2011 Fiscal Year Research-status Report
技術的環境における希薄な身体の身体的基盤―医療と学習の相互行為分析
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23530627
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
西阪 仰 明治学院大学, 社会学部, 教授 (80208173)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 会話分析 / ボランティア / 相互行為 / 東日本大震災 / 原子力発電所爆発事故 / ビデオ / 社会化 / 身体 |
Research Abstract |
2010年10月に科学研究費の申請書を提出したあと,2011年3月に大きな震災と,それにともなう原子力発電所の爆発,炉心溶融という,あってはならい事故を,目の当たりにした.多くの避難者が,合理的な理解を超えた困難を強いらているなか,2011年度は,福島県を中心に,1つのサブ・プロジェクトを展開した. 福島市と郡山市のボランティア・コーディネータおよび各町村の社会福祉協議会の協力のもとに,現地のボランティアと避難者との相互行為(とくに「足湯」ボランティア)をビデオで録画し分析した(およそ70ほどの相互行為を収録し,ほぼ半数ほどのテープ起しが完了している)に焦点を当てた.避難所・仮設住宅という新たな環境(広い意味での技術的環境)における生活上の諸問題がどのように語られるか,ボランティアらがそのような相互行為にどのように「社会化」されていくか,というあたりを明らかにすることを,目指した. おもに2つの点に焦点を当てた.1) 避難者が自ら話題を持ち出すのは,どのようにしてか.2) ボランティアの「共感的反応」は,どのように産出されるか. 前者については,ボランティアの問いかけに対する避難者の短い応答,それに対するボランティアの短い応答のあと,避難者が自らの応答を拡張するという手続きが観察できた.このような手続きは,とくに「足湯」においてはマッサージが「支配的な関与」であるがゆえに有効に働くこと,このことが確認できた. 後者については,共感することが困難であるような,避難者の厳しい体験の語りに対して,ボランティアたちが,直前の発話を飛び越えながら共感する手続きや,個別体験を一般化しつつ共感するという手続きを用いていることが,観察できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災とそれに続く原発事故による避難者と,ボランティアの相互行為に焦点を絞った研究を集中的に行なった.現地のボランティアへの知見の還元をひとつの目標としたため,データ収集,分析,知見のまとめを,急いで行ない,2011年12月までに2つの報告書を公開できた.また,この報告書をもとに,12月23日に福島大学の教室をかりて,現地ボランティアとワークショップも行なうことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
現在,東日本大震災および原発事故による避難者の生活は,(避難所から)仮設住宅と借上げ住宅での生活へのシフトを遂げた.これからは,孤独死など,「仮の生活」に固有の問題がありうる.そのなかで,避難者たちがこの「仮の生活」にどう適応し,またボランティアたちが,このような環境における活動にどう「社会化」していくかが,研究上の焦点になるはずである.予算の続くかぎり補足的なデータ収集も続けながら,このような観点から,仮設住宅における「コミュニケーション・ボランティア」の分析を行なっていく予定である. また,2011年度は,医療にかかわる研究がまったく行なえていない.可能であれば,コミュニケーション・ボランティアと医療の双方にかかわる「在宅介護」における相互行為の研究へと,2011年度の研究を繋げて行きたい.とくに,マッサージ師による「在宅介護」における相互行為を取材し,福島の「足湯」データとつきあわせながら,マッサージとコミュニケーションの関係などを考えられるとよいと思う.在宅介護は,今後,社会の高齢化が進むにつれ,ますます重要な課題となるので,なんとか実現させたいと考えている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2011年度に,機器の整備と,福島におけるデータ収集は,かなり行なえた.2012年度は,福島におけるデータ収集は最低限におさえ,分析作業に集中したい.とくに,いくつかの国内外の学会での研究報告も予定しているので,(2011年度の中間報告を展開した)研究成果のまとめを着実に行ないたい.出張旅費は,おもに学会出張のために使う予定である. また,在宅介護の調査を行なうとしても,東京での取材なるため,旅費はかからない.調査参加者・協力者への謝礼がある程度必要になる.
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