしするための業者委託、学会参加にかかわる旅費を計上する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
発表が受領された国際学会が滞在中の北米であったため、当初の予定よりも旅費が節約できたため。 本研究を発展させるための文献調査のデータベース構築や定性的研究を進めるためのインタビュー調査費に充てる予定である。
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