2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530691
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 准教授 (90292466)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 外国人問題 / 文化的差異 / 多文化社会 / 市民的統合 / 移民政策 / ドイツ / 主導文化 |
Research Abstract |
今年度は主として,1980年代における「外国人問題」と2000年代における「移民問題」「統合問題」をめぐる政策と公共的ディスコースの比較を行った。 1980年代には,庇護権請求者の増大や外国人労働者の定住化が移民排斥運動を惹起し,「外国人問題」が広く公共の場で論じられるようになった。そこで連邦政府の政策方針は,(1)これ以上の移民の流入を制限し,(2)すでに定住している外国人には平等な機会を提供し,(3)希望するものには帰還を援助するというものだった。他方,左派リベラル系の勢力からは,外国人との「共生」により「多文化社会」を実現することが,ドイツの民主主義の発展にとって重要な課題であると主張した。反移民の右翼勢力,連邦政府,親移民の左派リベラル勢力はそれぞれに異なった主張を掲げるが,全般的に共通しているのは「外国人」と「ドイツ人」の文化的差異の自然性を前提としていることだった。これをこの研究では「文化的差異のディスコース」と呼んだ。 しかし,2000年に新しい国籍法が施行されて以後,2000年代に移民をめぐる政策やディスコースは大きく転換した。先ず「外国人」という呼称が使用されなくなり,「移民」や「移民の背景を持つ人々」という呼称が広く用いられるようになる。そして,移民のドイツ語の習得とドイツ社会の価値や規範への適応を促進することが「統合」政策の大きな課題と見なされるようになる。その「統合」をめぐる論争では,「外国人」と「ドイツ人」の本来的差異ではなく,移民系住民が現住ドイツ人とが同じドイツ社会の成員として共有すべき共通の言語・法秩序・価値観への志向が際立っている。それは保守系勢力が主張する「主導文化」概念にも,また左派系勢力が重んじる憲法的価値(憲法パトリオティズム)にも見てとることができる。それをこの研究では「市民的統合のディスコース」と呼んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究の主たるテーマは,移民が定住化し,国籍を取得し,移民第二世代以後が増加し,彼等がドイツ社会の中に統合されていくことによって,ドイツ社会の国民的自己理解がどのように変化したのかということである。今年度の研究では,いまだこの問題に対する最終的解答に到達したわけではない。しかし,1980年代における「文化的差異のディスコース」と2000年代における「市民的統合のディスコース」との違いを明らかにすることができた。この違いは,1980年代から現在にかけてのドイツ社会の自己理解の変化の一端を示すものと考えることができる。その点において,今年度の研究成果は,本研究の目的に向けて着実に前進しているものと評価することができる。 また,資料収集・調査の面でも,1980年代の「外国人問題」に関する多くの既存文献を読破することができ,また,新聞・雑誌の記事を収集し,連邦議会・連邦参議院の議事録も通読することができた。特に,各州の州議会の議事録から,この時代「外国人問題」に深く関わっていたのは,連邦よりもむしろ州であることが明らかとなった点は有益であった。また,図書館が所蔵するデータベースを利用して,2000年代のドイツの主要新聞の記事を詳細に検討することができたことも,重要な成果であった。 なお,今年度は研究成果を論文や学会報告で公表することができなかった。これは英語の学術雑誌に論文を投稿したが,残念ながら査読を通過しなかったからである。次年度はぜひ成果を公表したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性は次の5つである。第一は,ドイツ連邦共和国建国から1970年代までの移民政策を検討することである。特に民族的ドイツ人を中心とした「被追放者」や「アウスジードラー」の受け入れ政策がドイツ社会にとって持った意味,基本法における庇護権規定が持つ意味,1950年代における外国人労働者受け入れをめぐる政策決定等がある。それが1980年代以後,どのように変化していったのか。第二は,1980年代の労働組合やキリスト教系の福祉団体や地方自治体における外国人統合政策,特に「多文化社会」政策や「間文化教育」などにおいて,「文化的差異のディスコース」がどのように実践されていたのかという問題である。第三は,現在の統合政策において「市民的差異のディスコース」がどのように実践されているのか。第四は,現在ヨーロッパ全体で高まっている右翼ポピュリスト的反移民運動(これは「極右」とは異なる)は,ドイツでどれほどのポテンシャリティを持っているのか。そして第五は,連邦共和国初期から現在に至るまで,移民政策をめぐるドイツ社会の自己理解がどのように変化してきたのかという本研究の中心的問題を概念化する用語を開拓していくことである。 また,このような課題に関するさらなる研究を重ねた上で,次年度はぜひ論文という形で研究成果を公表していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費50万円うち約40万円が,資料収集のためのドイツへの渡航・滞在費に当てられる予定である。行き先は今年度と同様,ベルリンの州立図書館を利用する予定である。 残った金額は,ドイツの移民問題,統合問題に関する書籍の購入に当てる予定である。
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