2013 Fiscal Year Research-status Report
抑圧を焦点とするクリティカル・ソーシャルワークの理論と実践
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23530734
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
田川 佳代子 (沖田 佳代子) 愛知県立大学, 教育福祉学部, 教授 (10269095)
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Keywords | ソーシャルワーク / クリティカル・ソーシャルワーク / 抑圧 / 実践 / 理論 / 批判理論 / 解放 / 主体 |
Research Abstract |
平成25年度に実施した研究の成果は、カナダやオーストラリア、イギリスで形成され、我が国ではあまり一般化していないクリティカル・ソーシャルワーク実践の理論的な素描を行ったことである。クリティカル・ソーシャルワークは、これまでの伝統的なソーシャルワークが統一的な体系モデルを探求してきたのとは異なり、構造的、ラディカル、進歩的、反抑圧的など、多様な名称と多様な視座を包含し、唯一のモデルを志向するものではないと考えられる。「クリティカル」という用語は、批判理論からの援用であり、主体性とマルクス主義の要素の統合を企図し、社会変革の過程に積極的に参与する人々の主体性と能力を再評価しようとするものである。クリティカル・ソーシャルワークと批判理論の関係についてはもはや緊密な提携関係にはないといわれながらも、批判理論はクリティカル・ソーシャルワーク実践の基礎を織りなす知識や価値をもたらし、主流のソーシャルワークとの違いを説明する根拠に寄与している。とりわけ批判理論は、実践的意図をもつ理論とされ、世界を理解しようとするのみではなく、世界を変えようとする解放のビジョンを備えていることに注目する。クリティカル・ソーシャルワークにおいては、抑圧的な現状についての意識化と、質的に異なる未来社会に対するビジョンを前提として、人々の主体的な能力と行動による創造性を志向する実践がめざされる。抑圧の一形態にのみ傾注するというよりかは、多様な抑圧の形態と同盟関係を育み連帯し、それゆえクリティカル・ソーシャルワークは多様な視座の交差点に立つ実践と認識される。クリティカル・ソーシャルワーカーは、抑圧された人々とつながり、その集団の社会的同一性にコミットメントしながら、人々が置かれた状況を変えるために行動すると理解される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の全体構想は、グローバル化が進展するポスト福祉国家の脈絡において、多様な諸問題をもつ人々にコミットメントをもつソーシャルワークについて、その理論的枠組みを再考・再編することを目的としている。今年度までに、オルタナティヴなソーシャルワークを構成する一要素であるクリティカル理論について検討し、モダニスト・ポストモダニストの反駁する視座が存在する点について扱ってきた。個人的諸問題を構造的な不正義の結果と捉える構造的アプローチへのクリティカルな省察とともに、ポスト構造主義の主体に関する理論的基礎について、掘り下げて考察することが課題である。抑圧の構造、フェミニスト・アプローチからの正義論やケア論の検討を踏まえ、ソーシャルワークの理論的枠組みを再編成する要素の検討が引き続き課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進の方策として、今年度行ったクリティカル・ソーシャルワーク実践の理論の素描をさらに掘り下げ、クリティカル理論において、階級や民族、ジェンダーや障害のあらゆる形態に共通する抑圧と支配の構造的諸問題を普遍的現象とするモダニストの立場と、それとは一線を画し、異なる脈絡、異なる場所、異なる人々に、異なる経験がなされると主張するポストモダニストの立場とこの両者の関係について考察を深めていく。主体性subjectivityの概念について、抑圧の構造、フェミニストの正義論とケア論の先行研究を整理しながら、クリティカル・ソーシャルワークの理論的再編の重要な鍵となる構成要素を明らかにする。文献研究とフィールドワーク資料に依拠しながら進める予定である。研究成果の公表として、投稿論文とホームページの作成を遂行する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
クリティカル・ソーシャルワークの基礎的な仮定には、モダニズム、ポスト構造主義、ポスト植民地主義、ポストモダニストの思想が混在し、それぞれの思想学派における概念の再検討が必要とされる。また、その理論的視座は、構造理論、フェミニスト理論、現象学、社会構成主義を包含する。さらに、多様な抑圧の形態への関心、抑圧の構造、フェミニストの正義論とケア論の議論を含め、膨大な先行研究の整理が必要であり、それに時間を要した。文献研究を踏まえ、フィールドにおける実践との照合作業も残る。このため研究成果の発信まで至らず、使用額が生じた。 まず、クリティカル・ソーシャルワークの理論的再編の主要な構成要素を明らかにするために、残された課題の整理を文献研究によって進める計画である。追加で必要となる文献資料の収集のための費用として使用する。次に、理論研究とともに、フィールドワークによる資料の収集と分析を行う計画であるが、そのために必要となる費用として使用する。さらに研究成果の公表として、投稿論文とホームページの作成を行う予定で、そのための費用として使用する。
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