2013 Fiscal Year Research-status Report
北米における多国籍企業の輸出加工戦略と国境経済圏の研究
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23530520
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
上田 慧 同志社大学, 商学部, 教授 (50121786)
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Keywords | 多国籍企業 / 国際経営 / マキラドーラ / 輸出加工区 / 国境経済圏 / 輸出向委託生産 / 非出資型生産 |
Research Abstract |
当研究の目的は、NAFTA(北米自由貿易協定)の国境地帯に広がる輸出加工工場の集積に着目し、「国境経済圏(border economic zone)」という視点によって多国籍企業による輸出向国際加工戦略が進出先の経済及び本国経済に及ぼす影響を考察することである。 多国籍企業が発展途上国の輸出加工区(EPZ)に国際加工基地を置く傾向は、アジアだけではなく世界的に普及している。その論証のため、中国広東省の輸出委託生産システム(珠江模式)とメキシコのマキラドーラ(保税加工工場)との類似性を強調した比較研究として、単著『多国籍企業の世界的再編と国境経済圏』(同文舘)が2011年8月に刊行された。 今研究では、新しいモデル構築を目指し、第1に、米国デトロイトからカナダに延びる「NAFTAスーパーハイウェイ(401号線)」の現地調査をすすめ、デトロイトの世界本社とカナダの分工場との間に、自動車生産のための北米最大の国境経済圏が成立していることを、論証した(「米国=カナダ国境経済圏における自動車産業の集積」『同志社商学』2011年11月)。第2に、米国のプエルトリコを拠点としカリブ海諸国に広がる「カリブ海マキラドーラ」について、現地の大学や工業団地などでの調査を行った。第3に、米墨間の国境だけでなく輸出指向の「内陸型マキラドーラ」工場が多数立地しているモンテレーの工業団地を訪問調査した。また、北米とアジアを「両翼の陣」とする日本型多国籍企業の実態を踏まえ、当研究の基本視座として「地球企業市民」活動を重視する視点を提起した。研究成果の公開として、学校法人同志社東京新島講座「多国籍企業の世界-企業は地球市民たりうるか-」(2013年10月5日東京)の講演を行い、東京での資料収集などの準備と米加墨の現地調査により、「国際経営と多国籍企業の現段階」『同志社商学』2014年3月、を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当研究は3年間の予定であり、初年度には、デトロイトの自動車多国籍企業の世界本社と、カナダ側のウィンザーとオシャワの重点調査を実施することで、自動車の国境クラスターの成立を充分に実証し、成果を刊行(公開)できた。2年目には、親族の不幸と度々の介護帰省が重なったため、2週間以上の十分な調査期間がとれず、集中調査は年度末となった。デトロイト市内空洞化とフォード自動車工場等の調査、プエルトリコ大学での資料調査や金融中心地の調査で新しい知見を得て、貴重な現地資料を入手することができたが、デトロイトの財政破綻と自動車多国籍企業による国際分業戦略との関係、米国「カリブ海地域産業振興計画(CBI)」)を契機とするカリブ海マキラドーラの調査、以上の成果の刊行は継続課題となった。3年目の最終年度には、デトロイト市の財政破綻の現状調査、メキシコ・モンテレーの多数の工業団地を訪問調査し、メキシコ系大規模「内陸型」マキラの発展など新たな知見を得たが、上記の理由で、調査期間が年度末にならざるをえなかったため、平成26年度への延長申請を行い、受理された。最終年度に総合的な考察のための方法論的な成果は刊行できたが、今後、延長期間内に短期の補足調査を実施し、上記の調査結果と残された課題の研究成果を必ず刊行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当研究の学術的特色としては、従来の「局地的経済圏」が「アジアモデル」に限定されていたことにたいして、独創性を重視した「国境経済圏」モデルと輸出加工区は北米はじめ世界中に普及している点にある。国境経済圏と輸出加工貿易の研究は、近年、国際的な論争課題となっている「フラグメンテーション(生産の分散立地)」や、輸出委託加工生産など「非出資型生産(NEM)」の焦点となっているので、残された期間で前回の論考「国際経営と多国籍企業の現段階」をさらに詳しく展開したい。また、米加墨の国境地帯に広がる輸出加工工場の集積を定点観測しつつ、デトロイトの財政破綻と自動車多国籍企業の国際分業との歴史的実証的関連を明らかにし、米国・メキシコ間国境地帯とカリブ海マキラドーラの調査により、NAFTAの地域格差を内包する重層的で階層的な特質を立証する。また、北米とアジアに「鶴翼の陣」をとる日系企業をはじめ多国籍企業による輸出加工貿易モデルの理論化に努めたい。前年度からの繰越額を利用し、短期の調査を遂行した後、以上の成果をまとめて刊行したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に、北米での長期の現地調査を計画していたが、昨春に母が逝去し、その後も北海道で要介護状態にある父の病状が悪化し、度々介護帰省する必要に迫られたことが具体的な理由である。2013年3月下旬に短期の現地調査を遂行できたが、平成25年度内の予算の全額消化が難しいと判断した。 カナダ大使館付属図書館はじめアジア経済研究所、JETROなどへの準備調査をふまえ、予算内で、短期の現地調査を行い、調査結果をまとめ、遅れを取り戻すために、その成果を数本の刊行物で公表する予定である。
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Research Products
(1 results)