2012 Fiscal Year Research-status Report
北米における多国籍企業の輸出加工戦略と国境経済圏の研究
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23530520
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
上田 慧 同志社大学, 商学部, 教授 (50121786)
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Keywords | 国境経済圏 米国・カナダ・メキシコ・カリブ海諸国 / マキラドーラ メキシコ・カリブ海諸国 / 輸出加工戦略 カナダ・メキシコ / 自動車多国籍企業 米国・日本 |
Research Abstract |
本年度は、引き続きNAFTA(北米自由貿易協定)における米国・カナダ間の国境経済圏と、メキシコとカリブ海諸島におけるマキラドーラ(保税加工工場)の新しい展開を調査し、単著刊行を目指す準備作業の年度となった。北米とカリブ海(中枢都市プエルトリコ・サンファン市)の現地調査が、2012年度末の3月23日から31日までとなったために、本格的な成果刊行は翌2013年度に持越しとなった。米国デトロイトの調査では、フォード社のルージュ自動車工場を見学し、日米の生産工程比較による貴重な知見を得た。とくにデトロイト市における市街電車網の形成と解体=自動車都市への転換を実証する歴史資料を多数収集できた。デトロイト市ではダウンタウンに滞在し、急速な都心部の荒廃と停滞、他方、郊外部の発展とカジノ等の新しい発展、という顕著な2極化の進行を実感することができた。そうした世界的自動車都市デトロイトにおける都心部の空洞化が、世界的な米国Big3の変貌=再編‐GMの米加官民による再生、フォード社の展開、フィアット(伊)によるクライスラー再建‐によって加速していることの手がかりを得たことは大きな前進であった。工場配置等の歴史的資料により、都心の空洞化と、カナダ及びメキシコとの米加墨国境をクロスした自動車分工場との企業内国際分業の展開との相互関連について、研究が前進したと思う。また、プエルトリコ大学への訪問、同図書館におけるカリブ海マキラ関係の貴重な原資料を収集し、カリブ海のウォール街とよばれるサンファン市HATO RAYでの調査により貴重な現地資料を多数蓄積できた。これにより米国―カナダーメキシコ-カリブ海に展開する「北米における多国籍企業の輸出加工戦略と国境経済圏の研究」の刊行への準備作業がすすんでいる。こうした研究成果が結実するよう引き続き努力したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
北米とカリブ海(中枢都市プエルトリコ・サンファン市)の現地調査が、2012年度末の3月23日から31日までとなったために、本格的な成果刊行は翌2013年度に持越しとなった。学会活動等の関係で長期の日程がとれなかったことと、紀要への2本の論文の発表が間に合わなかったことによる。年度末調査によってその難点の解決の手がかりを得ることができた。全体構想は、多国籍企業によるグローバルな輸出加工工場の立地戦略が地域経済と国際貿易に及ぼす影響について、NAFTA(北米自由貿易協定)を中心に考察することである。国境経済(border economy)圏モデルの提起については、従来からのマキラドーラ研究を踏まえ、「米国=カナダ国境経済圏」の存在を立証した前論文「米国=カナダ国境経済圏における自動車産業の集積」『同志社商学』第63巻第3号、の論点を、さらにデトロイトの都市空洞化との関連のもとに調査し、論点を深めることができた。前年度のカナダオンタリオ州401号線沿いの自動車産業集積の分析について、今年度はデトロイト側から現地調査し、米加国境貿易の圧倒的部分がデトロイト自動車多国籍企業へのカナダ分工場の依存の深さを示していることを確認できた。しかし、予定の現地調査を短縮せざるを得なかったために、メキシコでの現地調査を割愛したことは残念であった。文献上の調査はできたが、北米3か国・NAFTAにおける多国籍企業の輸出加工立地戦略の十全な解明が残された課題である。この課題について早目の再調査が必要であり、遅れを克服し、その成果を論文・著作等で刊行していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
早目に現地再調査を行い、デトロイト都心部の空洞化の急速な進行と、米系自動車多国籍企業のNAFTA戦略-とくにカナダからメキシコへの立地移動などの北米全体にわたる企業内国際分業戦略の再編との関連性を立証する。そのため、米・加・墨にわたる北米再編戦略が当該地域経済に及ぼす影響について、工場閉鎖・移転等の具体的データやデトロイトを含む自動車分業の実態についての実証的な研究成果を発表する。今年度末に間に合わなかった草稿の完成を当面の目標に置き、とくにメキシコ・マキラドーラの再調査を焦点に、カリブ海マキラの予備調査結果と関連させて成果をまとめる。多国籍企業によるグローバルな輸出加工工場の立地戦略が地域経済と国際貿易に及ぼす影響について、当初の研究目的を具体化する。従来のメキシコのマキラドーラ、アジアのシジョリーGT、中国珠江デルタにおける輸出加工区と国境経済圏の研究を見直し、カナダの分工場化と米国への依存関係・デトロイトの都心空洞化の研究、プエルトリコなどカリブ海の輸出加工区研究の成果を加えて、全体構想を完成させるとともにその成果を出版する。併せて、平板なグローバル化論や「フラット化する世界」説、これに対するA.ラグマンの「ダブル・ダイヤモンド」理論など、それらの諸説の根拠や理論的限界への理解も深まったので、上記の実証研究の発展を踏まえ、諸学説の批判的再検討により、多国籍企業経営論の最新の発展段階とその研究課題も明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、最終のカナダ・米国・メキシコ3か国間の国境経済圏とカリブ海マキラドーラの広域再調査のため、国外渡航旅費と現地移動のための交通費の比重を高めに計上している。また、引き続き事前の文献調査・訪問先調査のために、文献購入等の予算が必要である。とくに、米加自動車産業集積やメキシコとカリブ海マキラドーラ関連の文献や統計など、現地の貴重な図書を購入する(ミシガン州最大の古書店を事前に確認している)。国内旅費は節約し、北米3か国での現地訪問・フィールドワークを中心に有効かつ効率的な調査計画を立てて、遂行する。調査期間について、これまでの短期的な調査と異なり、2週間以上の調査期間を設定して可能な限り十分な調査を行う。米国側サンディエゴとデトロイトを拠点に、米国・カナダ・中南米関係の研究機関・図書館・古書店にて新規資料、最新のデータを入手し、インタビュー等のための費用を計上したい。そのため、専門的な取材協力・ガイドなどに対する若干の謝礼なども必要となる。必要不可欠な費用のみに節約を心掛けるつもりであるが、安全な調査のため、現地内の長距離移動の交通費、郊外の工場調査などでの現地移動手段利用のための交通費なども必要と考えている。
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