2014 Fiscal Year Research-status Report
抑圧を焦点とするクリティカル・ソーシャルワークの理論と実践
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23530734
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
田川 佳代子(沖田佳代子) 愛知県立大学, 教育福祉学部, 教授 (10269095)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | ソーシャルワーク / 抑圧 / 社会正義 / クリティカル / 理論 / ケアの倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会正義の思想は,正義の諸概念や諸構想に依拠する.どのような正義の構想に依拠するかを曖昧にすることは,実現しようとする正義を玉虫色のものにする.ソーシャルワークが擁護すべき社会正義とは何か.ソーシャルワークにおいて実現しようとする正義は何であるか.社会正義の広範な理論の検討を踏まえ,議論の輪郭を描くことを課題として実施した. 政治哲学者アイリス・マリオン・ヤングは,正義論を財の公正な配分に限定するロールズの議論を批判し,正義を制度化された支配と抑圧の除去として構想した(Young, 1990:15). ヤングのプロセスの正義は,ソーシャルワークの思想や実践にも影響を与えた(Caputo,R.K, 2002:358).彼女の主張は,配分の正義を重要としながらも,正義の範囲はそれを超えたもの,制度的組織のすべての諸側面まで拡張し捉えられる政治的なものと考えられる.ロールズとは対照的に,ヤングの社会正義の見解は,資本主義とその本質的に不公正な社会的・経済的諸関係の明白な批判に基づくものである.このアプローチは,結果に焦点をあてるのみでなく,社会的配分の諸問題に関して意思決定に参加するプロセスを追求するものである(Caputo,R.K, 2002:358). 配分的正義の議論を乗り越え,現代のソーシャルワークに要請されている抑圧や支配を除去し,搾取や社会的不正義を克服するのにふさわしい,ソーシャルワークにおける社会正義の諸概念や諸構想とは何か,その輪郭を把握しようとした。ソーシャルワークの理論的変遷を辿りつつ,ソーシャルワークの社会正義への責任と応答の努力の一方で,他方からは,ポスト近代,ケアの倫理,反抑圧といった新たな社会理論からの異議申し立てがある状況を論じた.社会正義を実践するソーシャルワーク活動の状況にある関係性,特に,力と理解されるものの考察とその倫理的使用についての検討が課題として導かれた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題に掲げる「抑圧」「クリティカル・ソーシャルワーク」に関する理論研究を先行して行うなかで、どのような正義の諸概念や諸構想に依拠するのかを検討しておくことが必要となり、そのために多くの時間を割いた。この理論的研究は、論文としてとりまとめ、所属学会に投稿し、掲載可の評価を得て採択され、研究成果の公表につなげられた。研究計画全体からみれば、理論的検討を踏まえて行う実践研究がその途上の段階にあるため、この過程をさらに進め、完成させたいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題において焦点とする「抑圧」を取り扱うために、クリティカル・ソーシャルワーク、正義論を調べてきた。政治哲学者アイリス・マリオン・ヤングによる正義の構想、すなわち、制度化された支配と抑圧の除去(Young, 1990:15)として構想される正義論は、ソーシャルワークにおいて「抑圧」を見据え実践する活動を下支えするものであると考えられる.ソーシャルワークにおいて抑圧を焦点とすることの意味、何をめざし、何を根拠に、実践するのか、検討を進める。抑圧を焦点とする実践がどのように構成されるのか、どのような相互作用が生じるのか、そこで働く力はどのようなものなのか、理論と実践を結びつけながら、研究を推進する。
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Causes of Carryover |
研究課題である、「抑圧」「クリティカル・ソーシャルワーク」に関する理論研究を先に進め、どのような正義の諸概念や諸構想に依拠するのかの検討で一定の結論を得ることを優先した。その結果、研究計画で位置づけた実践の場における研究が遅延した。「制度化された支配と抑圧の除去」(Young, 1990:15)として構想される正義論という立場を選択・決定するところまでたどり着く必要があったので、構想した実践の研究をすべて終わらせるところまでいけなかった。社会正義を実現するソーシャルワーク実践の活動の場の観察を通して、どのように実践が構成され、相互作用が生じているのか、実践研究を遂行するための経費が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により、さらに必要な文献を購入するための物品費、実践の場の研究のための調査にかかる旅費、調査にかかる研究協力者への謝金、テープ起こしの研究補助の人件費、論文作成にかかる英文校正費および英語翻訳費、等を計上する。
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