2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530688
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
尾崎 寛直 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (20385131)
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Keywords | 被害補償 / 長期的健康影響 / 予防原則 / 放射線被ばく |
Research Abstract |
第3年度にあたる平成25年度は,結論から述べると,前年度から新たに取り組み始めた現地調査の知見も集積し,比較検討を通じた研究成果を学術雑誌に公表することができた。しかしながら,放射能汚染の被害地域(福島県内の各地域はもとより広島・長崎でも訴訟が継続)の動向が刻一刻と変化しているため,本研究の最終的な成果をまとめる上では当面継続的なフォロー調査が必要であると考えている。 現地調査の対象に関しては,具体的に福島第一原発事故被災地域における放射線被曝による健康被害の可能性、健康不安等について,とくに強制避難地域の避難住民の「帰還」の是非をめぐる意識,区域外避難者(自主的避難者)及び現地滞在者の不安の意識,などの背景に長期低線量被曝についてのリスクマネジメントの課題が存在するといえる。放射線被ばくの長期的健康影響とそのための救済制度については,広島・長崎および,第5福竜丸事件,鳥取・人形峠ウラン残土事件,JCO臨界事故,の事例が参考になり,これらの地域にも24~25年度にかけて被害実態と補償・救済の現状把握のために現地調査を行ってきた(そのための費用は,科研費以外にも所属大学の研究及び民間財団からの助成金を一部充てている)。そして,今後はさらに予防原則に基づく被害の未然防止のための制度づくりも必要であり,次年度の課題である。 次年度(26年度)が本研究の最終年度であり,これまで集約してきた各事例の知見を総合して研究報告をまとめ,公表し,政策提言に結びつけていくことが課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度までに,おおよそこの研究の素材となり得る研究対象については少なくとも一度は現地調査を含めた情報収集,資料渉猟および一次資料の発掘を行うことができた。研究途上で3.11の「原発震災」が起こってしまったため,当初予定していた広島・長崎の原爆被害に加えて福島第一原発やその他の放射能汚染事件も対象に加えることとなり,ボリュームとしてもこの部分が当初の予定よりも比重を増してきたことは事実である。しかしながら,今後,予想される膨大な数の被害者の補償・救済問題にこの研究成果が多少なりとも示唆を与えられるような貢献をできなければ研究を残していく意義が薄れるのではないかという思いから,多少の比重の変更はやむをえないものと考えたい。 ただ,この間すでに大気汚染問題と水俣病,薬害,カネミ油症などの比較研究は関係者との比較研究および現地調査を通じて知見を集約し,一定の研究成果も公表してきているので,むしろこれらの事件との問題構造において共通性の多い原発事故による放射能汚染をも検討に加えることで,より普遍的な補償・救済制度の構想が可能になると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の到達点をふまえて,次年度は最終のまとめの年度として,研究範囲を広げることはせず,一部フォロー調査を継続する程度に留め,これまで収集してきた一次資料の分析と現地ヒアリング等を通じて得た一次情報との突き合わせ,などを行いながら研究成果のまとめを行っていく予定である。 なお,福島第一原発事故の放射能汚染事件の補償あるいは賠償については,事態が進行中であり,訴訟も次々と勃発している状況であることから,その訴訟等にかかわる弁護士らとの意見交換が必要と考えている。すでに筆者は,25年度よりそうした各地の弁護士らと筆者も所属する研究者集団との間で立ち上げた「原発賠償研究会」に加わり,意見交換と情報収集を重ねている。この成果も活きてくると思われる。
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