2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530691
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 准教授 (90292466)
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Keywords | 移民 / 統合政策 / 右翼ポピュリズム / ティロ・ザラツィン / 国家 / 社会的セキュリティ / 反イスラム |
Research Abstract |
2012年度は、2010年に当時の連邦銀行の理事であり社会民主党員でもあったティロ・ザラツィンの書いた『ドイツは消滅する』の出版をきっかけに起きた移民統合(特にイスラム系移民の統合)をめぐる論争(「ザラツィン論争」)を検討し、ドイツ社会の右翼ポピュリズムと排外主義の状況について考察した。 21世紀に入って、ヨーロッパでは反移民・反ヨーロッパ統合を掲げた右翼政党が支持を延ばしている。「右翼ポピュリズム」と呼ばれるこれらの右翼政党は、その主張の内容(露骨な人種差別主義を標榜せず、「民主主義のルール」や「ヨーロッパ文明の尊重」を強調し、「国民の優先」を主張して移民に統合を強要する)と政治スタイル(「エスタブリッシュメント」を批判し一般民衆の支持に訴える)において、旧来の「極右」や「ネオナチ」とは異なっている。フランスの人民戦線やオランダのピム・フォルタイン・リスト等がその例である。隣国のフランス、スイス、ベルギー、オーストリア、オランダ等とは異なり、ドイツでは有力な極右ポピュリスト政党が見られない。しかし、ザラツィンの主張に対する国民的支持の広さに見られるように、それは決してドイツにおける右翼ポピュリズムの不在を意味するものではなかった。隣国と同様、ドイツでもイスラム系移民に対するドイツ文化への統合要求は強くなっている。(例えば、トルコ系移民のドイツ語能力の低さが問題にされたりする。) 本年度は、このようなヨーロッパ全域における右翼ポピュリズムの拡大を、国家の機能不全から来る社会的セキュリティ不安の増大がもたらしたものであるという仮説を、国家の社会学的検討等を通じて展開させた。その成果は、近々学術雑誌に出版される論文と、今準備しつつある単著『国家の社会学』(仮題)として公表する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、移民統合によるドイツ社会の自己理解の変化を、ヨーロッパ全体における移民統合問題の中に位置づけて考察した。そこで現在、ヨーロッパ全域で広まっている右翼ポピュリズムに注目し、右翼ポピュリズムの社会の中核(保守政党の支持層から労働者階級までを含む)への拡大を、アメリカの社会学者メーベル・ベレジンの用語を借りて「右翼のノーマル化」ととらえてみた。その上で、ドイツにおける「右翼のノーマル化」はどのような状況にあるのかという視点から、2010年以降の移民統合をめぐる公的議論(特にザラツィン論争)を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は最後の年として、大きく二つの残された課題がある。 第一は、戦後のドイツの移民政策を総体的にとらえ、それとドイツの国民的自己理解との関係の変化を考察してみることである。 第二は、前年度研究した「右翼のノーマル化」という問題を、ドイツの国民的自己理解の関係の中で再考察してみることである。 その二つの課題を検討しながら、戦後のドイツの移民政策とドイツの国民的自己理解に関する包括的な研究書を単著として出版することが、今後の目標である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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