2013 Fiscal Year Research-status Report
連単分離下での原則主義のIFRSへのコンバージェンスの数理モデル分析
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23530574
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
加井 久雄 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (10303108)
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Keywords | 原則主義 / 規則主義 / 連結先行 / 連単分離 / コンバージェンス / IFRS / 会計の機能 / 利害調整機能と情報提供機能 |
Research Abstract |
本研究は,財務報告基準の国際的統合化(コンバージェンス)において,原則主義とされるIFRS(International Financial Reporting Standards)を連結財務諸表の作成基準とし,規則主義とされる日本の会計基準を連結財務諸表の基礎となる単体財務諸表の作成基準とすることによる影響を数理モデルで分析することを目的としている。 平成25年度には,日本の制度面の特徴的な動向として,連結先行の考え方よりも連単分離の考え方が勢いをえた。連単分離の推奨者の中には,連結財務諸表が投資者への情報提供を担い,単体財務諸表が利害調整機能を担うという主張をする者がいる。平成25年度には,この主張の妥当性を検証する研究を行なった。ホルムストロームとミルグロムが開発したLEN(経営者報酬は業績指標の線形関数,経営者の効用関数は負の指数関数,確率変数は正規分布に従う)フレームワークを利用して,親会社と子会社の単体財務諸表(単体の業績指標)や連結財務諸表(連結の業績指標)を数理モデルで表した。さらに,本研究では,経営者と株主の利害対立だけでなく,経営者から投資家への情報提供についても明示的に分析できるように数理モデルを定式化した。数理モデル分析の結果,親会社の単体財務諸表(財務指標)と連結財務諸表(財務指標)が利害調整機能と投資者への情報提供機能をどのような割合で担うのかは,一概にはいえないことを厳密に示した。とりわけ,規則主義と原則主義との関係については,公正価値会計を前提とする原則主義的なIFRSに準拠して連結財務諸表を作成すると,規則主義的な日本基準による連結財務諸表よりも情報提供機能が低下し,利害調整機能のみならず情報提供機能にも連結ではなく単体を利用するのが合理的であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年6月に企業会計審議会は,「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」を公表し,単体開示の簡素化を図ることが適当としている。識者の中には,さらに大きな制度変更を提唱する者もおり,米国と同様に日本の金融商品取引法の枠組みにおいても単体開示を廃止するべきと主張する。。このような情勢を考慮し,単体財務諸表を開示しない場合のコンバージェンスの影響を考慮する必要があると判断した。日本と米国では歴史的経緯や制度の背景が異なるから,米国で単体を開示しないから日本でも開示しなくても良いということにはならない。そこで,当初の研究計画に加えて,米国において単体財務諸表を開示しない歴史的理由や制度的な背景を詳細に調査・分析することにしたため,研究の進捗度が当初の予定よりも遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
米国において単体財務諸表よりも連結財務諸表が重視されるのは,米国が連邦国家であることや反トラスト法への企業の対応として,純粋持株会社の利用がさかんであることと強く関係していると予想される。まず,この予想の正しさを学術的に明らかにする。その上で,親会社が純粋持株会社の場合と親会社自体が事業会社である場合の相違を端的に表現する数理モデルを開発し,企業法制の相違が会計制度に与える影響を考慮した上で,原則主義的なIFRSへのコンバージェンスが日本における会計の機能(利害調整機能と情報提供機能)に与える影響を分析する。その成果を論文にまとめ,研究会・学会で発表し,学術誌に掲載する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際会計基準のコンバージェンスの最近の動向に対応するために,当初の予定していた研究計画を変更したため,研究会・学会での報告の回数が減り,当初予定ほどには旅費を使用しなかったためである。 米国において単体財務諸表が開示されない原因を探るために,政治・経済の情勢や鉄道業への規制,反トラスト法,税法,会社法,証券取引法,証券取引所の規則といった開示に関連する諸制度に関する文献を購入する予定である。必要に応じて米国で資料収集を行なうことも考えている(会計はもちろん,会社法,証券取引法,税法に関する米国の専門家を紹介してもらう準備もしている。)。それらの文献を利用した研究を踏まえて,これまでの研究成果を補強して論文にまとめ,研究会や学会で報告する。そのための旅費として未使用額を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)