2011 Fiscal Year Research-status Report
北米における多国籍企業の輸出加工戦略と国境経済圏の研究
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23530520
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
上田 慧 同志社大学, 商学部, 教授 (50121786)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 多国籍企業 / 国境経済圏 / マキラドーラ / 輸出加工 / カナダ / メキシコ |
Research Abstract |
全体構想は、多国籍企業によるグローバルな輸出加工工場の立地戦略が地域経済と国際貿易に及ぼす影響について、NAFTA(北米自由貿易協定)を中心に考察することである。国境をクロスする「国境経済(border economy)圏 」理論と実証モデルの提起については、単著『多国籍企業の世界的再編と国境経済圏』同文舘、2012年8月刊行、に結実させた。中国広東省の「加工装配」とメキシコの「マキラドーラ」との共通性について初めて指摘し、国境を活用した多国籍企業の「輸出加工システム」として実証的・歴史的に論証を試みた。さらに本書で分析したメキシコと関連する「米国=カナダ国境経済圏」の存在については、「米国=カナダ国境経済圏における自動車産業の集積」『同志社商学』第63巻第3号、2011年11月刊行、において論証した。 予備調査をふまえ、米系自動車多国籍企業の拠点デトロイトと国境で隣接するカナダ・オンタリオ州のウィンザーからトロント・オシャワに連なるNAFTAスーパーハイウェー(401号線)沿線の自動車産業集積の分析を行い、以下の諸点を解明した。(1)世界最大規模の米加間の緊密な国境貿易、(2)その圧倒的部分がデトロイト自動車多国籍企業へのカナダ自動車産業の依存の深さを示すこと、(3)カナダ国産自動車産業の発展とGMへの吸収という歴史過程、(4)米国経済の市況に左右されるほど、カナダ自動車産業が米国デトロイト自動車大手の分工場化している実態、以上を明らかにできた。その後2012年3月22-31日に現地調査を遂行し、オタワからモントリオールまで調査対象を拡大した結果、NAFTAにおける米国系自動車多国籍企業による輸出加工立地戦略のカナダ経済に及ぼす深刻な影響、カナダ国産自動車会社の発展過程などで新たな知見を得た。その成果は今後、論文・著作等で刊行していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NAFTA(北米自由貿易協定)の米加・米墨間の国境経済圏における輸出加工貿易の本質に関する解明が大きく進んだ。東アジア・中国珠江デルタ・メキシコの研究に加えて、米国=カナダ間の自動車輸出加工貿易の実態を解明できたことは、「国境経済(border economy)圏 」の理論に説得力が増したと思う。米系自動車多国籍企業のカナダ経済への影響力、米自動車工場のメキシコ移転によるカナダ地域経済の衰退と国内経済の二極化、マクロ―リン一族によるカナダ国産車路線のGMへの吸収過程などを立証し、現地調査によって、新たな現地資料を発掘し、実態をかなり明らかにすることができた。 これにより、NAFTA加盟3国間における自由貿易圏において、カナダとメキシコが、米国系を中心とする多国籍企業の企業内国際分業下におかれており、その資本シフトなどの影響が地域経済を大きく左右する実態を解明する手がかりを得た。多国籍企業によるグローバルな輸出加工工場の立地戦略が、地域経済と国際貿易に及ぼす影響について、カナダにおける米国への自動車貿易の依存関係がクリアに析出されたことも、全体構想を強く支持する研究結果となっている。A.ラグマンの「ダブル・ダイヤモンド」理論の根拠や限界も理解できたので、多国籍企業経営論の発展にもつながる成果を得た。 さらに、現地では、カナダとメキシコの代替投資・競合関係が意識されるようになっており、工場のメキシコ移転による空洞化地域と外資誘致地域との格差拡大など、多国籍企業の輸出加工戦略が地域経済に大きな影響を及ぼしていることが明らかになってきた。その意味で当初の構想が概ね順調に進展していると評価している。 課題としては、短期間の調査のため、カナダとメキシコとの相互関係、カリブ海マキラの予備調査などは、次年度の課題として残している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の米国=カナダ・オンタリオ州「国境経済圏」の調査研究においては、2012年3月下旬の現地調査が短期間のために、トロントからウッドストック・ロンドンなど、本来宿泊を必要とする地域には、高速鉄道などを利用し、日帰りの効率的な調査活動に変更したため、9万円弱の次年度使用額が生じた。次年度のメキシコ・カリブ海調査は今年度より宿泊・移動費が多くなることが予想されるので、有効に活用したい。 次年度(2012年度)は、メキシコの国境マキラと内陸マキラの最新動向を再調査し、併せて中米地域のマキラドーラの本格的な調査を行う。この調査は手薄な領域のため、事前の文献収集と現地の治安情報に注意しつつ、日本機械輸出組合、日系マキラドーラ協会、日系企業等の協力を事前に得ることとする。 米国政府による「カリブ海地域産業振興計画(CBI)」の影響下で、米国=カリブ海国境経済圏がどのような態様を示しているのか。また、NAFTA市場への輸出を巡って、メキシコ・中国・カリブ海諸国の競合関係がどのような局面にあるのか。以上の現地調査とともに、米国=メキシコ=プエルトリコ=ドミニカ共和国の「垂直的階層的な多国籍企業の輸出加工・委託生産システム」を析出し、輸出加工の国境経済圏として、新たに類型化し、論考で成果を発表する。調査は、現地資料等で補完しつつ、安全で適切な現地調査体制のもとで遂行する。 次々年(2013年)度には、これまでのカナダ調査と併せ、総括的に、主題の「北米における多国籍企業の輸出加工戦略と国境経済圏の研究」としてまとめ、できれば著書を刊行したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
JETROやアジア経済図書館などを訪問し、事前の文献調査・訪問先の選定・調査の依頼を行う。そのための複写・文献購入の予算を使用する。次年度は、米国・メキシコ間国境地帯とカリブ海マキラドーラの広域調査のために、国外渡航旅費と現地移動のための交通費の比重が大きくなることが予想される。 研究経費としては、(1)米加自動車産業集積やメキシコとカリブ海マキラドーラ関連の文献や統計など、現地情報を活用できる貴重な図書を購入する。(2)国内旅費はできるだけ節約し、北米・中米での現地訪問・フィールドワークを根幹として、効率的な出張調査を遂行する。調査期間について、2、3年目は8~10日間の短期的な調査としていたが、初年度は短縮したので、今回は2週間ほどの調査期間が必要と考えている。 メキシコのマキラドーラの構造はこれまでの研究で解明しているので、効率的な定点観測として、米国側サンディエゴを拠点に中南米関係の研究機関で新規の資料を入手し、日系マキラドーラ協会の訪問やインターネットを活用した取材を組み合わせて、最新情報の入手に努める。重点は、中米・カリブ海諸国の調査であり、一応、パナマかプエルトリコを調査拠点として、カリブ海マキラドーラの実態調査を遂行する。 上記の調査拠点への渡航費用が根幹となるが、ドミニカ共和国への海路など、カリブ海諸国間の海上・空路交通費、郊外の工場調査などでの現地移動手段利用のための交通費などが必要となり、専門的な取材協力・ガイドなどに対する若干の謝礼なども予想される。必要不可欠な費用のみに節約し、効率的な調査活動を心掛けたい。
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Research Products
(2 results)