2013 Fiscal Year Research-status Report
専門職のキャリアパスと職業的自立性に対する社会的流動性の影響
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23530519
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
藤本 昌代 同志社大学, 社会学部, 教授 (60351277)
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Keywords | 専門職の流動性 / 国際比較 / 組織コミットメント / 日本 / 米国 / フランス |
Research Abstract |
本研究は、日米仏の3つの社会的環境における専門職の就業観・行動を比較することで、個人に与える社会的環境の影響を分析するものである。 2011年度はフランスの研究者・技術者が置かれた状況について文献渉猟、現地での聞き取り調査を行った。その中でフランスの研究者とのネットワークを構築し、2012年2月に行われた第23回フランスの研究者・技術者のキャリアパス調査へ参画を許可された。 2012年度は、6月に先の調査実施機関(CNISFというエンジニアリングスクールに強力なネットワークをもつ調査実施機関が行っており、各校が共同で協力体制を組み、OB,OGのキャリアパス、ライフコースを追っている)のフランスでの報告書への執筆機会を得た。このデータから、フランスの高学歴者の移動に関する知見を得ることができた。 2013年度は、本研究の目的である社会的流動性の異なる環境にいる専門職らの就業観、行動に関する比較については、このフランスのデータを用い、日本および米国シリコンバレーの研究者・技術者の調査データとの比較分析を行った。移動と組織への愛着の関係は、相対的な比較対象を示すことで、仮説を大きく越えた結果を導き出すことができた。具体的には、組織と長期的な関係を築く日本の研究者、技術者は、組織への忠誠心が低く、しかし、組織に期待している状況であった。他方、解雇の多いシリコンバレーや中流動性のフランスの研究者、技術者の忠誠心は高いという結果が出た。つまり、定着と愛着は違うという発見がなされた。この研究結果について、スタンフォード大学およびフランス国立社会科学高等研究所(EHESS)から招待を受け、成果報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、研究計画当初、ネットワークが少ない中、研究代表者自身でフランスにおける定量的調査への展開が非常に困難な課題だと考えていたが、フランスの研究者の厚意により、フランス全土で実施される大規模調査に加わることができるという大変幸運に恵まれ、予想を超えた大きな進展があった。その一方で大学の執行部で務めた部署の性格上、海外出張に出て研究を進めたい時期に校務に従事しなければならないことがあり、インタビュー調査があまりはかどらなかったという経緯もある。したがって、定量的調査に関しては想定をはるかに越える成果があり、定性的調査に関しては予想を下回る成果であったため、両方をあわせて、おおむね順調という自己点検評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間、関わってきたフランスの状況を検討した結果、研究者・技術者の組織に対する態度、行動を規定する要因として、社会構造だけでなく、文化構造の影響が大きいことが明らかになった。そのため、彼らの専門職としての志向、職業倫理に加えて、移動(組織間、業種、地域、国家間)の理由、働きがい、ライフコースプラン、ワークコースプランへの志向を調査し、さらなる文化構造の解明が重要である。日仏米の組織への忠誠心の違いなど、その背景にある文化的要素は注目すべき点である。フランスの研究者・技術者の態度や行動を文化的視点から分析することは、日本の研究者・技術者にも通ずる知見が予測され、彼らが経済的合理性、研究環境の合理性だけでなく、文化構造の中に存在する個人であることを考慮した視点として非常に示唆に富んだ結果をもたらすだろう。研究者・技術者は研究成果を生み出すマシンではなく、経済的合理性だけで動く訳でもなく、将来への予期、価値意識、それまで歩んできた環境での規範などに影響を受け、また自身も社会的環境に影響を与える社会的生き者である。次期研究では、彼らの行動・態度はこれらの社会的環境との相互作用によって起こり、変化するという観点で日本よりも流動性が高いが定着者も多いフランスおよび周辺国での事象を検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2011年度、2012年度において、大学執行部として、センター所長を務めた経緯から、フィールドワークに出たい時期に、校務を務める必要があったため、各年度、頻繁に渡航する、長めに滞在して、質的調査を行うなどが、困難であったため、100万円程度の残額が生じた。 定量的調査での成果が非常に大きかったことから、論文執筆に注力し、残額を利用して、英語論文への翻訳、ネイティブチェックなどを受け、研究成果を海外に発信するために利用したい(定性的調査は次の研究でカバーする予定である)。
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Research Products
(4 results)